「いやあ、この内容で性的同意年齢16歳に引き上げって言ってほしくないです」 

そう憤るのは弁護士の上谷さくらさん。

法務省では、現在、性犯罪に関する刑法改正「性的同意年齢」について詰めの議論が行われ試案が示されたのですが、大事なその“年齢”部分がはっきりしないのです。

そこで、長年、性被害者の支援や弁護をしている上谷さくらさんに「性的同意年齢は16歳に引き上げになるのか」「性教育と性的同意年齢」について、2回にわたって話を聞きます。

「性犯罪に関する刑法改正検討会」委員でもあった上谷さくら弁護士 
「性犯罪に関する刑法改正検討会」委員でもあった上谷さくら弁護士 
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「性的同意年齢13歳以上」ってご存じですか? 

セックスするかしないかの判断ができるのは“13歳になったその日から”という今の法律なのですが、なんとこれ、明治時代にできた116年も前のもの。 

116年前と言えば一般家庭には電気もない、車もない、ご飯は火を起こして釜で炊いていたという、完全に歴史の教科書の中の世界。時は流れ、今やスマホで世界中と繋がる時代になったというのに、この法律のこの部分はずっとずっとずーっと変わらずそのままでした。 

それが、実態に合うようにしてほしいという声の高まりを受け、ようやく改正されようとしています。

2022年10月24日 法務省は試案を公表
2022年10月24日 法務省は試案を公表

そして、去年の10月24日。 法務省は「性的同意年齢を16歳に引き上げ」との試案を公表しました。 

3年前から取材をしている私は早速HPで公開されているその試案を読んでみました…。が、はっきり言って分かりにくい!

と思っていたら、先日1月17日、法務省は修正し、新しい試案を公表しました。

10月の試案と1月の“新”試案での違いは以下の通りです。新試案では、『』部分が削除されました。

第1ー2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢の引上げ 
(試案より) 

1、13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、『当該13歳以上16歳未満の者の対処能力(性的な行為に関して自律的に判断して対処することができる能力をいう。2において同じ。)が不十分であることに乗じて』わいせつな行為をしたときも、同様とするものとすること

2、13歳未満の者に対し、性交等をした者は、5年以上の有期拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、『当該13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて』性交等をしたときも、同様とするものとすること 

新試案では分かりにくかった部分が削除される形にはなりましたが、この条文で何がどう変わることになるのでしょうか?

「性的同意年齢」は何歳になったの?

島田「試案発表から2カ月で条文が修正されました。なぜでしょうか?」 

上谷弁護士「あまりにも世間の評判が悪かったからだと思います。当初の発表時、法務省はこの性的同意年齢の条文についてはずいぶん自信があったようなので、反発は意外だったのではないでしょうか。修正前に書かれていた『対処能力』って、何を基準として、どう判断するのか全く分かりませんでしたから。ですから、その部分を削除したこと自体は良かったです」 

島田 「結局、試案では『性的同意年齢』は何歳になったんですか?」 

上谷弁護士「一応は16歳と書いてありますが、条件が付けられていて…。これでは16歳と言ってはいけないと思います。その条件というのが5歳差以上ある人が13歳以上16歳未満の子どもと性行為に及んだら罰せられるという部分です」

島田 「『相手が5歳差以上』ということは、例えば13歳の子どもだったら18歳以上の人に対して罰則が適用される、ということですか?14歳なら19歳以上というように」 

上谷弁護士「そういうことですね、たぶん…」

 島田 「逆に言うと、13歳でも“5歳以内の年齢差なら性行為をしてよい”みたいにも取れてしまいますね」 

上谷弁護士「本当に、13歳とかを検討する余地を残す意味がわかりません。なんで一律16歳にしないのでしょうね。どうしても“13歳から性行為をしてよい”としたいのかしらとまで勘ぐってしまいます。

それに、若年者が保護されるべきところを、“変な抜け道ができる”と思います。加害者の『5歳以上離れているとは思わなかった』という弁解が通ってしまうと、通常の強制性交等罪や強制わいせつ罪と同じ要件を満たさないと立件できません。こちらの方が、圧倒的に立件のハードルが高く、加害者が否認すると被害者は法廷で証言しなければなりません。結局、若年者が法廷で根掘り葉掘り聞かれて二次被害に遭う、というこれまでと同じことが繰り返されることになります」 

根強く残る「性行為の自由」の保障

島田 「年齢差ですが、なぜ5歳差なのですか?」 

上谷弁護士 「年齢差の明確な根拠は分かりません。5歳以上の差があればさすがに関係は対等ではないということらしいです。

審議会では『13歳の子どもが性的にきちんと判断するなんて無理です』とデータや論文を提示して反対する委員もいると聞きます。でもある委員が『自分の周りの15歳なんてすごく健康的に性行為していますけどね』みたいな発言をすると、『そうだよね』という雰囲気になってしまうそうなんです。そこが全く噛み合わない。

偉い先生方が一体どのくらい子どもたちの実態をご存知なのかについても私は疑問を持っています」 

島田 「中学生のセックスを肯定してるみたいで、正直ちょっと…」 

上谷弁護士 「『子どもの真摯な恋愛の自由』『性行為の自由』を保障すべきだという主張は、一部に根強いものがあると感じています」 

島田 「子どもの、性行為の自由?」 

上谷弁護士 「私が委員をしていた検討会でもその意見があり、溝は埋まりませんでした。仮にそんな自由、権利があったとしても権利には義務が伴いますよね。子ども同士の恋愛で性行為をして、妊娠したり性感染症になったりしたら誰が責任とれるのでしょうか。誰もとれません。その子が大変になるんですよ。

例えば運転免許だって年齢が低くても運転自体はできるかもしれない、でも責任が取れないから免許は与えない。飲酒だって20歳以下でも能力的には飲める人もいるかもしれないが様々な影響を考えて20歳としているんです。なぜ性行為だけ13歳の子どもにもその自由があるとしたいのか理解できないです」 

島田 「年齢の近い子ども同士の恋愛で処罰されることを避けるためという意見もありますね」 

上谷弁護士 「それもあって今回の試案のような数字が出たのかとも思います。でも、子どもたちを保護するという観点から考えると、例えば低年齢で性行為をしているようなケースでは警察から児童相談所に通告などがあったほうがいいと思うんです。というのもそういう行為をする子どもは家庭観環境が複雑なことが多いんです。だから児相に関わってもらい、一度環境を整えてもらう方がいいと思います」 

今後の展開は?

島田「今後も世間の声によって条文がまた変わる可能性はあるんでしょうか?」 

上谷弁護士「基本的には難しいのではないかと思います。審議会では意見をまとめるにあたって相当やりあってるみたい。様々な意見があって、できるだけその間を取ったという感じだと思います。ただ、何歳だったらいいのか?ということなどがとても分かりにくいので、国会で変わる可能性はあると思っています」  

親として、大人として、求められることとは?

中学生の自分の子どもが真剣に誰かを好きになったと相談を受けたら親の立場として、大人として、あなたならどうしますか?

「そうか、真剣なんだね」とセックスをすすめますか? 

子どもの想いを聞いてあげて、性行為に関しては性的に本当に成熟して知識を得るまで愛情を持って、自分を大切にするよう子どもを導くことこそ、大人に求められていることではないでしょうか。 その意味でも、この性的同意年齢の試案はズレているのではないかと私も考えます。 

後編では「性教育と性的同意年齢」について聞きます。 

(フジテレビアナウンサー兼報道局解説委員 島田彩夏)

島田彩夏
島田彩夏

人の親になり、伝えるニュースへの向き合いも親としての視点が入るようになりました。どんなに大きなニュースのなかにもひとりひとりの人間がいて、その「人」をつくるのは家族であり環境なのだと。そのような思いから、児童虐待の問題やこどもの自殺、いじめ問題などに丁寧に向き合っていきたいと思っています。
「FNNライブニュース デイズ」メインキャスター。アナウンサー兼解説委員。愛知県豊橋市出身。上智大学卒業。入社以来、報道番組、情報番組を主に担当。ナレーションも好きです。年子男児育児に奮闘中です。趣味はお酒、ラーメン、グラスを傾けながらの読書です。