大浴場のお湯換えが年に2回だけの事実が判明した福岡・筑紫野市の老舗旅館「二日市温泉大丸別荘」の社長が、2023年2月28日に会見を開き、管理のずさんさを謝罪した。
波紋は、ほかの旅館にも広がっている。
山田社長のあきれた「言い分」とは?
川崎健太キャスター(「大丸別荘」社長記者会見会場):
まもなく社長の会見が始まります。なぜ衛生管理を怠ったのか、社長は、どんな説明をするのでしょうか?
多くの報道陣が集まるなかで会見を開いたのは「大丸別荘」の山田真社長(70)。
この記事の画像(17枚)「大丸別荘」山田真社長:
大変深く反省し、お詫び申し上げたいと思います。申し訳ございませんでした
1865年創業、昭和天皇も宿泊したことがあるという老舗旅館「二日市温泉大丸別荘」。「大丸別荘」を巡っては、2022年11月、大浴場の湯から基準値の最大3,700倍のレジオネラ属菌が検出され、県の条例に反して湯の入れ換えを年に2回しか行っていなかったうえに、衛生管理について、県に虚偽の報告をしていたことがわかっている。
2月24日の問題発覚後、初めて公の場に姿を見せた山田社長。長年続いたずさんな衛生管理が厳しく指摘された。法令を軽視したともとれる今回の指示。山田社長のあきれた「言い分」とは?
「大丸別荘」山田真社長:
だいたい1分間に70リットルばかりのお湯を浴槽に入れておりますので、水質はかなりいいだろうと
記者:
レジオネラ属菌は、極めて深刻な健康被害が出る可能性があることは想定していた?
「大丸別荘」山田真社長:
想定していませんでした。そこまで怖い菌とは認識がなかった。その辺の池でも水たまりでも、その辺にいるものと
土の中や川など、自然界に広く存在している細菌であるレジオネラ属菌。細かい霧やしぶきを吸い込むことで肺炎などを引き起こし、最悪、死に至るケースもあり得る。
2022年3月には、神戸市にある温泉施設を利用した70代の男性2人がレジオネラ属菌に感染、1人が死亡している。
今回も利用客に深刻な健康被害が出る恐れがあった。レジオネラ菌に詳しい麻布大学の古畑勝則教授によると「基準値の3,700倍はレジオネラ症の健康被害や最悪、亡くなるケースが起こり得る」「感染者がいないのか心配なレベル」と話す。
記者:
利用客の方が、最悪、レジオネラ属菌に感染しても大丈夫だろうと?
「大丸別荘」山田真社長:
感染自体を想定してなかったですね。なんか事故があるとか、あっても、それはそこの特別な事情で、うちとは関係ない話としか受け止めていなかった
条例では「大丸別荘」も採用している「循環浴槽」の場合、消毒のため残留塩素を一定に保つよう定めているが、社長の指示でこの塩素の注入も怠っていた。
記者:
利用客の命と健康について、事実上、考えていなかったのでは?
「大丸別荘」山田真社長:
結果的にそうなるが、この条例がそれほど本当に必要なものなのか、自分勝手に解釈して運用していた
山田社長は、条例そのものに懐疑的なイメージがあったことを明らかにした。さらに大浴場が完成した1992年以降から違反があった可能性も示唆。認識の甘さが露呈した。
記者:
2019年12月より前に、そもそも条例を遵守するという基本的なことが、館内で徹底されていなかった可能性は?
「大丸別荘」山田真社長:
ちょっと確認ができないので、やっているはずだった
記者:
2019年12月より前も条例違反の可能性があった?
「大丸別荘」山田真社長:
はい。そういうことになります
さらに大浴場のお湯の入れ換えを1年に2回しか行わなかったことについては「コロナ禍で客も少ない」。消毒用塩素の注入をしなったのは「匂いが嫌だった」と述べている。温泉旅館における大浴場の衛生管理とはまさに経営の根幹であって、その責任者から出てくる言葉とは思えない。
記者:
安全を担保するのが条例で、条例は利用客の命と安全を守るためのもの。その条例の意義を無視していた?
「大丸別荘」山田真社長:
結局そうなりますね。レジオネラ症とかたいしたことがないだろう、仮に亡くなられた方がいても、いまのコロナではないけど、元々、基礎疾患があるとかたまたまきっかけに…、そんな捉え方をしていました
記者:
法令遵守の意識があまりに低いのでは?
「大丸別荘」山田真社長:
そうですね、その通りです。その法令には…、本当に低かったです
「当たり前」他の施設から厳しい声
温泉施設の信用を失墜させることにもつながりかねない、ずさんな衛生管理。今回の問題を受けて、福岡県内の温泉地でも変化が起きていた。
創業130年以上、朝倉市原鶴温泉の源泉かけ流しが人気の「ほどあいの宿六峰舘」。受付には、毎日のお湯を入れかえ実施や年に1回行われるレジオネラ属菌などの水質検査をクリアしている案内が置かれていた。
「六峰舘」渡辺昌之総支配人:
「大丸別荘」のことがあって、心配されるといけないので、あえて、こういうふうに出しています
こちらの温泉宿ではどのようにして浴場の衛生管理を行っているのか?
「六峰舘」渡辺昌之総支配人:
こちらは客室でございます。先ほどまで、お客さまがいた部屋でございます。ちょうどいま、お湯を抜いた状態です。お客さまがチェックアウトされた後、各客室の風呂は、いったん栓を抜いて、お湯を全部廃棄して、掃除をしてから新しい湯をはります
客室の風呂は、毎日、お湯を抜いて掃除。前の客が使用した風呂は、欠かさず掃除するのは当たり前だと話す。掃除をしてのお湯の入れかえは、客室の風呂だけではなく、大浴場でも当然のように行われている。
「六峰舘」渡辺昌之総支配人:
大浴場は、夜の10時までのご利用時間ですので、夜中にお湯を全部抜いて、また新しいお湯を入れて、翌日、使ってもらっています
多くの人が利用する大浴場では、毎日の掃除とお湯を入れかえるだけではない。加えて、4日ほどのサイクルで塩素などを使用した大掃除も行っている。
「六峰舘」渡辺昌之総支配人:
4~7日のサイクルで、昼間にやるんですけど、お客様の利用もいったんストップして、全部空にして塩素剤をまいて、高圧洗浄で全部流して、きれいにした後にお湯を入れます
「問題が落ち着いたら退任することになる」
業界を引っ張っていくべき立場にある老舗旅館のずさんな衛生管理。その影響を「大丸別荘」の山田社長はどう捉えているのか?
記者:
今回の件を受けて、ほかの温泉や入浴施設の利用客が減ってしまう可能性もあるが、業界への影響はどう考える?
「大丸別荘」山田真社長:
風評被害を出したのは、申し訳なく思っていますけど、今後、また時機を見ておわびするしかないと思っています
山田社長は、自身の進退について「問題が落ち着いたら退任することになる」としている。法律を守るという意識があまりに低く、利用客の命と健康を軽く見ているとしか思えない社長の言葉。
社長によるずさんな衛生管理が温泉業界全体に与えた負のイメージは計り知れないが、「大丸別荘」は、既に再発防止策を講じながら営業を再開している。
歴史ある老舗旅館の信頼を取り戻してほしい。
(テレビ西日本)