11月1日、中国が独自に建設を進める宇宙ステーション「天宮」で最後の実験施設「夢天」がドッキングに成功した。
この記事の画像(8枚)これにより、宇宙飛行士が滞在する中核施設と2つの実験施設がそろい、中国が開発する宇宙ステーションの基本構造が11月3日に完成した。
天宮には3人の中国人宇宙飛行士がすでに滞在しているが、12月にはさらに3人の中国人宇宙飛行士が追加され、運用が本格化する。
習近平国家主席は10月に行われた5年に1度の共産党大会で「宇宙強国」の目標を表明していて、ここ20年の間で宇宙における中国の存在感は非常に高まっている。
2045年までに「宇宙強国」目指す
中国は1950年代から宇宙開発を推進していて、1970年4月に初めて人工衛星を打ち上げた。これにより中国はソ連(当時)、アメリカ、フランス、日本に次ぐ世界5番目の独自で人工衛星を開発し、打ち上げられる国となった。
中国はここから本格的に宇宙開発に参戦する。近年では2019年に世界で初めて無人探査機を月の裏側に着陸させ、2021年には火星に探査機を着陸成功させるなど、相次いで難易度の高い任務を成功させた。
特筆すべきは、これら全ての任務において他国の力を借りずに中国単独で行っているということで、この分野で圧倒的な存在にあったアメリカを驚かせるまでに至った。
中国は2045年までに世界の宇宙開発をリードする「宇宙強国」を目指していて、2021年6月には習主席が「宇宙ステーションの建設は中国の宇宙開発事業における重要な節目だ」と発言するなど、国を挙げての宇宙開発に力を入れている。
これまで宇宙ステーションと言えば、ロシアと欧米諸国や日本が協力して運営している国際宇宙ステーション=ISS(2011年に完成)が世界で唯一の宇宙ステーションとして重要な役割を担っていたが、2021年4月から中国が独自に宇宙ステーションの建設に着手し、2022年11月3日に基本構造を完成させた。
一方で、ISSの運営は黄信号が灯っている。現在、ISSには日本人宇宙飛行士の若田光一さんも滞在しているが、老朽化が進み2024年には運用期限を迎える。アメリカは2030年まで運用の延長を提案しているが、現時点で正式に延長は決まっていない。さらに、ロシアが2024年をもってISSから撤退する意向を表明している。仮にこのISSの運用が停止した場合、宇宙で活動する宇宙ステーションは中国のものが唯一となり、結果として宇宙開発における中国の存在感がさらに高まることになる。
宇宙開発と同時に行われる「軍民融合発展戦略」
宇宙開発分野において中国の存在が高まることは何を意味するのか。
中国はこれまで、表向きには「国際協力」や「宇宙の平和利用」を強調しているが、宇宙空間の軍事利用について否定しておらず、実際には中国軍が深く関与している。
今回打ち上げられた「夢天」を載せた大型ロケット「長征5B」は中国の国有企業が開発、生産を行っているが、この国有企業は弾道ミサイルの開発、生産なども行っており、中国の宇宙開発で使用されるロケットは軍で使用するミサイル開発にも応用可能とみられている。
また、中国ではこれまで14人の宇宙飛行士が宇宙に行っているが(2022年10月末時点)、全員が人民解放軍の空軍所属である。さらに、2007年には、対衛星破壊兵器(ASAT)の実験を実施、量子衛星、情報通信衛星、測位衛星などを打ち上げ、宇宙空間を用いた情報支援・作戦能力の向上を図るとともに、サイバー空間、電磁空間と宇宙空間との一体的運用を目指すなど、軍事目的での宇宙利用を積極的に推進している。その結果、中国の宇宙開発は軍事面においても日本や欧米諸国にとって脅威になる可能性が高いとみられている。
中国の政治経済や安全保障政策を専門とする、京都先端科学大学の土屋貴裕准教授は、「習近平政権は3期目の人事において、航空宇宙や軍事産業といった軍事工業での経験を持つ人物を共産党幹部に引き上げていて、これにより軍民融合発展戦略を継続、深化させていくとみられる」と指摘する。
現状変更の動きを続ける中国の宇宙開発
第20回共産党大会を終え、異例となる3期目に突入した習主席にとって「偉大な中国」を演出する宇宙開発は国威発揚の手段となり、自らの権威を高めることにもなる。
11月1日に行われた中国外務省の会見で趙立堅報道官は、「中国の有人宇宙飛行事業が新たな栄光を生み出し続けることを願うとともに、中国の宇宙ステーションが一日も早く全人類の宇宙の家となることを期待する」とコメントしたが、それは「宇宙運命共同体」を掲げ、中国主導の共同体の構築を狙うものとの見方もある。実際、中国は宇宙に関する国際ルール構築にも積極的に関与する姿勢を示している。
宇宙開発という、いわば未知の領域での開発をどのように扱うかは難しい問題だ。令和4年版の防衛白書が「宇宙空間の安定的利用に対するリスクが、各国にとって安全保障上の重要な課題の1つとなっている」と指摘しているが、名指しこそ避けているものの、中国を念頭に置いたものであることは間違いないだろう。
南シナ海での海洋進出のように現状変更の動きを続ける中国の宇宙開発がどのような方向に向かうのか。また、宇宙の安定利用に関するルール作りをどのように進めるのか。中国の出方と国際社会の対応が問われることになる。
【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】