新型コロナウイルスの感染第8波が長期化する中、医療がひっ迫し、救命救急にも影響が出ている。高齢者施設での診療を行う医師は、このままでは「助かる命も助からない」と危機感を強めている。

ただ事ではない“忙しさ”

この日、高知市にある朝倉医療クリニックの院長・武市牧子医師が行う高齢者施設への訪問診療に同行取材した。

武市牧子​医師:
(記者に対して)とりあえず、きょうはどんどんついてきて

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午前中に高知市と土佐市の5カ所の高齢者施設を回るハードスケジュールだ。

武市牧子​医師:
昼まで雨が降らんかったらいいね。(診る患者が)急増している。忙しさからみても「ただ事ではない」と感じとってもらえたら

午前9時30分、高知市の高齢者施設で訪問診療を開始する。

武市牧子​医師:
足がむくんでいるから足を動かさないかん。ここが痛くならないよう足を動かさないかん

入所する男性は足が腫れ、痛みを訴えていた。原因はアルコール中毒。近くのスーパーでお酒を買い、部屋で飲んでいたという。

武市牧子​医師:
点滴でアルコールを洗い流している。あっちこっち出歩いて外からウイルスをもらってくる。施設の難しさはそういうところにある

午前11時に土佐市の高齢者施設に到着すると、すぐに5回目のワクチン接種。その後、全入所者47人を診療する。

武市牧子​医師:
どう?

施設職員:
水分摂取量が少ない。ただ、ご飯は食べている

武市牧子​医師:
継続いける、点滴?肩が痛い?腕を動かしたら痛い?貼る湿布と塗る湿布どっちがいい?

入所者:
貼る湿布

蘇生後でさえ患者受け入れてもらえず

担当する施設で入所者が次々と発熱し、臨時の訪問診療の要請が急増。医療体制がひっ迫する中、武市医師はある危機感を強めていた。

武市牧子​医師:
病院がコロナ患者で満床で、救急患者の受け入れができない

1月10日の朝、クリニックで診療中の武市医師に緊急連絡が来た。

「先生、入所者が窒息状態です」

同じ建物内の施設に入所する99歳の女性が薬をのどにつまらせ心肺が停止。武市医師が腹部を圧迫する応急処置をし、女性は数分で息を吹き返した。
病院に救急搬送しようとしたが…。

武市牧子​医師:
救急隊員が「先生が電話してくれないと(病院が)受け取ってくれない」ということで、わたしが電話した

しかし、武市医師が複数の病院に電話しても「すべてコロナで満床になっている」と受け入れてもらえなかった。

武市牧子​医師:
蘇生後でさえ、救急患者を受け入れてもらえなかった

結局、女性は施設で療養を続けることになった。

まだまだ深刻な“医療のひっ迫”

医療機関に救急患者の受け入れを4回以上要請し、30分以上現場で滞在する「救急搬送困難事案」が、高知市では1月に入って25日までに179件と、前年の同時期の5倍以上に上っている。

武市医師が担当する土佐市の高齢者施設でも1月9日に「救急搬送困難事案」が起きていた。
80代の女性の意識がもうろうとなり職員が119番通報。しかし、13の病院に受け入れを断られ、患者は2時間も救急車の中で待機することになった。結果的に初期の脳梗塞で命に別条はなかった。

武市牧子​医師:
コロナで病床が圧迫され、普通の病気の悪化、例えば心筋梗塞・脳梗塞・脳卒中に救急車・救急病院が対応できない

長期化する第8波で救急医療がひっ迫し、高齢者施設の入所者の命をも脅かしているのだ。

武市牧子​医師:
救急搬送ができなくて“助かる命も助からない”ということはもっと出てくると思う。患者に対する訪問診療医の責任は重たくなっている

高知県は、「救急搬送困難事案が第7波以上に増加し、医療・福祉・消防関係者の疲弊は極限状態にある」としている。武市医師は「感染者数は減少傾向にあるものの、医療のひっ迫はまだまだ深刻。そのことを知ってほしい」と、訪問診療の同行取材に応じてくれた。

第8波の最前線で戦う訪問診療医のメッセージを受けとめ、わたしたち一人一人が基本的な感染対策に務めることが大切だ。

(高知さんさんテレビ)

高知さんさんテレビ
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