東京・東新宿の都営住宅で暮らす3人の親子。
母・マーヤさん(45)と、幼いきょうだい レギナちゃん(7)とマトヴェイくん(5)は、
去年3月、戦火を脱出し日本へとたどり着いた、ウクライナからの避難民だ。
ロシアによるウクライナ侵攻開始から約1年。レギナちゃんは、言葉も文化も全く分からない状態で日本の小学校に入学し、まもなく2年生になる。
この記事の画像(14枚)涙を流しながら、日本語を学ぶ日々。ウクライナの友達と体を動かす、週1度の楽しみ。
本記事では、「ザ・ノンフィクション」の放送では伝えきれなかったレギナちゃんの奮闘記をお伝えする。
来日から1年、ゼロから日本語を学ぶレギナちゃんは…
母子3人が避難先として日本を選んだきっかけは、年の離れた長女・アナスタシア(23)さんが日本に嫁いでいたことだった。
空襲警報が鳴り響く中、日本を目指しウクライナ東部の町・ドニプロを発ったのは2022年3月5日。多くの避難者を運ぶ列車で、西部の町・リビウまで約800kmの距離をひた走った。
途中何度も子どもたちとはぐれそうになりながらも、2日後、ロシア軍のいないポーランドへと着き、その後、飛行機を3回乗り継ぎ日本にたどり着いたのは、さらに10日が経った3月17日のことだった。
長女・アナスタシアさん夫婦との、成田空港での再会からまもなく1年。
レギナちゃんは戦火がもたらした理不尽な境遇の中、その小さな体で、必死に闘ってきた。
ゼロから日本語を学び始め、ひらがなを習得したレギナちゃんだが、いま最も苦しんでいるのが漢字の勉強だという。
母・マーヤさんも日本語は分からないため、近くで暮らしている姉・アナスタシアさん(23)とその夫・和真さん(36)が頼りだ。
日本に来て間もないレギナちゃんにとって、漢字の習得はあまりにも酷…。上手に書くことができず、涙を流しながら、宿題をこなす日々だ。
レギナちゃんの姉・アナスタシアさんと4年前に結婚した和真さんは、マーヤさん一家の日本での生活をサポートしている。
日本語を話せるアナスタシアさんと和真さんの存在が、避難してきた親子3人をギリギリのところで持ちこたえさせてくれているのだ。
また、母・マーヤさんがSNSで情報を集めて、積極的に子どもたちを連れ出しているのが、避難民の支援団体が開催している交流会。
日本の小学校にも友達ができたレギナちゃんだが、母国語で会話ができるウクライナの友達も、重要な心の支えになっている。
様々な支援の形があり、衣類やおもちゃなどの無料配布会、ウクライナの書籍の貸し出しなども行われている。マーヤさん一家がウクライナから避難してきた3月17日、同じ飛行機に乗って日本に逃れてきた、他の避難家族との再会もあったという。
日本でレギナちゃんを支える、ウクライナの人々
また、きゃりーぱみゅぱみゅのダンスが好きというレギナちゃんが毎週楽しみにしているのが、ウクライナから避難してきた子どもたちに向けた、無料の新体操教室。
この教室もマーヤさんがSNSで見つけたという。避難民にとってSNSは重要な生活インフラとなっているのだ。
川崎市を拠点とする白土新体操クラブが開催しているこの教室。講師は在日ウクライナ人のイリーナさんで、生徒は7人。都内や横浜市からも生徒が訪れ、避難者のコミュニティーの場にもなっているという。
この日、レギナちゃんと一緒にレッスンを受けていたのは、両親と一緒にドネツクから避難して来たマリヤちゃん(5)と、母・姉と一緒にポルタバから避難してきたベロニカちゃん(6)。2人とも日本の保育園に通っている。
思いきり体を動かすことにより、子どもたちは不安やストレスを軽減。レギナちゃんも新体操教室の後は、テンションがなかなか下がらなくて大変だという。ウクライナの友達と一緒に思いきり体を動かすこのひとときは、戦争という現実を忘れることができる大切な時間となっているに違いない。
そして、レギナちゃんがダンスと並んで大好きなことは、歌うこと。ウクライナで暮らしていた時、歌を習っていた音楽教室の先生が、リモートで個人レッスンを行ってくれている。
ただし、リモートレッスンでは、ウクライナの現実を感じる瞬間もある。
授業は毎回、先生の無事を確認することから始まる。
ウクライナ側の通信が安定しないため、先生側は映像をオフにして音声のみ。歌いながら向き合うのは真っ暗なパソコン画面。楽しいはずの時間にも、戦争が大きな影を落としている。
本来なら、ウクライナの小学校に入学するはずだったレギナちゃん。
入学予定だった現地の小学校が、避難民のためにリモート授業を行うことも検討しているというが、ロシアの発電施設等への相次ぐ攻撃で、ウクライナ国内は停電が頻発。リモート授業は実現に至っていない。
仮に実現したとしても、日本の小学校とウクライナの小学校のダブルスクールは、子どもへの負担を考えると現実的ではないかもしれない。
国外に避難している子どもたちへのウクライナ語の教育は、大きな課題のひとつだ。
「せんそうが…」レギナちゃんが短冊に書いた思い
七夕の短冊に、レギナちゃんが日本語で書いた願いごと。
それは、「せんそうがおわりますように」。
「せんそう」という言葉を、なぜ覚えなくてはならないのか。
ウクライナの子どもたちは、戦争に振り回されながら、今も必死に日本で生きている。
(「ザ・ノンフィクション たどりついた家族 2 前編」2月26日放送より)
『ザ・ノンフィクション たどりついた家族 2 前編 ~戦火の故郷と母の涙~』
TVerで見逃し配信中
赤いランドセルで新宿の小学校へ通う少女…戦火のウクライナから日本へたどりついた家族…、都営住宅で暮らし始めた3人の親子…、帰りたいけれど帰れない…母の涙の行方は…。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年…東京の片隅で、愛する故郷の戦火に翻弄される家族をみつめた。
『ザ・ノンフィクション たどりついた家族 2 後編 〜帰りたい 戦火の故郷へ〜』
3月5日(日)午後2時〜(フジテレビ)
https://www.fujitv.co.jp/thenonfx/index.html
愛する子どもを日本に残し、ひとり、戦火のウクライナへ向かった母・マーヤさん。障害がある兄と義理の母に再会し、無事に日本へ戻ってくることはできるのか…故郷に戻ったマーヤさんを襲う試練と日本に残された子どもたちの日々を追った。