去年11月、放火と殺人の疑いで逮捕された、大橋とし子被告(66)。

自宅の1階に灯油をまいて放火し、それぞれ寝たきりだった夫と息子を殺害したとして、起訴されていた。

22日に千葉地裁が言い渡した判決は、懲役20年。

大橋被告はなぜ、犯行に及んだのか。

30年以上にわたり息子を介護、ついに夫も病に倒れ…

平松秀敏解説委員:
驚きの真相が法廷で明らかになったのが、去年11月、千葉県旭市で起きた放火殺人事件です。

この記事の画像(9枚)

大橋とし子被告(66)は、自宅で寝たきりの夫・芳男さん(当時67)の介護ベッドに火をつけて殺害。同じく寝たきりの息子・芳人さん(当時32)も、一酸化炭素中毒死させたとして、夫と息子の2人を殺害した罪に問われています。

息子の芳人さんは、生まれつきの脳性まひで、30年以上にわたって大橋被告が1人で介護を担ってきました。

そうした中、自分の母親の介護もするようになります。

息子と母親、2人を介護する負担がたたったのか、2015年ごろ、大橋被告自身が脳梗塞で倒れ、右半身の自由が効かなくなりました。

懸命なリハビリで回復したそうですが、去年3月、今度は夫の芳男さんが脳梗塞で倒れて、介護が必要になったのです。

家族の介護と自身の闘病…想像を絶するほど、重い負担だったのではないでしょうか。

介護の“息抜き”にタクシーで買い物へ 貯金がみるみる減っていき…

こうして振り返ると、介護疲れによる殺人事件のように思えますが、実はそうではありませんでした。

「介護をつらいと思ったことは1度もありません」

大橋被告は法廷で、こう発言しているんです。

榎並大二郎キャスター:
だとしたら、何が犯行の動機だったんでしょうか?

平松秀敏解説委員:
事件の背景ですが、ひとつは「本人の浪費」

夫の芳男さんは大工をしていたのですが、脳梗塞になったことで収入が絶たれ、経済的に困窮することになります。

大橋被告は、介護の“息抜き”にショッピングに行くのを楽しみにしていました。毎日のようにタクシーで買い物に出かけて、だいたい1日に1万円ぐらい使っていたそうです。

この生活をやめることができませんでした。

当然、蓄えは減っていきます。   

現状を見かねた夫の芳男さんは、大橋被告に「親戚に借金をしてくれ」と進言しました。ところがそれは、大橋被告のプライドが許さなかったのです。

底を突く貯金…そこで大橋被告が何を考えたかというと、こんなにお金がなくなるなら「夫を殺害して自分も死のう」と心中を決意することになります。

「あんたが全部悪いのよ」夫の浮気に怒り…判決は懲役20年

そして事件当日。大橋被告は、夫・芳男さんの介護ベッドに火をつけるわけですが、その際に、こう言い放ちました。

「パパは、もう浮気性という病気だからしょうがないね。ごめんね。でも、あんたが全部悪いのよ。」

大橋被告は、長年にわたる「夫の浮気」に怒りを覚えていて、それが最後の引き金になって火をつけた…。

結局、夫の芳男さんは焼死、息子の芳人さんは一酸化炭素中毒で亡くなり、大橋被告だけが生き残ったのです。

22日に判決が言い渡されましたが、その判決にもちょっと驚きました。

「強い殺意に基づく極めて残酷な犯行」「身勝手かつ短絡的で、介護は動機ではないと話していることから、くむべき事情とは認められない」として、求刑通り、懲役20年の実刑判決だったのです。

介護殺人事件では量刑が軽くなったり、執行猶予がつくケースもあります。

求刑通り“満額”の懲役20年が言い渡されたということは、これは介護殺人ではなく、身勝手な動機に基づく殺人事件だと、千葉地裁はこう認定したことになります。

(「イット!」12月23日放送)