深刻化する災害から命を守るための「時系列の防災行動計画」が重要度を増すなか、自治体では課題を抱えながらも犠牲者ゼロを目指し、より実効的なタイムラインをつくろうとしている。全国の防災担当者などが集まった会議を取材した。
国も力を入れる防災タイムライン
「タイムライン」は、水害など災害が発生する状況を想定し、被害を最小化するために「いつ」「誰が」「何をするのか」をあらかじめ時系列で整理したもの。東京大学客員教授・防災マイスターの松尾一郎さんが、第一人者として日本でも取り組みはじめ約10年が経った。
政府が経済・財政政策の基本方針を示した「骨太の方針」にも「充実強化を図る」と記載され、国も推進に力をいれている。

水害だけでなく噴火・地震にも
防災マイスター・松尾一郎さん:
2013年2月にタイムラインの原型をアメリカで見つけて、それからちょうど10年です。いまでは日本の防災計画にとって、重要な支援ツールのひとつになったと思います。これまでは水害に着目したタイムラインが多かったのですが、火山噴火や地震津波対策など様々な場面で活用できる。加えて、市町村や自治会・町内会、さらに家族など様々な場面で、命を守るタイムラインにして行かなければなりません

より良いものへ 防災担当者が一堂に
2023年で6回目を迎えたタイムライン防災の普及・発展を目指した会議「タイムライン防災・カンファレンス2022in東京」
実効的なタイムラインにするため、気象庁や国土交通省の担当者、さらには北海道から九州まで全国各地から自治体の関係者が集まった。東京大学客員教授・防災マイスターの松尾一郎さんもコーディネーターの一人として参加した。
タイムラインの策定や運営に関わる自治体の防災担当者などが、取り組みや悩みを共有し、今後に繋がるヒントを探した。

住民避難の難しさを実感
今回、初めて参加した長野県須坂市の山小忠久さん。
課題を突きつけられたのは、2019年の東日本台風だった。須坂市では一級河川・千曲川の氾濫などにより、200世帯以上が浸水し、逃げ遅れた80人以上が消防に救助される事態となった。

長野県須坂市 総務課・山小忠久さん:
令和元年東日本台風災害では、改めて避難情報発令のタイミングの難しさ、住民への情報伝達の難しさ、住民の災害に対する認識、住民自らの避難開始のタイミングなど多くの課題が残りました

地域に特化したタイムラインを策定
その教訓から、被害が深刻だった地区で2022年9月に完成したのが「コミュニティタイムライン」。雨の量に応じ、地区でやるべきことなどをあらかじめ決めることで、逃げ遅れゼロを目指している。

訓練を実施するなかでタイムラインの有効性を実感していて、さらに広げていきたいと考えている。

長野県須坂市 総務課・山小忠久さん:
来年度以降も、浸水想定区域のタイムラインを随時作っていく取り組みを進めていきます

会議では担当者同士で悩みの共有
一方で、タイムラインの課題や懸念もある。所属や地域、経験などが異なる人が同じグループとなり行われたワークショップでは…
東京都板橋区・新井凌雅さん:破堤する(堤防が壊れる)ことも低いので、職員の意識自体ちょっと低いのかな

率直な意見が交わされるなか、須坂市の山小さんが問題提起したのは、避難にサポートが必要な“要支援者”をめぐる難しさだった。
長野県須坂市 総務課・山小忠久さん:独居の高齢者・特に避難行動要支援者が多くいるんですけど。個別避難計画にあわせて、そういう方たちを支援できるかどうか

この意見には、他の自治体からも共感があった。
北海道北見市・橋本誠治さん:避難しなきゃいけない、避難行動要支援者の方を支援するために、セーフティなところにいる人が助けにいくという…

担当者の交流が命を守る街づくりに
「災害時に少しでも犠牲を減らすために」同じ思いを持つ担当者同士の交流は、命を守るまちづくりへ繋がっていく。
長野県須坂市 総務課・山小忠久さん:
自分たちの中で課題を抱えるんじゃなくて、分からないところを聞ける。他市町村の仲間がいることは、非常に心強く感じました

命を守る取り組みを広める
会の最終日には、約20の自治体のトップがステージに立ち、「タイムライン」を今後さらに強力に推し進めていく宣言が行われた。

防災マイスター・松尾一郎さん:
全国の自治体の防災担当職員とか自治体のトップ・市町村長、さらには住民代表が集まって、様々な悩みを共有できた。一歩ずつ前に進んでいるが、まだまだ参加が足りない。タイムラインは、市町村長など意思決定者が迷わず、行動出来る支援ツールだと思います。だから全国・2000の市町村に広げなければならない。国民会議に参加している市町村長、内閣府、消防庁、国交省など国の機関の代表者も一緒になって悩みを共有しつつ、国民を災害から守ろうとしている。これは素晴らしい取り組みだし広めなくてはいけないと思います

策定進まぬ福島県 3月完了目指す
今後、福島県内でも積極的な取り組みを期待したいが、気がかりなデータがある。
都道府県管理河川では、流域の1168の市町村のうち、96%にあたる1120の市町村が「タイムライン」を策定しているが、福島県は2022年5月末の時点で全国で唯一半分以下にとどまっている。2023年3月までに完了目指すという。

防災マイスター・松尾一郎さんは「十分に広がりを見せていないことはとても残念だが、作ることを急いで使えないものを作ってしまうのが一番だめ。ちゃんと活きたタイムラインにしなくてなならない」と話す。
いつ起こるか分からない災害に備え、家族や個人でも作っておくと命を守る行動につなげられそうだ。
(福島テレビ)