長野市のシニア劇団に入っていた90歳の女性が1月29日、最後の公演に臨んだ。夫を亡くしてから、演劇を生きがいとしてきたが、引退を決意、30年のチャレンジに幕を下ろす。練習から本番までを追った。

1月29日、長野市芸術館で上演された「いつか待ち人が来る日まで」。演じているのは、一般公募で選ばれた60歳以上の「シニア演劇アカデミー」のメンバーだ。

最高齢は90歳の中野八重子さん。

 カルーセル良子役(中野八重子さん):
あじゃらかもくれん…。そば屋の鈴木さんに天罰を

中野さんはこの日を「最後の舞台」として臨んだ。

最後の舞台と決めるまでには葛藤が

本番4日前の25日、実際のセットで練習するメンバーたち。

 舞台に立つことを張り合いにしてきた中野さん。最後の舞台と決めるまでには葛藤があった。

中野八重子さん(90):
名残り惜しい。自分では好きだからやりたい気持ちが強い。でもそんなに皆さんにご迷惑をおかけするのはいけないなと思って、やっぱりひかなくちゃいけないなというのは強い

中野八重子さん(90)
中野八重子さん(90)
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夫が亡くなり…若い頃の夢を

中野さんは飯山市の出身。高校卒業後、夢をかなえるため上京した。

高校卒業後、夢をかなえるため上京
高校卒業後、夢をかなえるため上京

中野八重子さん:
昔、名作を朗読するのがあったでしょ、そういうことをやりたかった。「東京アナウンスアカデミー」に入ったんです。舞台もやりたいと思って、そういう教習所もあって、そこも入ったりして

朗読、演劇の世界に憧れ
朗読、演劇の世界に憧れ

朗読や演劇の世界に憧れはあったが、同じ長野県出身の司之さんと知り合い、結婚を機に長野市へ。市役所の近くでそば店を営みながら2人の子どもを育て上げた。

長野県出身の夫と知り合い結婚
長野県出身の夫と知り合い結婚

老後の暮らしを考えるようになった57歳の時、司之さんをがんで亡くした。店を閉め、中野さんは一人暮らしに。寂しい生活がしばらく続いた。そうした暮らしに変化をもたらしたのが、若い頃に憧れていた「舞台」だった。

 中野八重子さん:
表現をしたかったんですよね、自分を。舞台をやっても緊張感がある。その緊張感と終わったときの満足感、達成感、それがすごく良い

夫を亡くし…若い頃の夢を
夫を亡くし…若い頃の夢を

還暦を過ぎてから地元の市民劇団に入ったり、東京の劇団の講習生になったりと、いつしか、演劇が生きがいに。

足腰の衰え…サポート役に感謝

2019年には、俳優の西村まさ彦さんが監修する「シニア演劇アカデミー」に応募し、見事に一期生に。西村さんの指導の下、芸術館の舞台に立った。

その後、三期生、そして今年度の四期生にも選ばれた。 2022年9月から始まった稽古は週1回。実は中野さん、四期生のオーディションに受からなければ、そのまま「引退」するつもりだった。足腰の衰えを年々、感じるようになっていたのだ。

 
 

車いすに乗った役になったのもそうした配慮から。稽古中はボランティアスタッフの駒井利子さんが、中野さんを支えてきた。

ボランティアスタッフ・駒井利子さん(71):
セリフを覚えるのが早い、完璧に覚えているんですよね。私からすれば大先輩で見習うところがいっぱいありますね

稽古中・中野さんを支えるボランティアスタッフ・駒井利子さん(71)
稽古中・中野さんを支えるボランティアスタッフ・駒井利子さん(71)

中野八重子さん:
駒井さんに助けていただいて頑張れた。駒井さんがいないと、もう…

左・駒井さん 右・中野さん
左・駒井さん 右・中野さん

30年近く生きがいとしてきた演劇。献身的な仲間のサポート。中野さんは今回の舞台で全てを出し切るつもりだった。

中野八重子さん:
年とってもね、あきらめないで、とにかく命ある限り頑張って、楽しく生きましょう。元気を皆さんも受け取ってもらえたらありがたいなと

「最後の舞台」に密着

1月29日の公演当日。観客は約180人。今年度の演目「いつか待ち人が来る日まで」は、商店街のタバコ店に集まる人々が織りなす、笑いあり、涙ありのストーリーだ。

舞台慣れしている中野さんも出番が近づくにつれ、緊張感が高まる。 そして、いよいよ出番。

本番前…
本番前…

中野さんが演じたのは、人形店の店主で呪いをかけることができるという役どころ。

 カルーセル良子役(中野八重子さん):
あじゃらかもくれん、あじゃらかもくれん…。そば屋の鈴木さんに天罰を

カルーセル良子役(中野八重子さん)
カルーセル良子役(中野八重子さん)

監修した西村さんも見守る。

見せ場は商店街を悩ませていた「地上げ屋」に呪いをかけるシーン。

カルーセル良子役(中野八重子さん):
あじゃらかもくれん…

出番が終わり、ほっとした表情に。

出番が終わりほっとした表情
出番が終わりほっとした表情

 演劇を監修・西村まさ彦さん:
皆さん、作品と向き合い、仲間と向き合い、なんて素晴らしいんでしょう。お客さまもそれを感じとっていただけたら、この上ない喜びです

 観客に感想を聞くと、「90歳とは思えない。パワフルで見習わなくちゃ」、「まだまだこれから、何でもできるかなと思わせてくれる」と中野さんの演技を称賛する声が。

 ボランティアスタッフ・駒井利子さん(71):
日に日にテンションが上がりまして、しっかりと声も出ていたし、素晴らしかった。(今後も)時々、また会おうねと

挑戦を続けて30年 ラストステージに幕

若いころを思い出し、チャレンジを続けて30年。中野さんのラストステージが幕を閉じた。

“最後の舞台”を演じ切る中野八重子さん(90)
“最後の舞台”を演じ切る中野八重子さん(90)

 中野八重子さん:
とにかく最後まで頑張って成し遂げたいと思って、それだけで今まできました。本当にほっとしました。ほっとしたけど寂しい、なくなっちゃったから。こうやって皆さんと若い方たちと一緒にやって、自分でも運動をしたり体を動かすので、精神的にも肉体的にも元気に。皆さんのおかげで寿命も延びたのではと

(長野放送)

長野放送
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