日銀の次期総裁候補、植田和男氏が衆議院での所信聴取に臨んだ24日朝、注目の物価の数値が発表された。
1月の全国の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除いた総合で、前年同月比の上昇幅が4.2%となり、41年4か月ぶりの水準となった。
2%の安定的物価上昇には「なお時間が」
こうした物価上昇に対する認識を問われた植田氏は、この日の発表分が「とりあえずのピークになる」との見方を示した。
足元の値は「輸入物価の上昇によるコストプッシュ要因によるもので、需要の強さによるものではない」と指摘し、こうした要因は「今後、減衰していくとみられる」とした。「2023年度の半ばにかけて2%を下回る水準に低下していく」との見立てだ。
この記事の画像(6枚)そのうえで、日銀が目指す持続的で安定的な2%の物価上昇に向けては、「基調的なインフレ率の動向にはよい芽が出ている」としつつも、「目標達成にはなお時間を要する」との見解を披露した。
そして、現在、日銀が行っている金融政策は「適切」であり、「これまでの金融緩和の成果を継承し、積年の課題だった物価安定の達成というミッションの総仕上げを行う5年間としたい」と語った。
緩和の副作用軽減を図る必要性
このように、現行の黒田総裁の金融緩和路線を引き継ぐ姿勢を示す一方で、植田氏は、緩和による副作用には、軽減を図る必要性に言及した。
とりわけ懸念を示したのは、長期金利と短期金利の誘導目標を定め、国債の買い入れを行って利回り曲線全体を適切な水準に維持しようとする「イールドカーブ・コントロール(YCC)」と呼ばれる手法についてだ。
金利の上昇圧力が強まる中、操作対象となる10年物国債の金利が低く抑えられている結果、市場の金利構造にはゆがみが生じている。
植田氏は「様々な副作用を生じさせている面は否定できない」「本当に市場機能の向上につながっているかどうか、見守っている状況だ」としたうえで、「どう継続するか考えていかなければいけない」と、将来の修正の可能性を示唆した。
物価目標達成されれば、国債購入「やめる判断」
大きな難題が、大規模緩和からの「出口」に向かう際、戦略をどう描くかだ。
国債を大量に買いあさった結果、日銀は、発行済み国債の半分を保有するという事態に陥っていて、日銀が政府の財政赤字の穴埋めに協力する「財政ファイナンス」の状態になっているとも指摘されている。
植田氏は、国債購入は「持続的安定的な物価上昇2%の目標達成が目的」であり「達成された暁には、やめるという判断になってくる」と述べた。
大量の国債買い入れは、政府の財政資金の調達を支援するためではなく、あくまで物価目標実現に向けて行っているものだとして、目標が達成されれば、縮小していく姿勢を示した。
共同声明「表現は当面変える必要ない」
衆議院での所信聴取では、政府と日銀が2013年1月に公表した「共同声明」のあり方についても問われた。
声明では、日銀が「2%の物価目標をできるだけ早期に実現する」としているが、経済関係者など有識者が参加する「令和国民会議」、通称「令和臨調」が、2%の物価目標を長期的な目標として新たに位置付けるよう提言するなど、内容の見直しを求める声が出ている。
植田氏は、「基調的な物価に望ましい動きが出ている」として、「表現を当面変える必要はない」との考えを示し、文言の修正には否定的な考えを示した。
「構造的な賃上げ状況作り上げる」
経済の好循環に向け、安定的な物価上昇に不可欠となるのが「賃上げ」の広がりだ。
「企業が賃上げをできるような経済環境を整える必要がある」と述べた植田氏は、「企業による人的資本に対する投資や生産性を高める投資に期待する」としつつ、「経済界の取り組みや政府の諸政策と相まって、構造的に賃金が上がる、そういう状況を作り上げる」との決意を表明した。
「毎日のお昼のコンビニ弁当が、ここ1年の間に450円から、500円を超す水準まで値上がりした」と庶民的な一面ものぞかせた植田氏。
市場関係者からは「わかりやすく、理路整然とした話し方だった」「慎重な物言いに終始していた感じだ」との声があがる。
「私に課せられた使命は、何か魔法のような特別な金融緩和策を考えて実行することではない」と強調し、「黒田緩和」を継承しつつ、副作用にも目配りする姿勢を示した植田氏が、衆議院に続いて「安全運転」を印象付けることになるのか。
参議院での所信聴取は、午後1時すぎから予定されている。
(執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)