経営難だった老舗温泉ホテル復活へのキーワードは、「逆張りの再生術」でした。
日本一の湯量と源泉数を誇る大分県の別府温泉。
その中心的存在が杉乃井ホテルです。
2024年に創業80年を迎え、日韓首脳会談の会場にもなったことがあるなど、歴史がある老舗の温泉ホテル。
九州では抜群の知名度を誇っていますが、2001年には経営難に陥り、民事再生法の適用を申請。
その危機を救ったのが、オープン前のレストランを見て回るオリックス・ホテルマネジメントの森直樹さん。
金融業からスタートし、ホテル運営は経験がなかったオリックスグループが老舗ホテルを再生させた鍵は、コストカットとは真逆の方法でした。
ぜいたく感を味わえる宙館に、カジュアルに泊まれる虹館、そしてファミリー向けに和を意識した星館が2025年1月に加わった杉乃井ホテル。
そこから少し下った場所にあるのが、現在は閉館している本館です。
オリックス・ホテルマネジメント 森直樹さん:
この巨漢なホテルに対峙(たいじ)しなきゃいけないのかというプレッシャーは、最初に巨大な施設を見た時の率直な感想。
経営難に陥った杉乃井ホテルを再生させるべく、指南役を担った森さんを待ち受けていたのは、老朽化した建物とやる気を失っていたスタッフたち。
しかし、当時500室あったうちの約3割は埋まっており、森さんはここに勝算を見いだします。
オリックス・ホテルマネジメント 森直樹さん:
杉乃井のブランドは倒産してしまったけど、思った以上に維持されている。日本の温泉リゾート・温泉旅館は温泉と食事。このコンテンツさえしっかりしていれば、お客さまはきちっと呼べる。
再生事業ではコストなどを削減することが一般的ですが、森さんは逆に“投資”することを選択。
まず手をつけたのが温泉の改装です。
当時の杉乃井ホテルには、立地を生かした露天風呂はありませんでした。
森さんが思い描いたのは、繁忙期でも窮屈さを感じない露天風呂。
ヒントになったのが、別府に広がる棚田と海外の高級ホテルにあるプールでした。
オリックス・ホテルマネジメント 森直樹さん:
これは温泉露天風呂でやっているところはない。せっかく朝日があがるロケーション、高台にあるので、5段にすることによって誰もが一番いい場所で湯船につかりながら別府湾を見渡せる、朝日を見られる。
そして食事は、部屋食などを全て廃止しビュッフェに集約。
料理人が客の目の前で出来たてを振る舞う、シティーホテルのようなライブキッチンに。
ライブキッチンにはもう一つの狙いが。
オリックス・ホテルマネジメント 森直樹さん:
唯一お客さまと接点を持っていなかったのが調理だった。サービスの良さややる気を出すために、表に引きずり出さなきゃいけない。結果がつながれば、こんな楽しい仕事はないという状況を作るのが私の仕事。
客に接し、客が喜ぶ姿を間近で見える場所で仕事をすることで、スタッフのモチベーションへとつなげることに成功。
老若男女幅広い世代が満足するビュッフェは、ホテルの“ウリ”の一つにもなりました。
ビュッフェの開店直前、森さんが指摘したのは、さまざまなスイーツの横に置かれている黒蜜ときなこ。
説明書きはレインドロップケーキの奥に置かれており、分かりづらいというのです。
オリックス・ホテルマネジメント 森直樹さん:
調理とかサービスの人間はどうやって食べるかが頭に入っている。「近くに置いておけばお客さまがつけて食べてくれるだろう」と。実際、お客さまは初めて見てどうやって食べるのか分からないと、近くにあってもあのままだとプリンの関係なのかどうなのか分からない。
こうした先入観にとらわれない徹底したお客さん目線が、思い切った設備投資や斬新な着想につながっているのかもしれません。
今後について森氏は「お客さまの期待を超えないとこの事業はいつか飽きられてしまう。競合の戦いよりはあらゆるところにしかけを、どんどん新しいものを作っていきたいし、オリックスホテルズ&リゾーツの施設はやはり違うという領域まで進化していきたい」と話しました。