「小さな子どもって、自分の性器をなんとなくいじることってあるじゃないですか。そんな時『うわー』ってなって血相変えて止めさせてしまう親御さんが多いんですが、実は子どもに性について教えるいい機会なんです」

そう語るのは産婦人科医の宋美玄(そん・みひょん)さんだ。

聞き手:島田彩夏
聞き手:島田彩夏
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私はこの数年、子どもの性被害などに関する取材をしているが、その中で子どもたちには性の知識が圧倒的に不足していると感じることが多い。

日本の義務教育では生殖に至る過程は教えないという「はどめ規定」が存在し、子どもたちは性に関して正確な知識を得る機会がないまま思春期を迎え、そして大人になっていく。

そんな日本で、親は子どもへの性教育とどう向き合えばいいのか、同じ6歳の男の子を持つ母同士でもある宋先生に聞いた。

親世代の“タブー感”を押し付けないで

「親はね、自分の恥ずかしい“タブー”っていう感情を子どもに押し付けてはいけないんです。
例えば子どもが『どうやったら赤ちゃんができるの?』と聞いてきたり、『お母さん、これって何に使うの?』ってナプキンを持って来たりというような時、お父さんお母さんがそれに対してすごく気まずそうだったら、子どもは『あ、何となくこの話をするとお父さんお母さん嫌がるな』みたいな感じになるんですよ」

どうやったら赤ちゃんできるの?という子どもからの質問、どう答えますか?
どうやったら赤ちゃんできるの?という子どもからの質問、どう答えますか?

確かに、子どもの質問はいつだって直球だ。性教育を受けてこなかった我々親世代はそんな球をうまくキャッチすることがどうも苦手だ。ではどうすればいいのか?

「やっぱりタブーっていうのを克服するためには大人が少しずつでも変わっていかないと、子どももまたそれをタブー視しちゃう。“世代間連鎖してしまう”っていうことです。
性器を触っていたら、『そこはプライベートゾーンっていって、自分の体の中で人に見せないところ、触らせないところなんだよ』と伝える。子どもの頃からそういったことを教えるのがとても大切だと思います」

海外での性教育は「基本であり当然」にショック

そんな宋先生が性について広く呼びかけ始めたのも、海外で研修に参加したときのショックがきっかけだった。

世界中から集まった産婦人科医らが、「オーガズムの仕組み」や「性感帯」などについて、日本では全然習ったこともないという宋先生にむしろ驚いたというのだ。海外ではそれを学ぶのは「基本であり当然なのだ」と。

振り返ってみると患者からセックスについて聞かれても、習ったことがなかったので教えられなかった。

海外とのギャップに困惑した宋先生。勉強し直してセックスについての本を執筆。すると大きな反響が
海外とのギャップに困惑した宋先生。勉強し直してセックスについての本を執筆。すると大きな反響が

「産婦人科医なのにね。もちろん子宮や卵巣の病気のようなことはすごく習うんですが…。それで、勉強し直してセックスの本を書いたんです。そうしたら反響がすごくて。読者ハガキも1万通くらいもらいました。そのうちのほとんどが中高年の男性からだったんです」

読者からのハガキには、「初めて妻を喜ばすことができた」「20年前にこういう本に出合いたかった」等、多くの感謝の言葉が並んでいたという。宋先生は初めこの本を“アダルト動画を教科書にしている若者”に読んでほしいと思って書いたのだが、実際は結婚して何十年も経っている、高齢とも言える男性もまた、性の仕組みや知識について誰からも教えられないまま(妻にも聞けないまま)その歳までいたということが分かったのだった。

「性教育をちゃんと受けた世代というのがいない以上、国民全体に性の知識が足りないんだと思いますよ」

“セックス”と“妊娠”が繋がらないローティーン

そもそも、なぜ性教育、性の知識を得ることが大切なのか。
宋先生はこれまで多くの女性の相談に乗ってきたが、中には10代で妊娠した女性も少なからずいて(13歳~14歳くらいのローティーンの女の子たちもいたのだそう)、知識がないばかりに妊娠に至るとうケースもままあるのだという。そして驚くようなことを教えてくれた。

「セックスをすると妊娠するということが結びついていない子はいっぱいいます。セックスっていう行為は“行為”として知っている。でもそれで妊娠するとは知らなかった、みたいな。自分がされた行為がセックスだということも余り分かっていない。例えば『くすぐり合いっこしよう』とか誘われて、してしまう」

遊びの延長で性行為したら妊娠して驚いたという子も…
遊びの延長で性行為したら妊娠して驚いたという子も…

性被害ではなく同世代の男の子と遊びの延長線上のような感じで行為をしていたら妊娠していて驚いたというのだ。

「ローティーンの子は生理だってまだ不順だったりしますし、気づくのが遅くなって、産婦人科に来たときにはもう時期的に出産するしかなくなってしまう。これ、みんな経験してますよ、産婦人科医は。そして自分1人だけに知識があってもダメなんですね。相手もいることだから」

だからこそ、幼少から性について少しずつ自然な流れで教えていくことが大切なのだと指摘する。その後も子どもの成長に応じた対話で、「家庭では性的なことを話してもいいんだという雰囲気」があるということが重要なのだそう。

アダルト動画を観た形跡を発見しても親はうろたえない

「家族っていうのはそういう話を比較的オープンにできるという関係性を、小さい頃から作るべきですね。思春期以降は余りこちらから立ち入らず、それこそ『困ったことになったらまず親を頼ってね』っていうような関係をそれまでの間に作っておく。

思春期でよくあるのが、親が、子どもがエッチな動画を見ていることや、本とかを発見してショックを受けるみたいな。そんな時も親はうろたえないでください。思春期の性衝動は成長の証。『そりゃ、そういうことも別にするよね』っていうふうにね」

昔からよく聞くのが、そういった本を隠しておいたのに、子どもが学校から帰ったら机の上にドンと置かれていたとかいう話だ。先生はそういった親の行為は子どもにとっては「最悪中の最悪」だと断じる。どうやら、親はその時に備えて鷹揚(おうよう)に構えられるように、しっかりと脳内トレーニングをしておく方がよさそうだ。

子どもが親を頼りたくなったら頼れる存在でいることが大事だという
子どもが親を頼りたくなったら頼れる存在でいることが大事だという

「性行為は、自分たちで抱えきれるような年齢になるまでは慎重になるべきということは、やっぱり親としては言っておくべきですね。でも、もし万が一妊娠などで大人を頼りたくなったら頼れる存在でいること。そこは逃げ場を作っておいてあげてください。子どもは親の思う通りの行動なんてしませんからね。頭ごなしに100%駄目っていうよりは、少しずつ『知識』と『逃げ場』を与えるというイメージです」

これは単に性教育というひとつの問題ではなく、子育てそのものの本質のように思える。子どもとの日々のやり取りの中で「与える」ということは、子どもをちょっとずつ「手放す準備」をしていくことなのかもしれない。

そしてもう親の関与できるところは少ないなと感じる頃には、子どもが自分で物を考え責任が取れるようになっていてほしい。そう考えると成人年齢の18歳なんてあっという間だ。その中で、宋先生は子どもの「性」も子どものものということを親は忘れてはいけないと言う。

子どもの性は、子どものもの

「子どもも1人の独立した人間で、親が自分の思い通りにしたいと思わないことがすごく大事だと思うんですよ。子どもの人生は子どものものだもの。その上で、子どもの体に関しても子ども自身に決定権があるということを知ってもらいたいです。

例えば、大学生くらいまでは異性関係をかなり口うるさく言っていたのに、結婚して、子どもを作らないと『早く孫の顔が見たい』とか言う親御さんがいるんですが、子どもはあなたの孫を作るためにいるわけではありません。そういう手のひら返しみたいなことを無自覚で言うのは子どもの『性の自己決定権』を侵害しているんです。もっと言うと一生セックスしないという選択だって子どもにはあるんです。

子どもが自分の体にまつわることの知識を身につけ、こういう選択肢やこういう権利があるということを、知っているのと知らないのとでは人生が大きく変わります。それを知らないまま大人になって社会に出て、人にそれを蹂躙(じゅうりん)されたりしても、『こんなもんなんかな』って思うんじゃなくて、『いやいやこれはおかしいでしょ』と考えられる知識があるだけでも武器になると思います」

子どもの体には子どもに決定権がある。そのために親も正しい知識を
子どもの体には子どもに決定権がある。そのために親も正しい知識を

性の自己決定権。私たち一人一人にある権利だが、それを知っている人はどのくらいいるだろうか。さらに、ここで言う「性」とは身体的な性や、性行為のことだけではないと思う。

「心の性(性自認)」や「性的指向の性(好きになる性別)」などについても言えることなのではないか。だから、例えば子どもが同性を好きになったとしても、それは子ども自身のみがどうするかを決める権利があるということ。

子どもの性を尊重するということは、こういったことも含めて子どもの人生を尊重するということであり、親が偏見を捨てて子どもそのものを愛することができるのかどうかということなのだと、改めて思う。

子育て中に親が何を子どもにインストールしてあげられるか

「例えば息子から『私、女だと思うんだけど』と言われたとしても、『そうかごめん、お母さんが産むとき間違えちゃったね』ぐらいのノリで受け入れる。やっぱり両親のどちらかが断固受け入れなかったりすると子どもはとても苦しいんです。

性を教えることって、相手との関係性とか、産む、産まないとかもそうだし、子どもが成長したその後の人生のすごく大きな部分に、親が子育て中に何をインストールしてあげられるかということなのではないでしょうか」

幼少からの積み重ねの性教育が、いかにその子の人生に膨らみをもたせてくれるか。その重みを親としてきちんと受け止めたい。

ただ、このような大切なことを、親のみが請け負うということにはやはり「おかしい」とはっきり言いたい。なぜならここまで見てきたように「性」には本当はとても広い意味があり、ジェンダーや人権にも関わるイシューでもある。そこを親世代がすべて引き受けられるのか。

ネグレクト気味などの家の事情で性教育ができない家庭にこそ知って欲しい、そのためには学校での教育が大事になる
ネグレクト気味などの家の事情で性教育ができない家庭にこそ知って欲しい、そのためには学校での教育が大事になる

「国の責任は大きいと思います。あまりにも長い間、国が性教育をしない『はどめ規定』を設けている状態で、この数年、家で『性教育をしよう、もう学校には頼れない』というのがすごくブームになっているんですよ。

でもね、親がそういうことに興味がなかったり、抵抗を感じたりする家庭ではその知識を持たせてもらえないわけでしょう。家の事情があってネグレクト気味とか、そういう家の子たちにこそ知って欲しいものがある。

やっぱり届けたい人にこそ届いてない。臨床の現場では、頼れる家族がいなくて、そのまま知識もなくて、自分の体の自己決定権を行使できないまま困った状況になって医療を頼ってきたっていうような人たちもいっぱいいる。そういう意味ではやっぱり最低限の教育の機会っていうのは性のことであっても義務教育の場で設けてほしい」

その上で宋先生はこう指摘する。

「体の自己決定権」の問題が見えてくるといろんなニュースの根っこが一緒だと分かる
「体の自己決定権」の問題が見えてくるといろんなニュースの根っこが一緒だと分かる

「性教育が大事、それはもちろんそうなんです。医師になって3年目に勤めた病院のあった地域では、環境も複雑な家庭の子がとても多かったんです。貧困や親の低学歴、その親も若年出産していたり。機能不全家族の場合もある。虐待もありました。そんなだったから、本当に知識がないんです。避妊とかもね。

でも私は分かるんです。あの人たちに必要なものは単に知識だけじゃないということも。もっと社会的なバックグラウンドに、自分1人じゃどうしようもない環境にいるってことが。これは世代間連鎖だと思うんです。そして中絶もできない状況に追い込まれることも多いんですね。これって実は体の自己決定権の問題なんですよ。これが見えてくるといろんなニュースの根っこは全部一緒だというのが分かるんです」

自分だけではどうしようもできない環境に置かれている子どももいることに目を向けなくてはいけないと思う。事件を起こしてしまった人を罰したり糾弾するだけでは社会は変わらない。

あなたの人生はあなたが選んでいい

「あなたの性だって、あなたのものなんだよ」

親って、子どもを想うあまり忘れっぽくなってしまうことがある。そのたびに思い出そう。子供の性は子ども自身のものだと。それをしっかり伝えていくことが、子ども一人ひとりの人生を守ることにつながるのだと。そして子どもにそれを伝えるのに「いつだってもう遅いということはない」という宋先生の言葉が温かく後押ししてくれる。

子どもにはしなやかで豊かな人生を自分自身で作り上げてほしいから。
それが親としてのただひとつの願いだから。

【取材・執筆:フジテレビアナウンサー 島田彩夏】

島田彩夏
島田彩夏

人の親になり、伝えるニュースへの向き合いも親としての視点が入るようになりました。どんなに大きなニュースのなかにもひとりひとりの人間がいて、その「人」をつくるのは家族であり環境なのだと。そのような思いから、児童虐待の問題やこどもの自殺、いじめ問題などに丁寧に向き合っていきたいと思っています。
「FNNライブニュース デイズ」メインキャスター。アナウンサー兼解説委員。愛知県豊橋市出身。上智大学卒業。入社以来、報道番組、情報番組を主に担当。ナレーションも好きです。年子男児育児に奮闘中です。趣味はお酒、ラーメン、グラスを傾けながらの読書です。