スポーツの試合に盛り上がる会場、その近くに置かれていたのは、バスから電気を供給する移動式の発電車だった。
脱炭素へのアクションに迫った。
プロバスケがSDGs発信 水素バスでクリーン発電し有効活用
1月8日の東京・代々木第一体育館。
この記事の画像(10枚)俳優・松平健さんの「マツケンサンバ」のパフォーマンスで大いに盛り上がっていた。
実は、この直前まで行われていたのが、プロバスケットボールチーム「アルバルク東京」のホームゲームだ。ハーフタイムのショーだけでなく、試合も大いに盛り上がった。
しかし会場の外にも、多くの人が関心を寄せる場所があった。
それが、水素を使って電気を作る移動式の発電車 「Moving e(ムービングイー)」だ。
バスの屋根と床下に19本の水素タンクを搭載し、それを酸素と化学反応させることで電気を生成。 CO2を一切出さず、排出されるのは水のみだ。
イベントなどでの電気の供給や災害時での活用など、様々な形で、環境に優しいクリーンな電気を供給できる。
アルバルク東京の林邦彦社長も、「温暖化にスポーツとして取り組むというのは、大変重要なこと」と話す。
アルバルク東京・林邦彦 社長:
この発信力を生かして、地球温暖化に向けた、エコに向けた発信をしていきたい。
アルバルク東京はこれまでも、チーム全体での勉強会や、Tik Tokを活用した普及活動など、様々な形でSDGsに取り組んできた。
今回試合会場でファンに「Moving e」に触れてもらうことで、環境への関心をより深めてもらおうというのだ。
このバスで作った電気は、バッテリーに充電するなど、 小分けにして試合会場の中へ。
売店のドリンクを冷やす冷蔵庫や、自動で動くマスコットの電力に使うなど、有効活用している。
その他にも、ドリンクのカップを回収するリサイクル活動や、試合中の選手のユニフォームの背中に「カーボンニュートラルアクション」の文字を入れるなど、 チーム一丸となってSDGsに取り組んでいる。
アルバルク東京・林邦彦 社長:
世界規模で見ると小さな取り組みかもしれませんけど、皆さんに知っていただいて、他の団体の皆さんもそういうところに追随して行くような形で、一つの大きな取り組みになっていけるようにと思っております。
“水素は保存可能なエネルギー源” イベントや災害で威力発揮
「Live News α」では、早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚(おさない・あつし)さんに話を聞いた。
内田嶺衣奈 キャスター:
今回の試み、どうご覧になりますか?
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
今回は水素ですが、EVでも災害時などに車から電力を供給するシステムがあります。では、EVと水素による燃料電池車では何が違うのでしょうか。違いは水素は蓄えておくことができるエネルギー源というところです。
例えば、スマホを使わなくても、自然放電といって時間の経過とともにバッテリーの電気は減ってしまいます。さらに、災害時に家庭などへの電気の供給が滞ってしまった場合、EVに電気を充電すること自体、困難ですよね。
これに対して燃料電池車は、燃料の水素を使って電気を発電して給電します。発電をしなければ水素は減りませんので、長期間エネルギー源を、水素として保存しておくことができるというメリットがあります。
今回はイベント会場への給電ですが、災害時の緊急用の電力として、水素は非常に使い勝手が良いエネルギー源といえると思います。
内田嶺衣奈 キャスター:
今回はバスを使ったカーボンニュートラルへのアクションですが、今後は様々な場所、色々なシーンで取り組みを加速させる必要がありそうですね。
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
フランスなどは乗用車などの乗り物がCO2排出源のトップになっていますが、日本で最もCO2を排出しているのは工場などの製造現場なんです。それだけ日本では、ハイブリッドなど、メーカーの努力によって環境性能の良い車が走っているということです。
しかし火力発電をメインにしている日本の電力事情を考えると、単に車をEVに置き換えるだけではなかなかCO2削減につながりませんし、事業所でも電力に頼らないということを考えていく必要があるかもしれません。
内田嶺衣奈 キャスター:
脱炭素へのアプローチのひとつとして、水素エネルギーの普及を進める際のポイントはどんなところですか?
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
エネルギーを必要とする現場で水素の活用が増えれば、水素の供給網も増え、水素の価格が下がることも期待できます。
例えば国や自治体のサポートによって、水素ステーションの拡充を今まで以上に進めると、脱炭素への力になるだけではなく、災害時の緊急用の電力確保にもつながる一石二鳥になるのではないのでしょうか。
内田嶺衣奈 キャスター:
引き続き、脱炭素の未来に向かって、私たちが出来ることを探っていく必要がありそうです。
(「Live News α」2023年1月9日放送分より)