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今回は感染症診療の名医、大阪大学大学院医学系研究科 変革的感染制御システム開発学の佐田竜一(さだ・りゅういち)医師が、俳優・渡辺徹さんの死亡原因となった「敗血症」について徹底解説。

急速に症状が進行するため、日常生活に異変を感じたらすぐ病院へ。治療開始が遅れると死亡率も上がり、回復度も下がる敗血症について解説する。

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敗血症とは

敗血症という名前もしかしたら聞き慣れないこともあるかもしれませんが、定義としては、“感染に対する宿主(しゅくしゅ)生体反応の調節不全によって生じる、生命を脅かす臓器障害”と定義されます。

簡単に言うと、微生物・細菌の感染により人に強い反応が生じて、その反応が臓器に障害を起こして命に関わる病気のことを言います。

敗血症の死亡率

敗血症という病気は、命に関わる疾患です。

例えば1990年~2017年に、全世界的な「Sepsis(セプシス)」と言われる敗血症の病気の死亡率について調査した研究では、約20%弱の患者さんが命を失うとされています。

日本でも同様な研究がありますが、2010年~2017年の日本の敗血症の院内死亡率、つまり入院患者の死亡率は18.3%

そしてこの疾患は、年齢が高いほど死亡率が高くなる特徴があります。

また、日本の敗血症という疾患の割合は年々増加傾向にありますので、こういった疾患の知識を高めていく必要があると言えます。

敗血症の原因

敗血症を起こす原因は、感染する臓器によって異なります。

日本の複数の集中治療室からの報告になりますが、以下が敗血症を起こす原因臓器のトップ4です(括弧内は症状)。

1位 肺(せき・たん・息苦しい)
2位 腹腔内(おなかが痛い)
3位 尿路(排尿時に痛む、頻尿)
4位 皮膚軟部組織(皮膚が赤く腫れて痛い)

これらの代表的な臓器に細菌が感染して、敗血症を起こします。

敗血症の症状

敗血症の症状は、感染する臓器によって異なることが特徴です。

例えば、肺炎であれば咳や痰が出て息苦しくなりますし、腹腔内の感染であればやはりお腹が痛くなります。尿路感染であれば排尿時に痛んだり、頻尿が出てきます。皮膚軟部組織であれば、皮膚が赤く腫れて痛くなります。

これらどの感染症であっても発熱することが多いですが、敗血症に至ると急速に重症化して、血圧が下がり、呼吸が早くなり、意識状態が悪くなります

特に敗血症に至った場合は、抗菌薬投与が1時間遅れると生存率が7.6%ずつ下がるのではないか、という過去の報告もありますので、敗血症の早期診断と早期治療が重要になります。

敗血症の診断ポイント

敗血症を診断するには、そのことを適切に評価する必要があります。敗血症の評価ツールはいくつかありますが、そのうちの1つとして、「quick SOFA(クイック ソーファ)」と言われる項目があります。

具体的には、
・収縮期血圧(血圧の2つの数字のうち、上の数字)が100mmHg以下
・1分あたりの呼吸数が22回以上
・意識状態の変化(具体的には:意識が朦朧とする)

敗血症の評価ツールの1つ「quick SOFA」 感染症が疑われる患者で2点以上あれば敗血症の疑い
敗血症の評価ツールの1つ「quick SOFA」 感染症が疑われる患者で2点以上あれば敗血症の疑い

これらの項目がそれぞれ当てはまれば1点ずつ加算して、感染症が疑われる患者において2点以上あれば、敗血症の疑いと判断します。

敗血症の治療法

敗血症治療の基本は、適切な抗菌薬投与をとにかく早く行うということ。場合によっては2種類以上の抗菌薬を投与することもあります。

また臓器不全が問題になりますので、血圧を上げて臓器に血液を届ける。具体的には大量の点滴、1日2リットル~多いときは8リットル程度必要なこともあります。また、血圧を上げるための「昇圧剤」を使うこともあります。

さらに、それぞれの臓器のサポートをする必要が出る場合もあります。

具体的には、呼吸が悪い場合には酸素を投与したり、必要な場合は人工呼吸を行うこともあります。腎臓が悪い場合には、状況によって透析治療が必要になることもあります。心臓が悪い場合にも、やはり昇圧剤の管理をして、血圧を上げたりする必要があります。

また、元々患者さんが持ち合わせている敗血症以外の管理が必要な場合もあります。

具体的には、糖尿病を持ってらっしゃる方の糖尿治療であったり、免疫力を下げる治療が必要な患者さんの免疫の管理であったり、そうした複合的な治療を必要とします。

敗血症の回復について

敗血症の回復には、いくつかの項目があります。

具体的には、もともとの生活力敗血症の重症スピードとその度合い、そして早期に治療できるか治療が適切か、という要因が絡み合います。

例えば生活力が元々維持されている健康な方が敗血症になった場合、早期発見・早期治療が適切に行われれば、元々の生活力にまで回復することが多いです。

元々生活力が維持されている健康な人は…(図の青丸)
元々生活力が維持されている健康な人は…(図の青丸)

一方で、もともと寝たきりの患者さんなどの場合は、そもそも敗血症そのものも死亡率が高いですし、例え敗血症から回復したとしても、元の能力以上に回復することは絶対にありません。むしろ、さらに生活力が落ちてくる。

元々寝たきりの患者などは…(図の赤丸)
元々寝たきりの患者などは…(図の赤丸)

例えば、ご飯が食べられていたものが食べられなくなったり、着替えは何とかできていたものができなくなったり、などの生活力低下が訪れます。

最も悩ましいのは、“とても元気”とまでは言えないけれども、寝たきりとまでも言えないと思しきご高齢の方々です。

こういった方々は、敗血症になった後の回復の度合いにはバリエーションがあって、幸いなことにもともとの生活力にまで回復する人もいらっしゃれば、残念ながら生活力がわずかに落ちる人、ほぼ寝たきりの状態に近くなる患者さんもいます。

とても元気でも、寝たきりでもない高齢者は…(図の黄色い丸)
とても元気でも、寝たきりでもない高齢者は…(図の黄色い丸)

ですので敗血症の回復の中で、我々が関われるポイントとしては、もともとの生活力を維持する、健康を普段から意識しておくということ。そして敗血症になったかもしれないと思った時に、先述ような内容をもとに、早期に発見して早期に適切な治療をする、ということが回復の度合いに関われるポイントかと思います。

敗血症の注意点

敗血症は、特に高齢の方々の死亡率が高いことが特徴です。急な発熱とともに、着替え・歩行・トイレなどの日常生活動作に不具合が出たら、速やかに病院を受診しましょう。その際、血圧低下や呼吸数の上昇、また意識状態の変化は参考になるでしょう。

敗血症は急速に症状が進行する場合が多いですので、高熱が出ても元気という場合も、適切に経過観察をすることがとても大事です。

そして体調が悪くても、日常生活動作ができて食欲がある程度ある場合には、敗血症の可能性が低いので、ご安心ください。しかしながら食べられない状態が続けば、やはり受診をしましょう。

佐田竜一
佐田竜一

2003年大阪市立大学医学部卒業後、佐久総合病院にて初期、後期研修。08年より天理よろづ相談所病院総合診療教育部後期研修を経て、10年より同院医員。13年9月より亀田総合病院に赴任、腫瘍内科部長代理、総合診療・感染症科部長代理を経て14年4月より総合内科部長代理。2013年より大阪市立大学外来診療学・家庭医療学非常勤講師を兼任し、卒後教育とともに卒前教育にも携わっている。

名医のいる相談室
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