脱毛症、無毛症などの疾病や、外傷、小児ガンなどの治療に伴う薬の副作用で、髪に悩みを抱えている子供達に、医療用ウィッグを無償で提供する「ヘアドネーション」。 俳優の柴咲コウさん、ダレノガレ明美さん、川栄李奈さん、山本美月さんなど、数多くの芸能人が行ったことで、若い女性の間でも認知度が高まっている。

「ドネーションカット」とは

全国にトータルビューティーサロンを展開する「HAIR&MAKE EARTH」は、ヘアドネーションのための「ドネーションカット」を、全250店舗で導入。2020年は約2350人、2021年は約2660人、今年は11月までですでに約3550人が、ドネーションカットをしたそうだ。

担当者は、取材に対して、「ヘアドネーションに関する認知度の高まりにより、実施される方が増加した印象です」と話した。ドネーションカットを利用するのは30代から40代の女性が多く、夏休みの時期は、小学生からの”寄付”もあるという。

今回、記者が自ら、ヘアドネーションのため、髪の毛をカットしてみた
今回、記者が自ら、ヘアドネーションのため、髪の毛をカットしてみた
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注意点は、一定の長さ(31センチ以上など)と、十分に乾いていることだという

寄付用の髪を束ねて、ハサミでまっすぐに切り落とすヘアドネーション。今回、記者が試してみたが、個人でカットする場合の注意点は、一定の長さ(31センチ以上など)があること。そして、髪の毛が、十分に乾いていること。

カットした髪の毛が乾いていない場合、ドネーションを受け付けている団体に郵送される際、カビがはえることもあるという。その後、髪の毛は、トリートメントや染毛など複数の行程を経て、ウィッグ製作現場に持ち込まれる。約30人~50人分の髪の毛で、やっと1人分のウィッグができるそうだ。 

アデランスが作る医療用ウィッグ

医療用ウィッグをめぐっては、2015年に日本産業規格(JIS規格)ができた。利用者に対して、パッチテスト(皮膚アレルギー試験)が行われ、皮膚刺激指数が、「安全品」とされる5・0以下でなければならない。これは化粧品と同等、もしくはそれ以上の厳しい基準だ。

2016年以降、アデランスは、NPO法人ジャーダックから髪の毛を預かり、タイの自社工場で、寄付するための医療用ウィッグを製作している。医療用ウィッグは、希望する人それぞれに合ったものを、”オーダーメイド”で作られる。少しのサイズの”違い”が、大きな違和感につながるそうだ。

アデランスが作っている医療用ウィッグ
アデランスが作っている医療用ウィッグ

人の手で、ミシンを使って縫って作られるため、サイズがズレることもあるという。商品企画開発部の水沼宏樹氏は、この微妙な”違い”を説明するため、わざわざタイの工場まで足を運んだこともあるとのこと。

また、製作に先立って行われる、希望者の頭の計測にも、かなりの時間と経費を要していたとのいう。これを解消するため、アデランスでは、5種類のキャップ型のサンプルを開発。現在は、希望者と、オンラインでつないで、装着状況などを確認することが可能になり、効率がアップしたという。

医療用ウィッグ 30万円台も

寄付用のウィッグの価格は非公表だが、アデランスの医療用ウィッグは3万円台から30万円台。決して安いものではないが、ヘアドネーションになぜ協力し続けるのか。 社員の間からは 「会社の文化として根付いている。協力するのは当たり前」 「髪の毛で悩まれている方、嫌な思いをしている方をなくしていきたい」 など前向きな声が聞かれるそうだ。

取材に答えるアデランス商品企画開発部・水沼宏樹氏
取材に答えるアデランス商品企画開発部・水沼宏樹氏

アデランスは、1970年代「パパ、アデランスにしてよかったね」のCMが大ヒットして、業績が拡大。「何か社会貢献を」との考えから、1978年以降、子供達にウィッグを贈っている。 ヘアドネーションは、日常生活の中で、身近にできる”寄付”なのだが、希望者のもとに届くまでには、多くの時間と労力と費用が必要とされている。 

12月は寄付月間。寄付をしたら終わりではなく、必要とする人に届くまでの“長い道のり”にも思いをはせてみてはいかがだろうか。 

(フジテレビ社会部・小川美那)

社会部
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今、起きている事件、事故から社会問題まで、幅広い分野に渡って、正確かつ分かりやすく、時に深く掘り下げ、読者に伝えることをモットーとしております。
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小川美那
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「お役に立てれば幸いです」 見てくださる皆さんが“ワクワク&ドキドキ”しながら納得できる情報をお伝えしたい! そのなかから、より楽しく生き残っていくための“実用的なタネ”をシェアできたら嬉しいなあ、と思いつつ日々取材にあたっています。
フジテレビ報道局社会部記者兼解説委員。記者歴20年。
拉致被害者横田めぐみさんの娘・キムヘギョンさんを北朝鮮でテレビ単独取材、小池都知事誕生から現在まで都政取材継続中、AIJ巨額年金消失事件取材、TPP=環太平洋経済連携協定を国内外で取材、国政・都政などの選挙取材、のほか、永田町・霞が関で与野党問わず政治・経済分野を幅広く取材。
政治経済番組のプログラムディレクターとして番組制作も。
内閣府、財務省、金融庁、総務省、経産省、資源エネルギー庁、農水省、首相官邸、国会、財界(経団連・経済同友会・日商・東商)担当を経て現在は都庁担当。