障がいのある人が生み出すアート作品は「アール・ブリュット=生の芸術」と呼ばれ、その独特な表現方法が注目され、バッグなど商品として流通するようになった。
広島では、絵を医療機関にレンタルする試みが始まった。この障がいのある人と社会をつなぐ新しい試みに挑戦する女性を取材した。

『世界にひとつだけの商品」を世の中に

草木染めの手袋など様々な手づくりの雑貨。

この記事の画像(40枚)

広島の広報誌の点字版を作るときに出る余分の紙を使って作られたバッグ。

これらの商品はすべて、障がいのある人が作ったもの。
こちらの個性的な柄のポーチは広島市内の作業所で作られている。

広島市の第一・第二もみじ作業所製作のポーチ
広島市の第一・第二もみじ作業所製作のポーチ

ダイナミックな絵をあっという間に描き上げる人、コツコツゆっくり描く人と、皆それぞれのペースで描いている。

広島市 第一・第二もみじ作業所
広島市 第一・第二もみじ作業所

描くのに使うのはテントや横断幕に使われる生地の端材。
こうしてできた作品を裁断し、職員が縫っていくと…

おしゃれで頑丈なポーチに。同じものはない世界に一つだけのオリジナル商品だ。

こうした広島県内の福祉サービス事業所で生まれた商品を社会に発信しようと活動しているのが、佐々木恵理子さん。

佐々木恵理子さん
佐々木恵理子さん

こんこん・佐々木恵理子さん:
自分の中のパワースポットみたいな感じなんですよ。物としてとてもかわいいなと思って。皆さん楽しみながら作っていて、それが物に落とし込まれているという過程がとても魅力的だなと思っています

佐々木さんは障がいのある人が作った物の中から、自分も本当にほしい物を買い付けて販売。

大阪や名古屋の店舗に商品を卸したり、イベントなどで小売りも行い、独自のウェブサイトでの販売も手掛けている。

こんこんのグッズ販売webサイト
こんこんのグッズ販売webサイト

お客さんに「こんこん」と気軽にノックしてほしいから「こんこん」と名づけたという。心がけているのは作り手の魅力が伝わるよう発信すること。

QRコードでアーティストを深く知る

佐々木さん:
必ず裏にQRコードを付けるようしていて、ここを読み取ってもらうと、私が取材した記事に飛ぶようになっています。

本当に伝えたいことは、作っている方たちは、こういう人だよっ、ていうところなので、ここを入り口に皆さんのことを深く知りたい人は、知れるようにしている。いろんな人に知ってもらうことで、皆さんが生きやすい社会につながっていったらいいなと思っています

商品のアーティストをwebサイトで紹介
商品のアーティストをwebサイトで紹介

もともとは福祉の世界とは無縁だった佐々木さん。夫の転勤で、北海道にいたとき、障がいのある人が作ったブローチと出会ったことが発端だという。

佐々木さん:
見学に行かせてもらって、そこで初めて障がいのある方のアート作品に触れてものすごく感動した

佐々木恵理子さん
佐々木恵理子さん

その感動が忘れられず、夫の次の転勤先だった広島で、事業所の職員として働き始めた。

佐々木さん:
そこで本当に人って魅力的なんだっていうのを皆さんに教えてもらいました

一方で感じたのは、職員の仕事の忙しさ。物を作っても、売ることまで考える余裕がないのが実情。

アート商品の魅力を世の中に伝える側へ

佐々木さん:
だったら私が事業所にいるよりも外に出て、私自身が感じた魅力を伝える方が社会全体で見たときに貢献出来るかなと思って

佐々木恵理子さん
佐々木恵理子さん

取引をする事業所では働く人たちをしっかり取材し、商品と一緒に魅力を発信する。

第一もみじ作業所・古川大介さん:
いろいろ商品を作っているが発信が弱い。こんこんさんにかかわっていただくことで、こっちが予想もしなかったところから反応があるというのはすごい驚き。自分たちのことなんだけど、すごいねぇみたいな感じで受け取っています

第一もみじ作業所・古川大介さん
第一もみじ作業所・古川大介さん

この冬、佐々木さんは新たな挑戦をはじめようとしていた。手にしていたのは障がいのある人のアート作品。

佐々木さん:
めっちゃすてきできすね。これワニなんですって。なんかめっちゃおもしろいなと思って、私とは全然違う見方で世界を認識されているのかなとか、わくわくしちゃうんですね

レンタルで“病院嫌い”克服の一助に

障がいのある人のアート作品、それを使って新たに始めようとしているのは、医療施設へのアートレンタルだ。こんこんが仲介に入り、事業所の障がいのある人が描いたアート作品を医療施設へ貸し出し、そのレンタル料が障がいのある人のもとへ工賃として届くという仕組み。貸し出し先を医療施設にしたのにも理由があった。

佐々木さん:
一人でも多くの障がいのある人がもっている「病院が嫌い」という気持ちを和らげて、病気の早期発見につなげられたらすごくうれしいなと思います

障がいのある人は病院が苦手な人が多い。佐々木さんが施設で働いていた時、なかなか病院へ検査に行きたがらなかった仲間を末期のがんで失った経験が、この試みを後押ししている。

アートレンタルは、1か月あたりのレンタル料で貸し出し、3か月ごとに作品を交換するシステムにする予定だ。

佐々木さん:
交換していく中で、障がいのある方が自分の作品を見に、仲間の作品を見に医療施設に足を運ぶきっかけを作ることを目的としています

モチベーションがアップ

作品は、普段からアートを扱う第3者の目で厳選。
選ばれたこちらの作品を描いた男性は…

廿日市の作業所でおよそ10年描きつづける秋保和徳さん。
くさのみ作業所・秋保和徳さん:
選ばれると思っていなかったので本当にうれしいのと、自分で驚いています。選んでもらえれば、僕も絵を描いた意味があると思う

細かな表現が特徴のこちらの作品を描いたのは白石裕則さん

白石裕則さん:
絵が大好きなんです。素敵なたくさん、もっともっとたくさん絵を続けたい

みんなのやりがいにもつながっている。

そんな中、医療アートレンタルを知ってもらうための展示会、「こんこんのアートレンタルって?展」が開かれた。

上田タイジさん
上田タイジさん
板村英治さん
板村英治さん
岡本美乃里さん
岡本美乃里さん

訪れた人A:
こんなに素敵な絵を描くんだなとか、本当にアーティストだなというのがわかって今胸がいっぱいですね

訪れた人B:
この絵に感動するのは、きっとこの絵が素晴らしいからであって、レンタルを通じて不特定多数の方にどんどん広がっていくのはすごくいい

佐々木さん:
まずは作品を楽しんでいただく機会になればいいなと思っています。おいしいごはんを食べたら、おいしかったよ、とか、素敵なものを見たら素敵だったよ、と紹介したくなると思うが、私にとってそれが福祉施設さん。本当に素敵な場所だし、面白い人たちがたくさんいるので、その商品だったり、作品を通じて知ってほしいなと思っています

障がいのある人たちのアート作品は、日本ではまだまだ、知られていないが、佐々木さんたちのような地道な活動を通じて、世の中に広まることが、SDGsの「誰も取り残さない」ことにつながっていく。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。