2022年10月、札幌市東区の自宅アパートで、小樽市の当時22歳の女子大学生に頼まれて、首を両腕で絞めて殺害し、遺体の左わきの下の部分を刃物で切り裂いた嘱託殺人と死体損壊などの罪に問われていた無職の小野勇被告(54)。

初公判「僕は“死ぬための道具”」

時折笑みをこぼしながら事件の経緯を話した小野被告(SNSより)
時折笑みをこぼしながら事件の経緯を話した小野被告(SNSより)
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2023年8月31日に札幌地方裁判所で開かれた初公判で起訴内容に間違いがないか問われた小野被告は「いえ、ありません」と答えた。

30歳以上も離れた2人が知り合ったきっかけはSNS。女子大学生が「殺して」と投稿したことに小野被告が「いいね」と反応してからやりとりが始まり、事件に至った。

被告人質問で弁護人や検察、裁判所からの問いに、時折笑みをこぼしながら事件の経緯を話した小野被告。

初公判時の様子
初公判時の様子

▼弁護人:初めて会ったのはいつか?
▼小野被告:2022年9月27日。女子大学生はナイフを見せたら嬉しそうな顔をしていた。「実感が沸いてわくわくしてきた、やっと肩の荷が降りた」と言っていた。

▼検察:女子大学生の将来を奪ったことについては?
▼小野被告:「殺して」とSNSで発信するほど思いが強くそこに注目していた。死ぬこと以外の発信がなかった。女子大学生の将来は考えないようにしていた。

▼遺族の代理人の弁護士:女子大学生に死にたい理由は聞いた?
▼小野被告:1回も聞いていない。

▼新宅孝昭裁判官:人を殺すとはどういうことか?
▼小野被告:女子大学生からしたら僕は“道具”みたいなもの。“死ぬための道具”。

▼井下田英樹裁判長:罪悪感はある?
▼小野被告:ありました。人任せになるけど、女子大学生の口から「やめて」とか言ってくれないかなという気持ちはずっとありました。

論告求刑公判 「“殺したい”と思うほど怒りでいっぱい」

うつむく小野被告(初公判時)
うつむく小野被告(初公判時)

9月4日開かれた論告求刑公判。女子大学生の両親が意見陳述をした。

▼父親:娘は私たちにとって最初の生まれた子どもです。とてもかわいがり、一度も手を上げたことがないです。そんな子によくもあんなことができたなと怒りがこみ上げます。娘は犯人の快楽のために殺されたとしか思えない。初公判の際12回も笑いました。何がおかしいのか。

女子大学生の父親は小野被告にこう続けた。

▼父親:娘に「死にたい」と言われても止めるべきだった。生きていたら悪いなりにもうまくやっていた思います。犯人は娘の仏壇の前に手をついて謝ってほしいです。“殺したい”と思うほど怒りでいっぱいです。

▼母親:“死にたい”は誰もが一回は思うことがあるはずです。年長者なら「とりあえず生きなさい」と言ってほしかった。命さえ奪わなければやり直せた。嘱託殺人は軽い罪だからと思われていては許せない。厳罰に処してほしい。

法廷に響く怒りと悲しみの声…

送検される小野被告(2022年10月)
送検される小野被告(2022年10月)

検察側は「犯行当時、抑うつ状態だった可能性は否定できないとしても、うつ病を発症するには至っておらず、犯行に影響を与える精神疾患は見当たらない。SNSでのやりとりを消去させるなど証拠隠滅を図っていて、一貫性や合目的性がある」などとして、完全責任能力があったと主張。

その上で「自殺を思いとどまらせるのも十分可能だったのに、理由を確認せず、全ての可能性を奪った。この種の事案の中でも最も悪質で強い非難に値する」として、懲役9年を求刑した。

一方、弁護側は「小野被告は犯行当時、心神耗弱の状態だった。計画的なものではなく、女子大学生の強い思いに流されて犯行に及んだ」と主張し、執行猶予付きの判決を求めた。

そしてこの日、小野被告は謝罪の言葉を述べた。

▼小野被告:家族の皆さん、このタイミングで申し訳ありません。大切な娘さんを奪うことになり申し訳ございません。今後何年かわかりませんが墓前に行って頭を下げるつもりです」

9月22日判決公判 「殺害すべき理由などどこにもない」

小野被告(SNSより)
小野被告(SNSより)

事件発覚から約1年となった9月22日。札幌地裁で午後2時30分に開かれた判決公判。

▼井下田英樹裁判長:主文 被告人に懲役6年を言い渡す。

静まり返る法廷で、黒いTシャツにジーンズ姿で表情を変えることなく、裁判長の言葉を聞いていました。

そして争点だった責任能力の有無について判断が出た。

▼井下田裁判長:SNSのプロフィール欄に「心優しき死神でありたい」などと殺人をほのめかす文言を掲げるなど、女子大学生に人を殺せる人間であると納得してもらうために、殺人の経験があると虚偽の事実を告げていて、自殺願望を持つ他人を殺害することに抵抗を感じないという小野被告の価値観に基づく行動だった。

▼井下田裁判長:女子大学生に携帯電話の電源を切り、SNSアカウントを消去するように指示するなど、殺害の違法性を十分認識している。手法を変えながら一貫して殺害に向けた行動を取り、遺体を解体するための道具を購入するなど、状況に応じて合目的的な行動を取っているので、心神耗弱の疑いはなく、完全責任能力であったと認められる。

「心優しき死神でありたい」などと書いていた小野被告のSNS
「心優しき死神でありたい」などと書いていた小野被告のSNS

そして、量刑の理由が語られた。

▼井下田裁判長:SNSで最近知り合っただけで、殺害を嘱託した理由も聞かないなど人間関係は希薄であり、女子大学生の意思が強固であっても、殺害すべき理由などどこにもない。断ることに何ら支障もなく、その機会はいくらでもあった。

▼井下田裁判長:虚偽の事実を交えて嘱託殺人を引き受けると説明しており、その言動が女子大学生の意思を強固にしたと言える。人の生命を軽視し、反社会的であり、非常に悪質な事案で、厳しい非難に値する。嘱託殺人の中でも重い類型に位置づけられる。

▼井下田裁判長:もっとも、この事件は女子大学生の嘱託に基づいていて、計画性があることや殺意が強固であることを過度に重く考慮できない。量刑上考慮すべき前科がないことを考慮する。

井下田裁判長は懲役9年の求刑に対し、懲役6年の実刑判決を言い渡した。

小野被告は姿勢を変えることなくまっすぐと裁判長を見つめて話を聞いていた。

消えぬ怒りと悲しみ 「いまだに娘がいないことに現実味を感じられません」

小野被告(SNSより)
小野被告(SNSより)

判決公判の後、代理人の弁護士を通じて、女子大学生の両親が心境を公表した。
 
▼女子大学生の遺族:裁判官が小野被告の犯行が許されないことだと厳しい言葉で批判してくれたことには満足していますが、懲役6年というのは率直に言って短いと思っています。

娘はいろいろな問題を抱えていましたが、夫婦一緒に娘の問題と向き合いながら、一生懸命育ててきました。そのことを思い返しても、こんなにもあっけなく終わってしまうのか悔しい気持ちです。

娘は小さい頃から頭がよく、面白い子でした。自宅でニュースを見ていても、いまだに娘がいないことに現実味を感じられません。どうしてこんなバカなことをしてしまったのだろうと思います。

小野被告には、この事件のことを一日たりとも忘れることなく、短い期間の間でも罪を償ってほしいと思います。

また、小野被告のような犯行を模倣する人が現れないことを強く願っています。

北海道文化放送
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