「社会的ファッションデザイナー」。自らをそのように形容する鶴田能史さんが2023年6月23日、沖縄戦による旧日本軍の組織的戦いが終結したとされる「慰霊の日」に平和への願いを込めたファッションショーを開催する。
なぜ、戦没者の鎮魂の日である慰霊の日にファッションショーを開催するのか、そこには鶴田さんの確固たる信念がある。
千羽鶴を素材として取り入れたドレス
鮮やかな色彩が目を引く独創的なドレス。
ドレスの素材に使われているのは、広島・長崎・沖縄に世界中から届けられた“千羽鶴”。
手掛けたのはファッションデザイナーの鶴田能史さん。
2023年4月4日、沖縄県庁で開いた会見で鶴田さんは、「平和を願うファッションショーの主役は子どもたち」「沖縄で開催する意図は2度と争いを起こしてたらいけない。平和をどのように育んでいくかこのショーで見出すことができれば」と力強い眼差しで趣旨を説明した。
なぜファッションを通じて平和への思いを発信するのか
1981年に千葉県に生まれた鶴田さんは県立木更津高校を卒業後、文化服装学院に入学。
卒業後に日本を代表するデザイナー・コシノヒロコに師事し腕を磨く。
2015年に自らの事務所を設立し、これまでに北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督、LUNASEAのSUGIZOさん、元大関小錦さんなど著名人の衣装を手掛ける。
鶴田さんがファッションショーで“平和”を扱ったのは2015年に遡る。
テーマ「1945」と題し、平和へのメッセージを発表したことで国の内外を問わず注目された。
なぜ、ファッションを通じて平和への思いを発信したのか…
鶴田さんは沖縄県庁での会見で自らの思いを説明した。
Tenbo代表デザイナー 鶴田能史さん：
デザイナーになる前から歴史に興味があり、社会科の授業だけでなく、テレビや映画、時には資料館にも訪れ戦争を見つめた。それを見ても何もできない自分がただただ悔しいというのがずっとあった
転機となったのが戦後70年を迎えた2015年。この節目を逃してはなるまいとデザイナーとして平和へのメッセージを発することができるのではないかと考え、ダメ元で取り組んだことが大きな反響を呼んだ。
原爆・沖縄戦を伝えていくことは日本人としての使命感
大きな反響と手ごたえに鶴田さんは、2019年から2022年にかけて広島と長崎で原爆が投下された8月6日と8月9日の当日に、平和を願うファッションショーを開催する。
鶴田さんは原爆の映像をショーで使いたいと考え、アメリカ・スタンフォード大学に掛け合うなどショーを成功に導くべく活動する。
ショーに登場するドレスは、平和資料館に寄贈され展示期間を過ぎた千羽鶴をデザインとして取り入れた。また、ランウェイにも折り鶴を活用した。
広島で初めて平和を願うファッションショーを開催した時のことを鶴田さんは次のように振り返る。
tenbo代表デザイナー 鶴田能史さん：
広島にとって重要で大切な日。鎮魂のメッセージもある覚悟をもってやるのだがそれが正解なのか、間違いなのかびくびくしていた。しかし被爆者からの理解があったり、このようなイベントが8月6日にあってもいいよという後押しがあって開催ができた
ショーが終わったあとにかけられた言葉が力となり、更なる原動力になったと懐かしむ。
tenbo代表デザイナー 鶴田能史さん：
子どもたちだけでなく親御さんからも、辛い歴史を思い返す日だけでなく、未来に繋がるほほえましい日になって新鮮だったという声がいただけた。ファッションを通じて平和のメッセージを発することができることに気付いた。原爆と沖縄戦を後世に伝えていくことは日本人としての使命感だと思う
慰霊の日に沖縄でも初開催へ
2023年6月23日の慰霊の日に、鶴田さんは沖縄で初めてとなるファッションショーを那覇市ぶんかテンブス館で開催する。
2022年ロシアによるウクライナ侵攻で多くの幼い命も奪われた。世界中では今も戦争や紛争が続いている。
慰霊の日での開催に向けて鶴田さんは「広島・長崎で反響があったので沖縄でも開催する意義があると思う。未来を見据えて平和を願うファッションショーで素敵だった、感動した1日をつくりあげていきたい」と意気込む。
また、沖縄音楽を代表する歌手・古謝美佐子さんの童神からもインスピレーションを受けたということで、ショーを彩る新作の製作にも取り掛かっている。
沖縄での開催のテーマは「命と向き合う」沖縄ならではのものを取り入れ、尊い命の大切さをフォーカスしたショーにしていくと力強く語った。
（沖縄テレビ）
