兵庫県の伝統文化、播州織。安価な海外製品にもおされ生産量が減少している中、西脇市に独自の取り組みで、業界を牽引するデザイナーがいる。ものづくりへの強いこだわりを取材した。

異色デザイナーのこだわりと挑戦

200年以上の歴史をもつ、播州織。布を織る前に糸に色をつける「先染め」により、深みのある多様な色合いが出せるのが特徴だ。

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播州織の本場、兵庫・西脇市に異色のデザイナーがいます。自身のブランド「tamaki niime」を経営している玉木新雌(たまき にいめ)さん。

玉木新雌さん:
ふわっふわですよ。やっぱり太陽を浴びて風にそよぐときが、一番柔らかくて気持ちよくなる

先染めの特色をいかしたカラフルな作品が店内に並ぶ中、看板となるのはショールだ。

キメ細やかなシャツの生地として利用されることが多い播州織だが、玉木さんはあえて、シャツには使えないほど柔らかい生地を開発し、着心地のよさにこだわったショールを作り上げた。

ウールやコットンを丁寧に編み上げた「一点もの」の作品に人気が集まっている。

お客さん:
一番は着心地、つけ心地。着けている感じがナチュラルでお肌にいい。優しい感じと色合いがすごく気に入っています 

玉木新雌さん:
鏡を見て美しいとか、人にきれいだねって言われることって、見られたときだけじゃないですか。でも着心地って着たら脱ぐまでずっと感覚であるでしょ?それが気持ち悪かったら1日中気持ち悪い。でも気持ちよかったら1日中気持ちいいじゃないですか

玉木さんが暮らす家は、日々ものづくりを続ける工房の中にある。

玉木新雌さん:
すぐそこがラボ(工房)ですよ。上から眺めているんです

(Q:カーテンすらない)
玉木新雌さん:
ないねぇ。常に見えています。ぼーっとラボを見ていますねぇ。楽しいでしょ、ものづくりの現場って。見ているだけで

ウールのことをもっと知りたいという理由で、羊を飼い始めた。一緒に暮らしながら日々新たなアイデアを生み出している。

玉木新雌さん:
24時間働いているっていう感覚すらない。生きてるっていう感じですね

玉木さんのこだわりは、糸染めから、縫製まで、全ての工程を自前でやること。国内ではほとんど作られることがない、原料として使われるコットンの栽培にも10年以上挑戦してきた。

さらにコットンの種を無償で提供して、育ったものを買い上げる取り組みも続けている。

玉木新雌さん:
なるべく自分が知っている人が作った、大切に育ててくれた素材で大切に作りたいなと思って。日本製のコットンはないって言われたから。『え、ないの?』って。ないなら作るしかないって思って。まだこんなの全然です。倉庫一杯分くらい欲しい。まだ先は長いですね

工房には、玉木さんのものづくりへのこだわりに引かれたスタッフが全国から集まっている。

tamakiniime 男性スタッフ:
なんか面白そうなことをやっていたんで飛び込んでしまいました

(Q:楽しい職場ですか?)
tamakiniime 男性スタッフ:

面白いです

(玉木新雌さん がインタビューの会話に入り込んできて…)
玉木新雌さん:
言わされていない?大丈夫?

tamakiniime 男性スタッフ:
(玉木さんは)社長なんですけど、自由に話しすぎている感じが

tamakiniime 女性スタッフ:
ここのものづくりのやり方とかものを作る上でのストイックさに引かれて。(玉木さんは)喜怒哀楽が…

玉木新雌さん:
大事でしょ!?喜怒哀楽

tamakiniime 女性スタッフ:
何か人間味あふれてて楽しいです

生産量はピークの3%…厳しい現状

国内外から注目される「tamaki niime」作品だが、近年、播州織業界は厳しい状況におかれている。

江戸時代にうまれたとされる播州織は、昭和にかけて生産量をどんどん拡大し、1950年代には織り機が「ガチャ」っと音をたてると1万円儲かるといわれる“ガチャマン景気”に沸いた。

しかし、平成に入ってからは職人の高齢化や、安価な海外製品の流入の影響を受け、生産量はピーク時のわずか3パーセントほどにまで落ち込んでいる。そこで玉木さんは、ことし西脇市内にオープンした新店舗である取り組みを始めた。

店内には、自社ブランドだけでなく他の播州織職人が作った作品が並んでいる。玉木さんは、播州織職人の技術力を発信する場が必要だと考えた。

玉木新雌さん:
私たち一社が、どーんって突き抜けても知れているんです、金額としては。だったらみんなで底上げできたほうが人数も多い分、絶対(業界が)元気になれるなって思ったので

玉木さんの新店舗に作品を置いている播州織職人の会社は…

小円織物 小林一光さん:
見てもらえる、買ってもらえるのが一番だと思っている。僕たちがとんでもない職人技持っていても、見られなかったり知ってもらえなければ意味がないっていうのはこの10年すごく感じたので

小円織物 小林郁香さん:
率直にすごくうれしいですね。発信力ある玉木さんのお店で置いていただけるのが。そこに負けないようにもっと高めていかないとなって

伝統を残していくには、作品を「欲しい」と思ってもらわないといけないと試行錯誤を続けてきた。

 玉木さんとスタッフが会議をしています。

玉木新雌さん:
そもそもうちのセーターの良さはなんなのかちゃんと伝えてくれないと。「じゃあ頂くわ」っていう人に、あなたは何の決めぜりふを言っているの?

播州織が生き残るためには、挑戦をしないといけないと玉木さんは話す。

玉木新雌さん:
日本で生き残るためには普通に今までやってきたことだけではだめ。その技術をいかして、これまでにない発想を。それが「一点もの」だったり、すごい柔らかいものだったり。今まで挑戦できてないことにちゃんと挑戦しつつそれを残していく

播州織を未来に紡ぎたい…

秋になり、畑では過去最高の出来栄えのコットンが実っていた。

玉木新雌さん:
新しいコットンの糸ができつつある。ただ細くて美しいというだけじゃなく、風合いという意味でいい柔らかさがでたらいいなと。これをちゃんと生かしてものづくりをしていこうと思っています。走り出したところですね

無償で提供した種から育ったコットンも、各地から届いた。

玉木新雌さん:
いま戦争もありコロナもあって、輸入に頼れない時代になりつつある。そんなときにコットンがなくなったら、私たち仕事なくなるんですよ。絶対にものづくりはやめたくないし、続けていくためには本当に小さな一歩ですけど、一つずつ着実にできることからやっていきたいなって。それが輪になって広がっていったら本当にうれしいなって思います

たくさんの人を巻き込んで、新しいものづくりを続けていく。

玉木新雌さん:
ただショールを織る、作るだけじゃなくて…生きる、毎日何をして過ごすのかっていうときに、ものを作って販売して、それに楽しみを持って毎日元気に生きていく。いつ死んでも後悔ないように。より大きく、よりたくさんの人とやっていきたいなっていうのが夢です

伝統の技術をいかしながら挑戦を続ける。未来に残る新たな播州織が、ここで生まれている。

 (関西テレビ「報道ランナー」2022年12月12日放送)

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