2022年9月、殺人の容疑をかけられた男が、留置場で自殺した。2日前に自殺を示唆するメモが見つかっていながら、なぜ防げなかったのか。12月14日、大阪府警が一連の対応についての調査結果を公表した。

「危機感の欠如」があった 7人を減給などの懲戒処分に

 高井凜容疑者(28)は高槻市の住宅で、養子縁組していた高井直子さん(当時54)を殺害した疑いなどで逮捕されたが、9月に福島警察署の留置場で、私物のTシャツの裾の部分をちぎって束にし、首をつって自殺していた。

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 自殺の2日前には、高井容疑者が「先に逝く」などと書いた自殺をほのめかすメモが見つかっていたが、大阪府警は24時間態勢での監視が必要な「特別要注意被留置者」に警戒レベルを上げていなかった。

 また、自殺メモについて大阪府警は当初、「福島警察署から府警本部に情報が共有されていなかった」と説明していたが、実は見つかった当日に情報共有されており、最初の説明は虚偽だったということだ。

 大阪府警は一連の対応に問題がなかったか内部調査を行い、12月14日、その結果が公表された。

 自殺メモが発見された後もなぜ警戒レベルを上げなかったのかについては、発見の報告を受けた福島署の留置管理課長が「日頃の様子から自殺の恐れは低い」と考え福島署長などに報告。

 メモの内容を自分で確認していなかった福島署長については、「必要な情報把握を怠っていた」「警戒レベルを上げて対面監視を実施することを検討すべきだった」としている。

 この他、決められた回数の巡回も行われていないなど「危機感の欠如」があったとしていて、大阪府警は、福島署の留置管理課長を減給とするなど7人を懲戒処分としている。

■ずさんな留置管理

 14日に公表された報告書で、留置場のずさんな管理体制が明らかになった。高井容疑者が自殺に至るまでを時系列で追う。

<福島警察署の対応>
8月19日 「特異被留置者」に指定
8月26日 私物保管庫チェック
8月30日未明 自殺をほのめかすメモを発見
9月1日午前6時44分 布団をかぶり寝ていることを確認
9月1日午前7時2分 首をつっている姿を発見

 これまでは上記のように発表されていたが、14日に公表された報告書によると、8月26日の私物保管庫チェックは実際には行われておらず虚偽だったということだ。

 また、9月12日午前6時44分の布団をかぶり寝ていたという報告も、該当時刻に巡回はしたものの、高井容疑者を見ていなかったということが明らかになった。

 一連の対応について、大阪府警の取材を担当している泉谷賢一記者に聞いた。

泉谷賢一記者(大阪府警キャップ):
まず、自殺直後の説明会は一体何だったんだろうという思いです

(Q:当初の報告では、6時台に7回巡回が行われていたはずですよね)
泉谷賢一記者(大阪府警キャップ):
高井容疑者は特異被留置者に指定されていたので、1時間に5回以上の巡回が必要でした。自殺をほのめかすメモも見つかっていたので、8月30日に、署長判断で巡回数を増やすことになりました。しかし14日の報告では、21時から翌朝7時まで50回必要だった巡回のうち22回しか行っていなかったことが分かりました。特に高井容疑者が自殺したとみられる午前6時台には、高井容疑者への巡回は一度もなかった。唯一、午前6時30分過ぎに、高井容疑者から『飲み物をください』と言われ、署員が飲み物を持って行ったということです

(Q:午前6時44分には全体の巡回をしたけれど、高井容疑者の近くを通らなかったということですね。自発的に見に行ったのは6時台は一度もなかったと。8月26日の私物保管庫チェックについては?)
泉谷賢一記者(大阪府警キャップ):

月に2回私物保管庫のチェックがあり、8月26日に関しては、黒塗りになってはいますが、「検査しましたよ」という報告書があったようです。ただ、今回の調査報告で確認したところ、8月は一度もチェックしていなかった。8月26日はチェックしていないにも関わらず、うその報告書を作っていたことが分かりました

(Q:チェックしていれば、首をつるのに使った、ちぎられたTシャツが見つかった可能性も?)
泉谷賢一記者(大阪府警キャップ):
いつ服を破ってひも状にしたかが分かっていないので、8月26日に保管庫をチェックしていたら防げたかどうかは正直分かりませんが、ただ、服や荷物のチェック、たたんだ後に何か隠していないかといった確認も本来はしなければならないんですが、していなかったようです。また高井容疑者の部屋には、トイレと柱の間に隙間があり、そこが『怪しいな』と感じていたにも関わらず、チェックできていなかったというのがあります。また、その隙間には繊維の痕が残っていたようです。推測ですが、もしかしたらそこに隠していたんじゃないかという見方もあります

(Q:8月30日に自殺をほのめかすメモが発見されたにも関わらず、24時間体制で監視するケースが多い「特別要注意被留置者」への引き上げが行われなかった。福島署の留置管理課長は「自殺の恐れは低い」と判断し、署長はメモの現物を確認しなかったというのは、かなり危機感が低く見えますね)
泉谷賢一記者(大阪府警キャップ):
まず「自殺の恐れは低い」というのは、普段の態度などからそう思ったと報告書に書いてありました。ただ、高井容疑者は8月に「逃走する」といった話をしているので、なぜ警戒を上げなかったのだろうと思います。また実際に遺書が見つかっているわけなので、その温度感を本部や署長に…コミュニケーションが不足していて、共有の仕方に非常に問題があったと感じました

(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月14日放送)

関西テレビ
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