大阪・堺市の南部に位置する「泉北ニュータウン」。高度成長期に大阪のベッドタウンとしてつくられた、大阪を代表する“ニュータウン”のひとつだ。

高齢化や人口流出が進む「ニュータウン」 活気を取り戻すカギは?

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ここで新しい移動サービスの実証実験が始まった。その背景には「ニュータウン」だけど"ニュー"ではない街の悩みがあるようだ。

堺市にある「泉北ニュータウン」。区役所に停まっているのは「NANKAIオンデマンドバス」。

「オンデマンドバス」とは、路線バスとは違って時刻表や決まったルートはない「予約制の乗り合いバス」で今回、南海電車と南海バス、堺市がタッグを組み、実証実験をスタートさせた。一体なぜ「泉北ニュータウン」で始めたのか?狙いを聞いてみた。

南海電気鉄道 まち共創本部 今中未余子課長:
高齢化が進んでおられたりとかで、地域にこもるというか、外に出ていくのがおっくうだわ、みたいな感じの方々も見受けられるようになってきました。そういう方々を外に引っ張り出して、もっと地域と関わりを持っていただければなと

堺市 永藤英機市長(2021年12月20日定例会見):
(泉北ニュータウンに)私も子どものころ住んでおりましたが、その時は若い家族が大変多かった印象がありますが、今、高齢化が進んで」「民間事業者の皆さまとも協力をしながら、連携をして、地域の課題解決に努めていきたい

かつて申し込み殺到の「公営住宅」→今や老朽化・高齢化が…

高度成長期の1967年に街開きした「泉北ニュータウン」。公営住宅の申し込みには、新天地を求める働き盛りの世代が殺到。「当選したらまるで夢のよう」とまで言われた。

子供の数は急増し、学校は“マンモス校”状態。活気ある住宅街として発展しました。


 

​しかし今、泉北ニュータウンの人口は、1992年のピーク時から5万人減少。

住む人の約4割が65歳以上という高齢化が進んでいるのです。

※泉北ニュータウンの高齢化率37.1パーセント。国内全体29.1パーセント

住民女性:
昔からのまんまで、そのまま年代が上がっていってる

住民男性:
私も79歳やけど、まだ先輩じゃないんで。若い方なんですよ

「シニア世代」の新たな足となるか オンデマンドバス実証実験スタート

こうした中、シニア世代の交通手段として、新たな取り組みが始まった。

記者リポート:
オンデマンドバスの停留所は、このような案内が目印となっています

今回の実証実験は、泉北ニュータウン内の2つの地域が対象となり、駅前や病院、団地の前など合計29カ所の停留所が設置されている。

初日の1月10日、さっそく利用者が。

82歳の利用者:
私の場合もう年が年なんで、免許の返納を考えてますので、ありがたいです

利用者:
今日は試しなんです。泉北ニュータウンのこの近隣に買い物する所もありません。90歳近いお年寄りなんか、途中で2、3回休憩しながら、買い物に行ってるんですよ

バスは8人まで乗車でき、運賃は200円。予約は電話かウェブで30分前まで受け付けている。

利用者が出発地と目的地、希望時間を伝えると、人工知能=AIが、最適なルートと乗り降りの順番を計算し、スムーズに送り届けてもらえる仕組みだ。

利用者には好評の一方で課題も…「予約ようわからん」

「オンデマンドバス」利用者には好評なようだ。

利用者:
3人と(私と相乗りで)合計4人で乗りました。別に違和感なく、誰でも利用できるなと思いました

一方、課題もあるようで

女性:
(Q.予約は難しそうですか?)
結局、電話でするんですか?行くんですか?結局訳が分からんで「よう行かんわ」という人もいてはると思います

「使い方が分かりずらい」という人もいて、利用者はまだ少ないようだ。

車を持たない「若い世代」をニュータウンに… もう一つの目的

そして、この実験は高齢者のためだけではなく、"車を持たない若い世代"を取り入れることも目的としている。というのも…

住民の親子:
子供は少ないと思います、この辺は特に。夏にビニールプールを(風で)飛ばしてしまって、ピンポイントで家にピンポンって届けに来てくれるくらい、たぶん子供いてないと思います

住民の子供:
そんなに遊ぶ子がここら辺にいない、他の友達とも結構いっぱい遊びたい

泉北ニュータウンに50年在住の住民:
寂しなってるわ。千里(ニュータウン)以上に寂しいんとちゃう。活気ないわ

「オンデマンドバス」 かつての活気を取り戻すカギとなるか

実証実験は3月10日まで行われ、状況を見て導入を検討するということだ。街開きから55年。果たして「オンデマンドバス」は、かつての活気を取り戻すカギとなるのか。

「若い世代」をニュータウンに呼ぶのは難しい…その理由は

泉北ニュータウンでは、1992年のピーク時に約16万人いた人口が、2020年には約12万人まで減った。さらに高齢化率は37,1%。日本の高齢化率は29,1%なので、平均を上回る非常に高い数値となっている。
ニュータウンは全国にありますが、人口減や高齢化は、共通する課題です。

自身も奈良のニュータウンで育ったという東京工業大学准教授・西田亮介さんは、ニュータウンに若い人たちを呼び込むことの難しさを指摘する。

東京工業大学 准教授・西田亮介さん:
人口動態が変わっていった時期に、都市に人口が集中して、住宅が不足した時に”団地型”で建てられたのがニュータウンです。同じような家族構成の人たちが入居したので、同じように高齢化していくわけです

東京工業大学 准教授・西田亮介さん:
日本は居住権が強いので、追い出すことはできないですし、ニュータウンを畳んでいくこともできません。そうなると、今いる(高齢の)人たちの生活を維持しつつ、どうやって次の(若い)生活者を呼び込むか…を一緒に検討していく必要があります

「利便性」の高い千里ニュータウンでは人口も増加

ただ、吹田と豊中にまたがる日本で最も古いニュータウンの「千里ニュータウン」に目を向けると、泉北ニュータウンとは対照的に人口が増えている。
下がり続けていた千里ニュータウンの住民の数は、2010年頃から増加傾向にあるのだ。

2010年代の「街開き50年」のタイミングでマンションの建て替えが加速して、新たに転居してくる子連れの若い世代が増えたということだ。

新実キャスター:
マンションを新しく建てたから人が増えたのか、住みたい人がいる需要があるからマンションを建てたのか、後者のような気もしますが…それぞれの立地も大きく影響しますよね?

神崎博デスク:
千里ニュータウンの場合は、通勤面を考えても大阪の梅田に直接行ける。交通面を考えると高速道路の主要出入り口に近く、伊丹空港も近いし新幹線のアクセスも良い、つまり”利便性”が高くて便利です。だから若い人の流入も増えているのでしょう

「なにわ筋線」の開業が泉北ニュータウンに大きなポテンシャルに

では、泉北ニュータウンは今後どうなるのか。街にとってこんな明るいニュースもある。
最寄り駅の泉ヶ丘駅では、2025年に事業費100億円をかけた駅前商業施設が開業予定、同じ2025年に大阪狭山市にある近畿大学病院が移転予定だ。

さらに、2031年に開通を目指す「なにわ筋線」によって大阪市内へのアクセスが向上することになる。

神崎博デスク:
(泉北ニュータウンの住民は)これまでは南海電鉄のなんば、新今宮まで行って、そこから乗り換えて大阪市内の中心部へ…という流れだった。なにわ筋線が出来たら南海の路線で行けるので、乗り換えは必要だろうけど、大阪市内のビジネス街などにスムーズなアクセスが可能になるでしょう

こういった街の発展によって、若い世代の注目度も高まるでしょうし、泉北ニュータウンにも良い影響を与えそうだ。

「利便性」と「インフラ」、中心部へのアクセスを意識した街づくりが出来るかどうか…がニュータウンの将来を大きく左右することになりそうだ。

(関西テレビ「報道ランナー」1月11日放送)

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