11月1日、中国が独自に建設を進めていた宇宙ステーション「天宮」が完成。「宇宙強国」を目指す中国は技術的にアメリカと肩を並べつつあるとも言われ、軍事利用への懸念も高まる。BSフジLIVE「プライムニュース」では中谷経産副大臣と専門家を迎え、宇宙で本格化する米中の覇権争いなどについて議論した。

中国の宇宙ステーションは「人を送ること」でのプレゼンス強化が狙い

この記事の画像(14枚)

新美有加キャスター:
11月に完成した中国独自の宇宙ステーション「天宮」は、2021年4月に打ち上げられた基幹施設「天和」、2022年に打ち上げられた実験施設「問天」「夢天」を合体させたT字型構造。全て中国独自で完成させたということだが。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
中国は宇宙においてもアメリカに匹敵する大国になることが大きな目標。宇宙ステーションは一つのシンボルとして、国威発揚という意味で非常に大きい。ここ10年ほど着々と準備してきてここに至った。

渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将
渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将

渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将:
中国の宇宙開発はものすごく速い。毛沢東時代から核爆弾・誘導ミサイルと並んで徹底的に開発してきた。世界最高レベルに来ている。

反町理キャスター:
全て中国の自前の技術か。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー
寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
基本的には自前だが、当然ISS(国際宇宙ステーション)や旧ソ連の時代のミールを参考にしている。公開情報だけでもわかることは多い。だがソフトウェアや運用ノウハウなどは、国際宇宙ステーションの20年の歴史にはまだかなわないものがある。また半導体は、基本的には自分達で調達したもの。宇宙において米中は完全に分離している。

中谷真一 経産副大臣:
「天宮」にはこれまで使ってきた信頼性高い半導体を使うと思う。そこまでの最先端技術ではない。日本もアメリカとの共同研究開発において、中国などに対し情報を出さない形で進めている。

新美有加キャスター:
「天宮」とISSの違い。ISSはアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本、カナダなどが参加する多国間の共同プロジェクトだが、「天宮」は中国独自のもの。重さはISSが420トン、「天宮」は80トン。いずれも地球上空約400キロの軌道を飛行。「天宮」は 1年7カ月ほどで完成したが、ISSは完成までに13年ほどかかった。長期滞在可能な人数は、「天宮」は3人、ISSは7人。機能の差は。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
宇宙における中国のプレゼンス強化の意味合いが強く、常時中国の人が宇宙にいることを見せるため、クルーの居住スペースは「天宮」のほうがかなり快適そう。実験モジュールについては、ISSのレベルの最前線の実験をするには多くの改良が必要では。超小型人工衛星を打ち上げる機能は、明らかに日本の「きぼう」から取り入れている。

中谷真一 経産副大臣:
中国の宇宙ステーションの意義は人を送ること。月や火星に行くための拠点と見ている。

反町理キャスター:
アメリカではブルーオリジン、ボイジャー・スペース、ロッキード・マーチンなど民間宇宙ステーション計画が出ている。中国と伍していけるか。

渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将:
この構想は高く評価したい。トランプ政権時の国家安全保障戦略で宇宙の民主化が提言され、民間の資金や技術が頼りにされた。民間のほうがすごく柔軟に技術を開発し、新たなアイデアをどんどん出している。信頼すべき。

中国は他国の衛星を攻撃するか?日本の備えは

新美有加キャスター:
宇宙における中国の軍事戦略。「天宮」で中国が軍事的な実験を行う可能性はあるか。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
大きな目的は民生用の利用だが、偵察業務は小さい人工衛星以上によくできる。また新しいセンサーの実験、電波情報の傍受などは過去に行われたことがあり、行われるかもしれない。

渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将:
宇宙飛行士全員が人民解放軍の兵士であり、軍事目的のものは当然行われると思っておいた方がいい。アメリカの衛星に対する攻撃では、例えばロボットアームの使用が考えられる。アメリカの衛星をつかまえ、今飛んでいる軌道の外に追いやってしまう。原始的だが実用的な方法。その訓練も行われるのでは。

反町理キャスター:
一方、日本の宇宙領域における取り組み。2020年に発足した空自の「宇宙作戦隊」は日本の人工衛星の位置や軌道を監視。指揮統制を行う部隊などを追加し、2022年3月には「宇宙作戦群」に。2023年度以降には宇宙状況監視(SSA)システムを運用。着々と進んでいると言えるか。

渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将:
よく作った。以前は防衛省・自衛隊が全く衛星が持てなかったが、宇宙基本法によって持てるようになった。最初は自衛隊の部隊によるデブリ(宇宙ごみ)の監視。次に他国の衛星も含めた全ての監視。将来的には、攻撃された場合の防御行動をやらなくてはいけない。宇宙でも、憲法第9条の下では専守防衛。だが、宇宙では先制攻撃が圧倒的に有利。守れない。どうするかという議論がこれから必要。

中谷真一 経産副大臣
中谷真一 経産副大臣

中谷真一 経産副大臣:
日本の取り組みは進んでいるが遅い。まだ自衛隊の中に宇宙に関しての専門家はおらず、JAXAから人をよこしてくれとずっと言ってきた。予算も1000億円に満たずとても足りない。中国を見ても10〜20年もかける時間はない。防衛省における宇宙予算を一挙に拡充することが必要。

アメリカの月探査計画「アルテミス計画」はその先に火星を目指す

新美有加キャスター:
米中がしのぎを削る月の探査について。2017年から始まったアルテミス計画は、アメリカを中心に日本、ヨーロッパ、カナダなど21の国が参加。現在は宇宙船「オリオン」が無人の飛行試験を行っている。2024年には有人で月の周回軌道を飛行、2025年後半には人が月面に着陸する予定。アポロ計画以来、50年ぶりに有人月面着陸を目指す目的は。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
アポロ計画はまさに宇宙で力を持つことの象徴だった。ただアルテミス計画は、人類がさらに遠くまで宇宙での活動領域を広げるために始まった。月面の居住施設に長期滞在し、科学研究や資源開発をして、最終的には火星への到達が21世紀の人類の宇宙開発の大きな目的。

反町理キャスター:
月を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」は2028年完成予定。NASA、アメリカは、地球の周回ではなく月を周回する宇宙ステーションに舵を切っている?

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
そう。このゲートウェイは今後、月で持続的に活動を行っていくための場所。火星を目指す上で月での活動が非常に重要となる。日本はHTV-Xという補給機で物資を補給するが、この開発は順調。

新美有加キャスター:
一方、中国の動き。アメリカのNASAにあたる中国国家航天局とロシアの国営宇宙開発企業ロスコスモスが覚書を締結し、月の観測や探査について合意。この連携について。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
覚書の締結はウクライナ侵攻の前で、ISSでもロシアとアメリカがパートナー国としてやっていたとき。これからどうなるかわからない。だが、中国も全ての月開発を自分だけでやれるわけではなく、当然パートナー国が必要になる。

渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将:
今回の戦争でロシアの国力はかなり落ちると思う。ロシアは中国のジュニアパートナーにすら、それはなれない可能性があると見ている。

宇宙空間に自由・民主主義・法の支配を持ち込むためには

新美有加キャスター:
宇宙における新たなルールの必要性について。1967年に発効し、米中含め100カ国以上が批准している宇宙条約があるが、その不備も指摘される。「宇宙空間」が指す範囲について具体的な定義がなく、国家による領有を禁じているが個人や法人について定めがないなど。今後発生する恐れのある問題は。

中谷真一 経産副大臣:
本来は更新すべきだが、できないのが現状。誰がルールをつくるかという争いがある。力のバランスがある程度明確になってから話が始まるのでは。アルテミス計画で日本が発揮する存在感は、ルール形成に加われるかどうかに関わる。

反町理キャスター:
植民地獲得競争のように聞こえる。

中谷真一 経産副大臣:
そこまでは言わないが、現時点ではそのような側面もある。

渡部悦和 元陸自東部方面総監・元陸将:
2021年の中国宇宙白書では「国連の枠組みの下で国際規則の策定に積極的に参加し、開発が直面する課題に共同で取り組む」と格好よく言っている。だがサイバースペースでも、中国は言行不一致。目的のためにはあらゆることをやるのが中国でありロシア。悲観的にならざるを得ない。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
アルテミス計画の中のアルテミス合意には日本も入っているが、将来の月や火星の資源をどうするかという道筋についての合意がある。宇宙条約に則り、国際的な規範の中で資源を利用していこうというもの。こうしたものがベースになっていくのでは。

反町理キャスター:
その話を聞くと希望を見たくなるが、今地球上で起きていることを考えるとそれは無理では。

寺門和夫 日本宇宙フォーラムフェロー:
それは宇宙の問題ではなく、結局地上の問題だと思っている。政治・外交で地上の問題を解決しないと、宇宙だけで考えても無理。

中谷真一 経産副大臣:
自由、民主主義、法の支配といった価値観を宇宙に持ち込むためには、宇宙でのイニシアチブを握りルール形成をしなければならない。

(BSフジLIVE「プライムニュース」12月6日放送)