ウクライナで暮らしていた親子3人は、去年3月、戦火を逃れ、日本に嫁いだ長女を頼り、来日した。

「必ず戻ってくるから…」

約半年経った頃、母・マーヤさん(45)は、祖国に残してきた障害を持つ兄に会うため、幼い子どもたちを日本に残し、戦火のウクライナに一時帰国。

2カ月にわたる滞在の後、去年12月、再び戻ってくることができた。

ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年が経過。この戦争はいつまで続くのか…。

長期化は、苦しい選択を次々とマーヤさん一家につきつける。

本記事では、2週に渡って放送した「ザ・ノンフィクション」では伝えきれなかった日本での支援状況や、今も日本で日々を過ごすマーヤさん一家の、戦争、そして日本への思いを伝える。

日本からの手厚い支援に感謝 避難民の日本生活

突然始まった母・マーヤさん、次女・レギナちゃん(7)、長男・マトヴェイくん(5)の親子3人での日本生活。

救いは東京都の支援体制だ。都営住宅の家賃は無料、さらに多くの支援物資が支給されている。

都営住宅での親子3人の生活
都営住宅での親子3人の生活
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東京都から届いた段ボールいっぱいの生活用品に、家族そろって大感謝。「ありがたいね、とってもありがたい」とマーヤさん。

東京都から届いた支援物資
東京都から届いた支援物資

東京都が支援している物資一覧(※一部)

<大物家電>
エアコン、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、カーテン、寝具(布団、シーツ、枕)など

<小物家電>
ドライヤー、掃除機、電子レンジ、タオル、歯磨きセット、シャンプー、石鹸、マスク、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなど

<筆記用具>
ボールペン、シャープペンシル、ノート、はさみなど

<生活用品>
洗剤、ハンガー、キッチンスポンジ、お皿、コップ、フォーク、スプーンなど

<調理器具>
包丁、まな板、お鍋、フライパン、缶切り、栓抜きなど

また生活費は、日本財団からの支援を受けている。

現状では最長3年の予定で、戦争がさらに長期化すれば金銭問題が課題となる。

日本語の勉強をするマーヤさん
日本語の勉強をするマーヤさん

マーヤさんは今後、日本で仕事を探すことになりそうだ。まずは、仕事ができるレベルの日本語の習得から。異国の地で、小さな子どもたちを育てながら…。

ウクライナに残してきた家族…

必死で日本の生活に慣れようとする一方、マーヤさんは去年10月、幼い子どもたちを日本に残し、戦火のウクライナに一時帰国。

障害のある兄・ジェニャさん(58)のもとへ向かった。

左:マーヤさんの兄・ジェニャさん(58)、右:義母・サーシャさん(79)
左:マーヤさんの兄・ジェニャさん(58)、右:義母・サーシャさん(79)

一緒に暮らしていたジェニャさんを日本に連れてくることができず、ウクライナに残る亡き夫の母・サーシャさん(79)が面倒をみてくれているものの、サーシャさんも高齢で一人暮らし…。

引き続き兄の預かりを快諾してくれたが、戦争が長期化する中、今後は全く見通せない。

ジェニャさんを日本に呼び寄せることはできるのか、戦火のウクライナでマーヤさん一家が一緒に暮らすべきなのか。他に方法はないのか…。苦しい自問自答を繰り返しながら、マーヤさんは子どもたちが待つ日本へ再び向かった。

2カ月ぶりの再会 母からのウクライナ土産で思い出すふるさと

日本で次女・レギナちゃん(7)、長男・マトヴェイくん(5)の世話を、親代わりとして面倒をみた長女・アナスタシアさん(23)。

マーヤさんを空港に迎えに行く和真さんと長女・アナスタシアさん
マーヤさんを空港に迎えに行く和真さんと長女・アナスタシアさん

去年12月、ウクライナから戻ってくる母・マーヤさんを迎えに空港へと走る車内。彼女は結婚を機に4年前に離れた母国に思いをはせていた。

そして、運転席に座る夫・和真さん(36)に、こんな不安を吐露した。

自分が故郷の大地を踏めるのはいつになるのか。その時、ウクライナの人々は、建物は、食べ物は、文化は、奪い去られていないだろうか…。

マーヤさんがウクライナで買ってきたお土産のお菓子
マーヤさんがウクライナで買ってきたお土産のお菓子

だからこそ、マーヤさんが子どもたちのために買って帰ったお土産のお菓子が、アナスタシアさんも本当にうれしかった。

「世界で一番おいしいチョコレート」

生まれ育った国の食べ物。懐かしい包装、匂い、その全てに興奮していた。

母・マーヤさんがウクライナから持ち帰った祖母の形見
母・マーヤさんがウクライナから持ち帰った祖母の形見

そして、アナスタシアさんが一番喜んだのは、大好きだった祖母の形見。

祖母が若い頃に手作りしたもので、きれいな花の刺しゅうがほどこされた布だ。

アナスタシアさんの祖母の形見、手作りの刺しゅう入りの布
アナスタシアさんの祖母の形見、手作りの刺しゅう入りの布

ただし、マーヤさんが日本に運び出すことができたのは、スーツケースに入る大きさと軽さのものだけ。ウクライナにはまだ、たくさんの大切なものが残ったままだ。

終わりの見えない日本での生活でも…「今は日本が好き」

戦争の長期化は、もう一つ、大きな問題をはらんでいる。

マーヤさんとマトヴェイくん
マーヤさんとマトヴェイくん

現在、ウクライナでは18歳~60歳の男性の出国が禁止されている。もし戦争が10年、20年と続いたら…。5歳の長男・マトヴェイくんが大きくなった時、母国に帰るべきか選択を迫られることも予想される。

一方、言葉も文化も分からない日本へ来て1年を過ごしたマーヤさんには、うれしい心の変化もあった。

「最初は不安で、日本では自分が異質な人間だと感じていたけど、今はそうは思わない。日本人も、私たちウクライナ人も、何も変わらない、同じなんだと感じるようになった。今は東京が好きになったわ」

できることなら、まだ安全な日本にいてほしい。東京での生活が、少しでも幸せなものであってほしい。そう願いながら、これからも、マーヤさん一家の選択を見つめていく。


(「ザ・ノンフィクション たどりついた家族2 後編 ~帰りたい 戦火の故郷へ~」3月5日放送より)

『ザ・ノンフィクション たどりついた家族 2 前編 ~戦火の故郷と母の涙~』 
TVerで見逃し配信中
赤いランドセルで新宿の小学校へ通う少女…戦火のウクライナから日本へたどりついた家族…都営住宅で暮らし始めた3人の親子…帰りたいけれど帰れない…母の涙の行方は…。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年…東京の片隅で、愛する故郷の戦火に翻弄される家族をみつめた。

『ザ・ノンフィクション たどりついた家族 2 後編 〜帰りたい 戦火の故郷へ〜』
TVerで見逃し配信中
愛する子どもを日本に残し、ひとり、戦火のウクライナへ向かった母・マーヤさん。障害がある兄と義理の母に再会し、無事に日本へ戻ってくることはできるのか…故郷に戻ったマーヤさんを襲う試練と日本に残された子どもたちの日々を追った。

ザ・ノンフィクション
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2011年の東日本大震災から、何かが変わった。その何かがこの国の行方を左右する。その「何か」を探るため、「ザ・ノンフィクション」はミクロの視点からアプローチします。普通の人々から著名人まで、その人間関係や生き方に焦点をあて、人の心と社会を描き続けていきます。