東京・渋谷区の代々木第二体育館。そこで取材班が目にしたのは、プロスポーツレベルの派手なゲーム演出を取り入れた、高校生のバスケットボール大会だった。
その効果、サポートする企業の狙いに迫った。

解説者もうらやむ!ライト・音響・装飾…高校生の大会で“プロ並み”演出

真っ暗になった会場に、爆音が鳴り響く。

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まるでライブのような演出の中、場内アナウンスがチームを紹介する。「続いて、仙台大学附属明成高校 スターティングファイブ!」

スポットライトを浴びて登場したのは、“高校生”だ。

解説者・元日本代表 川村卓也 選手(36):
いいなぁ。放送席から見てても…。こんな環境なかったですよ、僕が高校生の時は。
暗転します、ライトあります、音響あります…、すごいな、時代は変わったな。

解説を務める元代表選手もうらやむ、プロさながらの演出を体験する高校生たち。これは、2022年に初めて開催された、バスケットボール「U18日清食品トップリーグ」の様子だ。
全国トップレベルの男女それぞれ8校が参加し、8月から11月末にかけて、1試合総当たりのリーグ戦形式で、U18世代最強チームを競った。

これまで高校生の主要大会といえば、“負けたら終わり”のカップ戦。リーグ戦形式にすることにより、多くの選手が出場機会を得るなどの効果が期待されている。 

福大大濠・川島悠翔 選手:
みんなポテンシャル高くやってて。自分も途中けがして出られない試合も2、3試合あったんですけど、(チームは)勝っていたので。
自分が加わってもっといいチームになるように、これからも練習していきたい。

仙台明成・片原飛斗 選手:
1・2年生がこの大会通して、経験する時間があったので。今年だけではなく来年のチームも、すごく力が伸びてきていると思います。

仙台明成・佐藤久夫 ヘッドコーチ:
一定期間の内にゲームを繰り返しできる。そういう意味では、このリーグ戦が終わって、リーグ戦に出なかったチームと試合をやってみて、「やっぱり成長してるな」というのがあればいい。

試合会場は、赤を基調とした派手な装飾が施されている。プロの試合のような会場内の音響効果や、場内アナウンスも。

そして「カップヌードルをぶちまけたようにしかみえない」と話題となった“モップヌードル”など、特別協賛の“日清ならでは”のアイデアが大会を彩っていた。

福大大濠・片峯聡太 ヘッドコーチ:
もう贅沢だと思います。だからこそ我々はプレーで恩返ししないといけないし、そういった意味で、バスケットボールの価値を高める発信をしていかなければいけない。

日清食品HD・米山慎一郎 執行役員:
企業がお金を出してスポンサーするだけでは、いいブランディングとか、いい育成はできない。選手・指導者と一緒になって、協会とも一緒になってやっていくことに非常に価値がある。
彼らが喜ぶことを、一緒に同じ目線でやっていければと思っている。

さらに、今回のような演出で、若い選手たちの体験を高めることは、マーケティングにおいても大きな効果があるという。

日清食品HD・米山慎一郎 執行役員:
ブランドインプリンティング効果、というんですかね。皆さんも覚えがあると思いますが、自分の好きなことをやっている時、例えば冬に家族でスキーに行ったり。そんな時に食べたカップヌードルって、すごく印象に残っていると思う。
本当に一生懸命やってる高校生の部活、こういうところにカップヌードルが寄り添うのは、僕たちの中では最高のマーケティング効果だと思っているので、そういう意味合いももちろんあります。 

狙いは?若者時代の“特別な体験”が消費につながる「インプリンティング」

「Live News α」では、一橋ビジネススクール准教授の、鈴木智子(すずき さとこ)さんに話を聞いた。

三田友梨佳キャスター:
企業のサポートによって、高校生に特別な体験を提供する試み、どうご覧になりますか?

一橋ビジネススクール 准教授・鈴木智子さん:
エンターテインメントやスポーツへのスポンサーシップは、ターゲットユーザー、とりわけ若い世代にリーチする、有力なマーケティング手法です。ただし企業が単に小切手を送って、スタジアムやシャツに名前やロゴを載せてもらう時代は終わりました。
今回の日清トップリーグのような、高校生の試合をプロのゲームのように演出してくれる特別な体験の提供は、直接的で親密であり、何より深く記憶されます。そして日清食品に対する信頼とエンゲージメントを確かなものにします。
大会に参加した高校生たちは、お店の棚にあるカップヌードルを見た瞬間に、大会の思い出や特別な体験がよみがえることでしょう。
これはクーポンや割引よりも強力な、カップヌードルを購入するスイッチになるはずです。

三田友梨佳キャスター:
確かに、私たち消費者は印象深い体験がきっかけとなり商品を購入することがありますよね?

一橋ビジネススクール 准教授・鈴木智子さん:
消費者に特別な体験を提供することで、商品購入のスイッチを持たせることが得意な企業に、レッドブルがあります。例えば2011年、震災からの復興支援を掲げて、レッドブルは日本で初めて、一般公道でF1マシンを走らせたことがあります。その舞台となった横浜・元町の商店街の通りには1万人以上が駆けつける、興奮のイベントとなりました。
こうしたインパクトのあるブランド露出を消費者が体験することは「インプリンティング(刷り込み)・モーメント」と呼ばれています。すなわち、「刷り込みの瞬間」と呼ばれています。

三田友梨佳キャスター:
消費者へのインプリンティング・刷り込みを行う際におさえておくべきポイントは?

一橋ビジネススクール 准教授・鈴木智子さん:
例えば若い世代、とりわけ子供の頃に深い関わりを持ったブランドに対しては、大人になっても高いロイヤルティを持ち続ける傾向が高いことが知られています。家族と一緒にマクドナルドで食事をした子どもは、大人になってもマクドナルドを好む傾向が生まれるのです。
強いブランドを構築するためには、記憶に残るような効果的な演出を施す必要があります。

三田友梨佳キャスター:
記憶に残るという点では、今回の大会のように、財政面だけではない企業の新たな支援のカタチは、この先に続く大きな価値となりそうです。

(「Live News α」2022年12月13日放送分より)

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