鎖国時代、海外との唯一の窓口だった長崎・出島。その出島と対岸の市街地をつないでいた唯一の橋「出島橋」が撤去され、約130年ぶりに、出島の中央に新たに「出島表門(おもてもん)橋」が架けられた。出島の新たなシンボルとなった「出島表門橋」と川を見つめると、橋の設計者やそこで暮らす人々のまちづくりへの深い思いがあった。

“はしふき活動”で愛着を生む

はしふき活動に参加する人たち
はしふき活動に参加する人たち
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午後6時前、長崎市街地の中心部を流れる中島川が長崎港に流れ込む下流域に集まってきて、出島表門橋の欄干や、周辺の公園の手すりの拭き掃除を始める人たち。雨上がりのこの日、122回目となる「はしふき活動」には、20人余りが参加した。

「DEJIMABASE」が用意した雑巾
「DEJIMABASE」が用意した雑巾

「はしふき活動」は、出島表門橋の設計に携わった会社員の江口忠宏さんなど「DEJIMABASE(デジマベース)」が呼びかけ、2018年に始まった。「DEJIMABASE」は、出島表門橋架橋プロジェクトの設計チームがコアメンバーとなって立ち上げた市民団体だ。雑巾などは江口さんたちが準備するため、手ぶらで来て自由に参加できる。月2回の「はしふき」活動は、2023年で5年目だ。

5年目を迎えたはしふき活動
5年目を迎えたはしふき活動

参加者:
職場が近くにあって(はしふき活動を)やっているのは前から知っていた。きょうも通りかかったら活動していたので

参加者(3回目):
お母さんから誘われて楽しかったので。この風景になじんでいて、いい橋だと思います

東京から仕事で来ていた参加者
東京から仕事で来ていた参加者

東京から仕事で来ていた参加者: 
地元の人がこうやってはしふき(活動)に参加して支えているのが、すてきだなと思って

息子を誘った母親(3回目):
出島自体が、鎖国の時代に開かれていた場所で大好きな場所。そこのはしふきの活動を知って、ぜひやってみたいという、もうその思いだけです。気持ちいいです。すがすがしい感じで

62回目の参加者:
いつもここ(中島川)でカヤックに乗っているんです。(この橋は)出島の景観を壊してない。目立つようで目立たないのでいいですよね。

「はしふき」をする江口さん
「はしふき」をする江口さん

DEJIMABASE・江口忠宏さん:
(橋の)開通で長崎市民、僕らに渡されたあとに何をしていこうかって考えた時に、“雑巾で拭く”っていう行為が、愛着を生む事につながりそうだったので雑巾掛けしようよ

架橋に立ちはだかる課題

2017年11月24日、長崎市の国指定史跡「出島和蘭(オランダ)商館跡」と対岸の江戸町を結ぶ「出島表門橋」が完成した。鎖国時代、海外との唯一の窓口だった出島と対岸の市街地をつないでいた唯一の橋「出島橋」が撤去されて、実に約130年ぶりのことだった。

時代の新たなシンボルとなった「出島表門橋」だが、架橋に至るまでには紆余(うよ)曲折があった。1982年の長崎大水害では、中島川にかかる石橋の橋脚が水の流れを阻み、浸水被害を大きくした。

復元された眼鏡橋
復元された眼鏡橋

中島川にかかる石橋は大きな被害を受けたが、川沿いに暮らす地元の人を中心に「石橋」での架け替えを望む声は根強く、眼鏡橋と袋橋は、中島川の両側にバイパスを設けて流れを分散させることにより、かつての石橋の姿に復元された。

はしふき活動の参加者:
眼鏡橋と袋橋(が復元され、川沿いに)公園がなかったら、拡幅していたらあそこは人が集まる場所ではなかった。地元の人もジョギングしたり、散歩したり、有効に使われてますよね

「出島にかかる新たな橋を、鎖国当時の石橋で復元してほしい」。長崎市民の多くがそう望む一方で、「出島表門橋」架橋には、さまざまな難題が立ちはだかった。

かつての出島橋の石橋の長さは4.5メートルだったが、明治期に、川の入り口に土砂が堆積するのを防ぐため、変流工事により出島の一部が削られ、表門の前の中島川の川幅は30メートルへと広がったが、「出島表門橋」は水害対策のため、川の中に橋脚を立てることは許されなかった。

さらに、国指定史跡である「出島」を守るため、出島側に橋の土台を築かないなどの制約も課せられた。そのため、「出島表門橋」は、石橋そのものの復元はかなわなかった。そうしてできたデザインに、地元説明会では橋の設計者に厳しい声が浴びせられた。

出島表門橋の設計者・渡邊竜一さん:
(地元の人に)僕らはこんなもの自分の町のものだと思わないから、こんなの作るのやめてくれ(と言われた)

橋を架ける過程もイベントに

さまざまな人へのインタビューで構成された映像
さまざまな人へのインタビューで構成された映像

出島表門橋の設計をきっかけに、渡邊竜一さんは長崎大水害から40年の2022年、水との共生を考える映像の製作を県に提案した。中島川沿いに暮らす人や行政、専門家、さまざまな立場の人のインタビューで構成されている。

出島表門橋の設計者・渡邊竜一さん:
あ、そうか、このままじゃダメなんだと思って、そこから少しずつ「じゃあ自分が何ができるんだろうか、橋の形を変えることではなく、批判する人たちの思いと、批判する人たちと向き合っていくためにどうしたらいいんだろうか」って。

橋を架ける過程のイベント
橋を架ける過程のイベント

新しい橋を地域に根づかせるため、渡邊さんがまず考えたのが、橋を架ける過程もイベントにし、見てもらうこと。そして、架橋後のはしふきの活動にも積極的に関わっている。

「はしふき」をする渡邊さん
「はしふき」をする渡邊さん

1日1日朽ちていき、姿を変え続ける橋。橋を拭きながらはげた塗装もチェックすることで、少しでも長持ちさせられるという。渡邊さんは、年に何回かは東京から来て参加していて、この日が20回目だ。

出島表門橋の設計者・渡邊竜一さん:
当時とは違う形で、中島川沿いにかかってる橋が違った風景を作っている。ずっとこう川沿いを歩いていて僕は楽しいですし、この橋が、いずれ長崎の人に自分たちのまちの橋だと思ってくれる人が1人でも増えたらいいと思う

「出島表門橋」は、鎖国当時の石橋での復元はかなわなかったものの、発掘調査をもとに特定された昔の橋の位置に架橋された。130年の時を超えて、再び現代によみがえった出島と市街地を結ぶ新たな橋が、まちと人を結ぶどんな懸け橋になるのか、その”在り方”の1つの活動が注目される。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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