女子ワールドカップ(W杯)は男子と比べて歴史は浅く、第1回大会が行われたのは1991年だ。

今年7月20日から開催される、9回目となる大会は、女子W杯と初となる南半球オーストラリアとニュージーランドでおこなわれる。

“なでしこジャパン”はグループCでスペイン・コスタリカ・ザンビアと対戦。上位2カ国が決勝トーナメントに進出する。

2011年大会で日本中が歓喜に湧いた決勝は、8月20日、シドニーにあるスタジアム・オーストラリアで行われる。

W杯史上最多6大会出場を誇る女子サッカー界のレジェンド・澤穂希さんは、前編で、カタール大会を見て改めて感じた「結果が全て」という思いと、2011年の優勝時のチームについて語った。

後編では、“なでしこジャパン”の現在地と、あと数ヶ月に迫った戦いに向けすべきこと、更には注目選手について聞いた。

勝ち切ることが大切、やるべきことはある

――アメリカ遠征では世界ランキングで上位の3カ国、ブラジル・アメリカ・カナダとの対戦。澤さんの目にはどう映った?
アメリカとかブラジルといった強豪国に、いい試合、いいサッカーができていても、勝ちきれないというのは、正直今のなでしこジャパンの課題ではあると思います。

良かった点では、東京オリンピック金メダルのカナダに勝ち切れたこと。とにかく内容ももちろん大事ではありますけど、勝つこと、カナダ戦の試合終了後のみんなの笑顔は、みんなが頑張ってきた結果だと思うので、とにかく結果にこだわってほしいと思います。

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――去年のヨーロッパ遠征からアメリカ戦まで、4試合無得点の試合が続き、苦しい試合も続いたが、女子サッカー界における“なでしこジャパン”の現在の立ち位置は?
ランキング上では11位、アジアでも北朝鮮に次ぐ順位です。なので正直まだまだやるべきことはたくさんありますし、何より強豪のヨーロッパやアメリカに勝てないと駄目だと思います。

――3バックなど様々なシステムも試しながら本大会への準備を進めている。
大会を前にして色々なシステムは試しておくべきだと思います。

急に試合でやれと言われても難しいと思うので、どのシステムをやるかというのも相手によって変わってくるし、選手もコンディションによって変わってくると思うんですけど、今はもうチャレンジの時期ではないとはいえ、やるべきことはやりきらないといざ本番の時にできるかっていう心配もあります。

今はDFライン3枚だったり、やれることの種類がたくさんあったほうがいいと思うので、挑戦することはいいと思います。

当時の若手メンバーが、現在のチームの中心に

――なでしこジャパンも海外でプレーする選手が増えてきている。この現状は?
日本だと自分の言語で喋って色々とできることが、海外では言葉も覚えないと伝わらないですし、全部自分でやらないといけない。精神的には強くなると思います。

さらに練習でも体の強い、フィジカルの強い相手と、スピードのあるチームメイトと対戦したり、試合をするというのは、体が慣れますから。国際試合をやった時に日ごろからの慣れがあるということは、強みかなって思いますね。

ただみんなで一緒にやれる期間が少ないからこそ、難しさも感じたりしますけど、私は海外にいって心も体も一回りも二回りも強くなる、大きくなるというのはいいチャレンジだし、良いことだと思います。

澤さんが掲げたW杯トロフィー
澤さんが掲げたW杯トロフィー

――澤さんの時のように、なでしこジャパンが再び世界を駆け上がっていくためには?
チームの連携や連動の部分ではまだまだ質は上げていかないとダメだし、守備でも誰がどこでスイッチを入れるかというのが結構バラバラなところも、画面から通して感じます。

もう少しチームコンセプトとして決め事ははっきりしないといけない部分はありますし、攻撃も自由な部分が多いですが、パターンを決めることも必要になってくるかと思います。

とにかく連携・連動の部分ではもっともっと質を上げていかないとダメかなとは思います。

――連携・連動という部分では澤さんとも一緒にやっていた時若手だった熊谷紗希選手・岩渕真奈選手がベテランとしての役割を担っている。
(岩渕は)一番下の10代の選手、紗希は20歳でしたけど、その選手が今はチームの中心、キャプテンになってやっている。
凄く成長を感じた12年でしたし、あの子たちは「先輩たちについていくのに必死」って言っていましたし、そういう頑張っていた選手が、「今はみんなを引っ張る立場になって、凄く難しさを感じる」ということは言っていました。
「どうやってやったらいいのかな」とか、「2011年のチームを見ているからこそ難しい」とも言っていましたね。

でも同じチームにはできないので、今ある人、今ある選手、今あるチームで、100%のチームにできるように今頑張っていると思います。

――色々なものを抱えながらプレーしている?
そうですね。でもそれを紗希とか岩渕だけの負担にするんじゃなくて、みんなが同じくらいについて行ったり、支えあったりっていうのができればいいかなとは思うんですけど…、なかなかチームって難しいんですよね、一つになるというのは。
でもその中でも、そのチームのベストが作れればいいのではないかと思います。

――メンバー選考はこれからだが、注目してほしい選手、期待する選手は?
なでしこの全員に期待しています。強いて言えば植木理子選手。4年前W杯ギリギリで怪我をしてしまってW杯に出場できなかった悔しさを持っていて、その思いを抱えながら4年間頑張ってきて今があるので、その悔しさを今大会で出してほしいと思うし、結果を出してほしいと思います。

彼女が「私は器用じゃないんで、気持ちで頑張る選手」と言っていて、私もそういう選手だから、技術云々より気持ちで、チームが苦しい時に絶対に点を取るとか、そういう強い思いや、「絶対入れる」「結果を出す」という選手なので、そういうところは彼女に期待したいなって。

もちろんなでしこの皆さんにも期待しています。

サッカーを“好き”“楽しむ”気持ちを表現して

――若手選手もどんどん台頭してきた。
彼女たちの気持ちも凄く分かります。

自分も15歳の時に日本代表選手に選ばれて、上に凄い先輩方がいて、その時も無我夢中というかガムシャラにやっていました。今の若い選手たちもガムシャラにやっていると思うし、年齢はグラウンドでは関係ないと思いますし、逆に若いから出来ることってありますから。

そういうところをノビノビとあまり委縮しないで、「これがダメ」とかじゃなくて、ノビノビ自分の大好きなサッカーをグラウンドで表現して欲しいなと思います。

――改めて今の代表に期待することは?
池田監督がチームを仕切ってやってくれていると思うので、何よりも選手が今までやってきた事
全てをグラウンドで表現することと、何より「みんなサッカーが好きでやっているんだよね?」とていう“好き”“楽しむ”という事をやってほしいと思います。

W杯って本当に選ばれた人しか出られない大会ですし、4年に1回ですし、サッカー選手だったら一度は夢見る場所であると思うので、いろんな思いを背負いながら、選ばれた選手には今持っている全てを、ベストを尽くしてほしいと思います。

――コロナが収束に向かっている中での大会、より一層盛り上がりそう。
声出しも緩和されてきていますが、応援されるためにはやっぱり結果が全てで。男子もそうでしたけど、見て感動したり、一緒に私も戦っている感覚だったんですよ。

だから見てもらう人にも一緒に戦ってもらえるように、選手はグラウンドで表現することが役割だと思うので、私は全力で応援したいと思います。
 

澤さん・宮間さんと、2月アメリカ遠征時のなでしこジャパンメンバー
澤さん・宮間さんと、2月アメリカ遠征時のなでしこジャパンメンバー

清楚で凜とした美しさを持つ日本女性をたたえる言葉「大和撫子」に、世界で羽ばたく意味を込め
名付けられた“なでしこジャパン”。

カタールでサムライブルーが起こした熱気と歓喜。

なでしこジャパンも、サムライブルーと変わらないポテンシャルを持っている、そう信じている。

再び世界へと羽ばたいていく彼女たちの雄姿を見届けることはできるのか?

世界中のどこよりも熱気が高まる事を、その中心になでしこジャパンがいること、それを画面の向こうでも味わえることを願いたい。


澤穂希
15歳の時に日本女子代表に初選出。
2011年ドイツで行われたFIFA女子W杯では、キャプテンとしてなでしこジャパン初優勝に貢献、MVPと得点王に輝く。同年度にFIFA女子年間最優秀選手を受賞。
4度のオリンピック出場、6度のW杯に出場。
日本代表通算205試合83得点は共に歴代1位。
2015シーズンをもって現役を引退。

LIFE WITH FOOTBALL
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