アメリカのIT大手・アップルが、クラウドサービスのセキュリティーの強化を発表した。

「本人しか復元できない」ようセキュリティー強化 FBIは懸念

アップルは7日、著名人や政府関係者などサイバー攻撃を受けやすい人を想定し、クラウドサービス上に保存されている写真やメモなどを、保存した本人しか復元できないよう高度に暗号化することを選べるようにすると発表した。

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また、アップルIDにログインする際の認証手段をより複雑にしたり、メッセージアプリが傍受された場合、通知されることも可能になる。  

一方、現地メディアは、“今回のセキュリティーの強化で犯罪捜査も難しくなりかねない”として、FBIが“犯罪行為から国民を守るためのわれわれの能力を妨げることになる”と懸念を示したと報じている。

セキュリティーが顧客価値に “過剰品質”と言われた日本の技術生かせるか

「Live News α」では、早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚(おさない あつし)さんに話を聞いた。

内田嶺衣奈キャスター:
アップルが展開しているクラウドサービスへのセキュリティー強化、どうご覧になりますか?

早稲田大学ビジネススクール 教授・長内厚さん:
これまでは、クラウドを提供している企業がデータにアクセスできる方法を残しながら、セキュリティーを高めていくことを模索してきました。この場合、ネットワークに接続している世界中のどこからでも、不正アクセスできる可能性も一緒に残してしまうことになります。
そこで今回、アップルのクラウドは、アップル自身もアクセスできないようにすることで、不正アクセスの可能性をつぶしてしまおうとしているわけです。
これによりセキュリティーは強化されますが、アップルが司法当局から捜査協力を求められても協力できない、という別の問題が生じてしまうのです。

内田嶺衣奈キャスター:
アップルはどうして、そこまでしてセキュリティーを重視するのでしょうか?

早稲田大学ビジネススクール 教授・長内厚さん:
これからのIoTのビジネスにおいて、セキュリティーが重要な顧客価値になるからだと考えられます。
これまでのスマートフォンは写真や動画撮影に優れているなど、便利な機能・性能が主要な顧客価値になっていました。
しかし便利な機能・性能が飽和状態になりつつあり、今以上の技術・機能による差別化では、顧客価値創造が難しくなっていると言えると思う。
一方で、スマホは社会のインフラの一つになってきているので、より重要な個人情報を扱うようになると、便利さに加えて安心・安全・セキュリティーの高さが求められるようになったのだと思う。

内田嶺衣奈キャスター:
確かに、今私たちはスマホを使って支払いを行ったり、様々な個人情報も、そこを入り口に取り出せたりするので、安心安全に使えるというのは大切ですよね。

早稲田大学ビジネススクール 教授・長内厚さん:
アップルは米中貿易摩擦を背景に、安定供給のために、iPhoneの生産を中国集中からインドなどへ移行させていると言われています。これも見方を変えると、セキュリティー上、中国よりリスクの少ない地域へ生産を移行させているとも言えるかもしれない。
日本はこれまで過剰品質といわれ、“性能は高いがコスト競争に弱い”と、エレクトロニクス製品の国際競争でコスト上、後塵を拝してきました。
しかしセキュリティーの安心・安全のために、“過剰品質の技術”と“ものづくりの姿勢”をセキュリティーの向上に振り向けることができれば、日本企業にとって新たなビジネスチャンスにつながるかもしれません。

内田嶺衣奈キャスター:
私たち利用者にとっても、個人情報がしっかりと守られることが、やはり優先されるように思います。

(「Live News α」2022年12月8日放送分より)