「特業(とくぎょう)」という言葉をご存じだろうか?
本業、副業、兼業に続く第四の働き方「特業」を提唱するのは、世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋さんだ。これまで澤田さんは、年齢性別、障がいの有無を問わず誰もが楽しめる「ゆるスポーツ」を考案してきた。
その澤田さんが、今度は誰もが持っている特性や特技を活かした「特業=特別面白い職業」のイベントを都内で開催すると聞いて取材した。
聞いたことがない職業がずらっと並ぶ
「最近何か印象に残ったことはありますか?」
こう筆者に聞いてきたのは「音楽コンシェルジュ」の中学1年生、ののかさんだ。ののかさんは、人との会話や様子から“あなたの為の一曲”を選んでくれる。
筆者が「明日マラソン大会に出るので完走できるか不安だ」と答えると、ののかさんは少し考えアップテンポのアニソンを選んでくれた。まさにランナーの背中をぐいぐい押してくれそうな曲だ。

今月都内で行われたイベント「特業祭2022」では、比較的重度の障がいを持つ子どもを中心に発案した、これまで例のない仕事の数々が披露された。
一緒に歩きながら緊張をほぐしてくれる「緊張ほぐほぐ屋」や「気まぐれ運命シェイカー」、「こーちゃんゲームマスター」など、聞いたことがない“職業”がずらっと並んでいる。

“特別面白い仕事”をやろう
このイベントを開催した澤田さんは、「特業」を考案したきっかけをこう語る。
「2019年に特別支援学校でお祭りを行った際、“特別面白い仕事”というブースを出したところ大盛況だったんです。なぜ“特別面白い仕事”をやろうと思ったかというと、いま障がい者の就労率は3割程度と少ないですが、『それは本人のせいではなく本人に合う仕事がないだけではないか。であれば本人に合う仕事をつくったほうが働きやすくなるはずだ』という思いがあったからです」

イベントに向けて澤田さんは子どもたちや保護者と、「どんな仕事ができるか」を相談した。
カードで人の悩みの解決策を導く「フォーチュンカードテラー」のユメちゃんの場合、澤田さんは最初『特技はありますか?』『ユニークな生活習慣はありますか?』と聞いた。
「保護者から『普段声を発することができないので、iPadの中に“こんにちは”、“お腹がすいた”などのカードを持っていて、話しかけられるとカードを選んで、音声読み上げソフトで読み上げるというコミュニケーション方法とっているんです』と言われたので、僕は『それ、凄くいいじゃないですか』と答えたんですね」(澤田さん)
仕事が減る中高年に特業を
実は「特業」は障がいのある人々だけの話では無い。いま澤田さんのもとには、企業や自治体から「特業」についてワークショップなどの依頼がきているという。
「例えば企業や自治体でも『自分には独自性がない』と思っている人はたくさんいる。そういう人たちとワークショップをやって、それぞれの特業をつくったりしています。いま企業で深刻なのは、特に40代後半から50代の男性が時代の変化についていけず、過去の成功体験に縛られているうちに自分ができる仕事が減っていることです。企業からはそういう人たちがもう1度働けるような職業をつくってくれないかという依頼がありますね」

ワークショップでは、事前にいくつかの設問に答えてもらう。例えば「人生で一番嬉しかったこと何ですか?」「自分だけのこだわりがありますか?」「名前のない趣味がありますか?」などだ。澤田さんはその理由をこう語る。
「自分の中にある材料を検索するためです。“ググる”ではなく“ジブる”と僕は言っていますが(笑)。そうすることで『そういえばあれも好きだった』『こういう経験があった』など引き出してもらい、そこから自分の特性や特技に合った職業をつくるんです」
自分の棚卸をして自分だけの職業をつくり出す「特業」。こうした新たな働き方が定着すれば、誰1人取り残さない多様な職場が生まれるかもしれない。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】