福岡・太宰府市に置かれた「みんなの冷蔵庫」。その名の通り誰もが利用できる公共の冷蔵庫だ。現役の高校生が提案したこの場所は、経済的な支援だけでなく、誰もが集える心のよりどころにもなっているという。

誰でも利用可能!「みんなの冷蔵庫」

2023年1月14日、太宰府市の住宅街に登場した「みんなの冷蔵庫」。地域住民が家庭で余った食品を持ち寄り、必要とする人が持ち帰ることができる仕組みになっている。

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材料を受け取る人:
年金暮らしに助かるんですよ。私より年配の方がいっぱいいらっしゃるんですよ。教えたら、夕方に来てみたりして、すごく喜んでいます

食品の提供者:
ショウガ湯とアメです。いただきものだけど、自分では使わないかなと。でも、ここに置いておいたら、どなたかに使っていただけるから、いいかなと思いました

1カ月ほどで、300組以上が訪れた。生活の手助けになることはもちろんだが、この取り組みは、フードロスの削減にもつながっている。

食品の提供者:
B級品を譲ってもらえないかっていうことで、別で販売もしているけれど、小さいのがかなりあるので、どうぞということで 

「みんなの冷蔵庫」を設置したのは、現役の高校生。太宰府市に住む福岡農業高校3年の伊東風花さんだ。
伊東さんは調理師を目指し、「食」を専門とした学科に通っている。料理の腕を磨きながら高校の仲間たちと子ども食堂を運営するなど、食を巡る社会課題に向き合ってきた。

伊東風花さん:
この「みんなの冷蔵庫」はドイツが発祥なんですけど、道の途中とかにあって、通りすがりの人がどんどん物を入れたり、持って帰ったりする仕組み。来るのに、悩んだりとか、勇気を振り絞ったりっていう場所じゃなくて、通りかかるついでにとか、そういう感じで来ていただきたいです 

「みんなの冷蔵庫」は、伊東さんが助成金や専門家のサポートを受けられる福岡県の取り組み「高校生チャレンジ応援プロジェクト」に応募し実現した。 

「高校生チャレンジ応援プロジェクト」でプレゼンテーションを行った伊東さん。

伊東風花さん:
何より、このみんなの冷蔵庫を通して、今まで苦しい生活をしてきた人が少しでも楽になるように…。恵まれた環境にいる私たちが貧困者の存在を身近に感じて、もっと気軽に支援できるような環境が、どんどん広がってくれればいいと強く思っています

審査の結果、見事にパス。助成金や専門家のサポートを受けることができた。太宰府市のリフォーム会社が好意で貸してくれた場所で、平日は放課後に、土・日は朝から夕方まで訪れる人たちを迎えている。 

手紙に託した「プロジェクト」への熱い思い…

この日訪れたのは、太宰府市の楠田大蔵市長だった。「覚えてます? 僕のこと」と伊東さんに尋ねる楠田市長。

伊東風花さん:
もちろん(笑)

楠田大蔵市長:
ラブレターなんてもらったことないから

伊東風花さん:
ラブレターじゃない(笑)

楠田大蔵市長:
便箋3枚くらいあったよね

伊東風花さんと太宰府市・楠田大蔵市長
伊東風花さんと太宰府市・楠田大蔵市長

また、楠田市長が「なんで、手紙書いたの?」と理由を尋ねると、伊東さんが「直接話すと、市長の雰囲気にのまれて、言いたいこと言えないんじゃないかっていう不安から(笑)」と明かす場面も。これに楠田市長は、「雰囲気にのまれるって悪い人みたいに言わないでよ(笑)」と応じていた。

実は伊東さんは、このプロジェクトを企画するにあたって太宰府市の楠田市長に手紙を出していた。そこにつづられていたのは、プロジェクトへの熱い思いと、協力を求める声だ。

伊東さんが楠田市長に宛てた手紙
伊東さんが楠田市長に宛てた手紙

楠田大蔵市長:
市の方針としても素晴らしいし、それを1人で実行に移そうとしているっていう、しかも高校生が。だからできる限り力になりたいと

実は、伊東さんが「みんなの冷蔵庫」実現に込めた思いには、姉親子の存在があった。

伊東風花さん:
私の姉はシングルマザーで、毎日、仕事も頑張りながら子育ても頑張っているのに苦しい生活をしていて、努力をした分だけ報われないっていうのがすごく悔しくて、「お姉ちゃん頑張っているのに、何でなんだろう」っていう(思いがあった)

伊東さんの姉・有希さんと、その娘の明来ちゃん(3)。明来ちゃんを女手ひとつで育てる有希さんは、アパレルメーカーでフルタイムで働いているが、生活は厳しく、一時は家賃や光熱費も支払えない状態になったという。娘にご飯を食べさせるのが精いっぱいで、自分自身は食事もままならない日が続いていた。

伊東さんの姉・有希さん: 
人として生活するレベルが、だんだん落ちていくんですよね。洗剤が買えなくなって、ごみ袋が買えなくなって。だけどここに来て、すごく精神的に落ち着いたと思います。もらう、もらわないに関係なく、お話したりとか安心するよりどころになったかなと思いますね 

経済的な支援だけでなく、この場所は、誰もが集える心のよりどころにもなっているという。 

生活支援だけではなく“心をつなぐ拠点に”

伊東風花さん:
本当に生活に困っている人だけっていうイメージが、わりと定着していると思っていて、そうじゃないっていうのをわかってもらいたいです

野菜をもらいに来たという男性が訪れた。

男性:
トマトもらいに来たよ。トマト、おいしいっちゃん、これ

伊東風花さん:
どれがいい?

男性:
これ。ありがとう

また、1人暮らしの大学生は…。

1人暮らしの大学生:
今からバイトなので、ミカンもらっていきます

伊東風花さん:
バイトって、何やってるんですか?

1人暮らしの大学生:
そこの飲食店で。明太子をきのう、バイト先に持って行ったらすごく好評で、もう1個もらっていいですか? ありがとうございます

1人暮らしの大学生:
毎日、来たいなって思ってしまうくらい温かい感じで、地域の方と交流って最近、なかったりしたので、気軽に声をかけてくださるのが、すごくうれしいなって思いました

しかし、伊東さんの願いは、この「みんなの冷蔵庫」が世の中から「なくなること」だと話す。 

伊東風花さん:
 
最終的には、こんな「みんなの冷蔵庫」がなくても、人と人とが直接助け合ったりとか、物を交換したりして自発的に生きやすい環境にしていく世の中になっていってほしいと思っています

コロナ禍もあって、人間関係が希薄になる中、「誰もが集える場」というのはキーワードになりそうだ。 

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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