岸田首相は1月13日、米バイデン大統領とホワイトハウスで会談する。

今回の訪問の目的は、「G7広島開催に向けた地ならし」と言われているが、会談は今後の日米関係にどのような影響を与えるのだろうか。日米の有識者からみた会談の行方を聞いた。

岸田・バイデン会談(2022年5月)
岸田・バイデン会談(2022年5月)
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米は不確実な国内政治が外交政策を混乱に

「国内の政治基盤は安倍政権ほど頑強ではないのですが、反撃能力の保有に関しては世論の支持がついているのが興味深いです」

岸田政権の現状をどう見ているか。この問いに国際政治学者の三浦瑠麗氏はこう続けた。

「安全保障の改革をする際、岸田首相のハト派的性格はプラスに働いていて、野党も反対しにくい。岸田政権は国内政治的には脆弱だしメッセージ性も弱いですが、安保改革を現実主義的にやるには悪くない政権だと思います」

三浦氏「岸田政権は安保改革に悪くない政権」
三浦氏「岸田政権は安保改革に悪くない政権」

一方米国に目を向けるとバイデン政権はいま、議会とのねじれ関係に四苦八苦しているように見える。アメリカ・ニューヨークに本拠地を構える、全米随一の日米交流団体であるジャパン・ソサエティー。来日中のジョシュア・ウォーカー理事長にバイデン政権について聞いてみると、「いまアメリカ国内は不確実な状況です」との答えが返ってきた。

「下院議長を選出するのに1週間かかった政府がどのように機能するのか。それは外交政策にも混乱を引き起こすと思います」

ジャパン・ソサエティー理事長のウォーカー氏「アメリカ国内は不確実な状況」
ジャパン・ソサエティー理事長のウォーカー氏「アメリカ国内は不確実な状況」

会談のカギを握るのはバイデン大統領

では13日に行われる岸田バイデン会談を、2人はどう見るのか?ウォーカー氏は「今回の訪問はアジェンダが何か明確でない」と語る。

「岸田首相にとって重要なのは、バイデン大統領が親友として受け入れてくれるかどうかです。ただバイデン氏はキャリアの長い政治家ですから、間違いなく岸田氏にシンボリックないいメッセージを与えると思います。この会談は岸田氏にとって、防衛費増額を携えてバイデン氏に彼のアジェンダを直接説明するチャンスでしょう」

三浦氏も“カギ”を握るのはバイデン大統領だという。

「岸田首相としては今年5月に広島で行うG7サミットで、リーダーシップをとったことを国内政治上の力に繋げていきたい。だから会談の成否は、バイデン氏が岸田氏にどんなリップサービスを行うかにかかっているでしょうね。たとえば長崎訪問の発表ですとか、どんな行動で日米関係の蜜月性を訴えてくれるかです」

岸田政権の防衛力強化にアメリカは驚いた

岸田政権は防衛力の強化に向けて防衛費増額を決め、安保関連の3つの文書を改定した。アメリカはこの動きをどう見たのだろうか?ウォーカー氏は「皆、驚きました」という。

「私は10年間日本の政治を見てきたので既定路線でしたが、多くのアメリカ人は日本の防衛費増額のニュースに驚きました。そしてワシントンでは誰もが『おお、よくやった』という反応でした。ただ多くの人にとって疑問なのは、なぜこんなに時間がかかったのかと。そして非常に興味深いのは、これを行ったのが安倍元首相ではなく岸田氏だったこと。なぜなら岸田氏は中道左派であり、ハト派だと思われてきたからです」

一方、三浦氏は今後のアメリカの出方について懸念を語る。

「もしアメリカから追加的な要請があるとすると、やはり日本への中距離ミサイル、つまり中距離の核戦力の配備ではないでしょうか。アメリカは日本を中距離ミサイル配備先の最有力候補地だと考えています。もしそうなれば日本の安全保障戦略の中にある『非核三原則の堅持』とどのように整合性をとるのかが、今後大きな課題になってくると思います」

G7で「核なき世界」をアピールできるか

核軍縮をライフワークとする岸田首相にとって、広島でのG7はまさに正念場だ。「核なき世界」を岸田首相はどう世界にアピールできるのか?三浦氏はこう語る。

「これまで岸田首相は核に関しては“異例”でした。普通は実務者レベルが出席するNPTの会議で、昨年自らスピーチをし、3つの重要なメッセージを語りました。1つは北朝鮮などを念頭に置いた核に関する透明性の担保。2つ目は核を保有しない国への安全の保障。そして3つ目が日本は唯一の被爆国として被爆の実相を伝えていく取り組みをすると。良いリーダーシップだと思います」

NPT再検討会議で演説した岸田首相(2022年8月)
NPT再検討会議で演説した岸田首相(2022年8月)

ウォーカー氏も「G7開催地に広島を選んだのは非常に賢明な選択だった」と語る。

「しかしアメリカにとっては少し“ぎこちない”状況です。なぜなら岸田氏の主張は原則的に賛成できても、非現実的に思えるからです。世界は広島、長崎から学ぶべきです。しかし世界の、自由で開かれた社会のリーダーとして、自分たちを守る方法を明確に理解することも重要だと思います」

米共和党はトランプの次を候補にできるか

最後に日米の政局がどうなるのか聞いた。三浦氏はG7後の衆院選の可能性に言及する。

「衆院選は政権の求心力が最も高まったとき、おそらくはサミット後に安全保障の実績と増税を含んだ公約とセットで行われるのだろうと。その時は負ける感じはしないですよね。アメリカの大統領選に関しては、私はデサンティス氏(現フロリダ州知事)推しでした。明るいし若いしヒスパニックからの支持が厚い。ただ共和党の中でトランプ支持は根強い。トランプ氏が共和党の候補になれば、民主党は健康不安がバイデン大統領に生じない限りは、バイデン氏が候補となって、結果バイデン氏が勝つんだろうなと思います」

デサンティス知事
デサンティス知事

ウォーカー氏は「共和党はトランプが唯一の方法だとは思わない」という。

「トランプ前大統領が共和党の指名を勝ち取るかどうかは、候補者の人数次第。トランプ氏、デサンティス氏のほかにもう1人出るなら、デサンティス氏にチャンスがあると思います。トランプ氏になれば民主党はバイデン氏となりますが、トランプ氏と対峙できる政治家は安倍元首相なき後の日本にはいませんね。岸田首相とバイデン大統領はともにマネジャー型で、そういう意味では相性がいいかもしれません」

再出馬を表明したトランプ氏
再出馬を表明したトランプ氏

国内ではエネルギー問題や物価高。そしてロシアによるウクライナ侵攻。両国ともに大きな課題を抱える中、日米関係はどうなるのか。岸田バイデン会談の結果に注目したい。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。