大阪で営業している「マスターズカフェ」というお店を取材した。注文を間違えても、お客さんにも、店員にも笑顔があふれるというこちらのお店。いったいどんなところなのか?
注文を間違えても…笑顔のヒミツ
大阪・阪南市では毎週木曜日に開かれる、地元で評判のカフェがある。その名も「マスターズカフェ」。

女性客:
私はアップル!
女性客:
ホットコーヒー!
注文をとるのは、いずれも年配の男性たち。

坂口さん:
はい、オレンジジュースの方は…
女性客:
えー、アップルって言ったやん!どっちでもいいわ
坂口さん:
あ、アップルか
女性客:
大丈夫、ありがとう!

注文を間違えても気にない。実はこちらは、認知症患者とその家族が中心となって運営するカフェだ。

中田さん:
150歳まで生きるんや!150歳まで生きて記録作るんや!あと60年生きやなあかん!
男性客:
あと60年、頑張ってよ

男性客:
明るく元気に頑張っていますわ。それがいいですわ。僕も元気もらってるんでね

スタートのきっかけは家族からの声
マスターズカフェができたのは、2018年。認知症患者の家族から「相談できる場所を作りたい」という声が出たことがきっかけだった。そこへ、場所の提供を申し出たのが、地元の図書館だ。

阪南市立図書館 加藤靖子館長:
阪南市の図書館も認知症にやさしい図書館でありたいという思いがありました。認知症の方ばかりが集まるのではなく、コーヒー飲んだりすることで耳の端で、認知症の方がおられるんだなとか、認知症の相談をここでやっているんだなと知っていただけたらと思いました
こうして、図書館の隣にマスターズカフェができた。

マスターの一人、月浦徳久さん(80)。最初は客として、カフェを訪れた。そのときの様子を、マスターズカフェの設立に関わった岡やよいさんが話してくれた。
岡やよいさん:
月浦さんが「妻が認知症で」と相談に来られて
月浦徳久さん:
どっか行って帰ってくるときに、(妻が車を)放って帰ってくることがあったから。やっぱりちょっとおかしいなと…それで気づいたというかな

月浦さんは元々、鉄工所に勤務していた。飲食業とは無縁だったが、妻のためにと夫婦で参加を決めた。
月浦さんの妻・千恵さん(80):
結構楽しいです(笑)
ボランティア:
冗談言いながらね

お客さんの顔認識できなくても活躍…進化する居場所
カフェの設立に関わった岡さん。最初は家族のための居場所として始めたが、その役割が変化してきたと感じていた。
岡さん:
認知症になっても活躍している姿を見て勇気づけられて、ここで自分も活動したいという人がだんだん増えてきた

一方で岡さんは、あるマスターを気にかけていた。飯田正さん、64歳。4年前に若年性認知症と診断された。
飯田正さん:
物忘れしやすい。僕が特に重症

カフェの客:
抹茶オーレのホット
飯田さん:
ちょっと待ってください。抹茶オーレの?
カフェの客:
ホット!
飯田さん:
1名、1名で…何番だっけ…3…
マスターズカフェでは、テーブルに大きな番号を表示し、その番号を伝票に書いて、注文の間違いを防いでいる。

丁寧な接客で評判の飯田さんですが、ある悩みを抱えていた。
お客さんを見送った後、出口で「岡さんに聞かんと全然分からんわ…どの人がお客さんか。全然分からへんよ!」とつぶやいた。
認知症になると、顔の認識が苦手になるといわれていて、飯田さんにもその不安があった。

写真と、写真をプリントした紙にマスターズカフェで働くスタッフの名前を書き込んだのを見せてくれた。
飯田さん:
これね、いつも大切に持っているんですよ。どこ行くときも…名前忘れやすいんですよ。誰やったかなと思って
大切な仲間の名前を忘れないため、飯田さんは、写真をお守りのように持っていた。

クリスマス会で大役の“サンタ”に挑戦!
2022年最後の営業日は、クリスマス会。岡さんはある提案をした。
岡さん:
メインのサンタクロース、飯田さん!
サンタクロース役に飯田さんを推薦した。
飯田さん:
何をすればいいんですか…

クリスマス会当日。飯田さん、しぶしぶサンタクロースの衣装に着替えた。他のマスターたちも帽子をかぶって、準備万全だ。
ところが…飯田さん、何をしたらいいのか分からない様子。そこで岡さんが、飯田さんの背中を押した。

向かった先は隣の阪南市役所。ここで営業をした。
飯田さん:
はい、メリークリスマス!ご注文とりに来ました
飯田さん、声が出始めた!
飯田さん:
メリークリスマス!

月浦さん:
お届けにきました
飯田さん:
よいお年をお迎えくださいませ
勢いがついた飯田さん、積極的に声をかけ始めた。次々とお客さんを店内へ招き入れた。飯田サンタの効果は抜群!いつもの倍のお客さんが訪れた。厨房も大忙しだ。

マスターたちの活躍は、店内を笑顔に包んだ。
カフェの客:
勇気が湧いてきます。自分の老後もまだまだ頑張れるなと思います

年が明けて、マスターズカフェの初日を迎えた飯田さん。仲間の写真を携えて今日も一日頑張っている。
飯田さん:
仲間です。だから来る甲斐があるなと思います。宝物にしていますからね

認知症になっても、孤独にならないで。そんなメッセージを載せて、今日もマスターズカフェはオープンしている。
(2023年1月18日放送)