“ゼロコロナ政策”に不満を持つ市民による抗議デモが連日行われている中国。

「共産党と習主席は退陣せよ」と言った声も挙がる中、デモは日本を含め、世界各地に拡大している。

東京・新宿区の抗議デモを取材した、中国事情に詳しいジャーナリストで、立命館大学人文科学研究所の客員協力研究員・安田峰俊さんに、中国で今何が起きているのか聞いた。

政権への不満が爆発

――日本国内での抗議活動を取材して何を感じた?
非常に驚きました。
中国と向き合って20年ですが、まさか自分の目でこの光景を見るとは思いませんでした。

「習近平反対」「共産党反対」というところに一番衝撃を受けましたが、そこまで行かなくても、「言論の自由をください」とか、「科学的にまともなコロナ対策をしてください」といった主張も、中国人の若者が集まって大声で叫んでいるのは、ちょっとありえない異常事態と思いました。

立命館大学人文科学研究所 客員協力研究員・安田峰俊さん
立命館大学人文科学研究所 客員協力研究員・安田峰俊さん
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――1989年の天安門以来の動きとの声もありますが?
実際、そうだと思います。
ただ天安門を強調しすぎるのは良くないと思っていまして、もう33年も前の話なので参考にならないことが山ほどあります。

例えば、あの頃は人民解放軍しか鎮圧する組織がありませんでしたが、今は武装警察とか機動隊がいますから、その認識も全然アップデートされていないと思います。

1989年の天安門事件
1989年の天安門事件

では、一体なぜ今世界各地で抗議デモが行われているのだろうか。

その理由について安田氏は、3期目に入った習近平体制による政治の硬直化で、“国民の不満が爆発した”と指摘する。

――どうして今、中国国内も日本でも抗議活動が広がっているのか?
色々な解釈があると思いますが、やっぱり不満が凄く大きかったというのがあると思います。

国外や北京、上海の大都市で声を出している人たちは、意識の高い人、頭のいい人が多く、直接の理由というのは、新疆ウイグル自治区の火災なんですが、それ以前の問題として習近平政権の3期目突入であるとか、街中に習近平さんの写真があるとか、気持ち悪さを感じているはずなんです。

中国の取り締まりの様子
中国の取り締まりの様子

それでも自分の生活と無関係ならいいんですけど、理不尽なゼロコロナ政策がもたらす経済の悪化や、移動の不自由、都市のインフラが使えないので、病気になっても救急車が来ない、火事になっても消防車が来ないといったことがあります。

これらの原因は結局のところ、習近平体制下で進んでしまった政治の硬直化です。官僚や幹部が習近平の方しか見ていないので、彼らの保身のために、計画されている以上に厳格なゼロコロナ政策を現場で行ってしまっている。

それによって不幸になっているという怒りが爆発し、今回の政権批判まで飛び出すようなスローガンだったり、運動につながっていると思います。

しかし、今回の騒ぎで、習近平政権や中国共産党が倒れることは、「現時点ではあり得ない」と安田氏は強調する。

官僚に罪を被せ求心力を強化

――今回の運動が習政権にどんな影響を及ぼすと思う?
かなり大きな影響を及ぼすと思いますが、これによって習近平政権が倒れるとか、中国共産党が倒れるということは、少なくとも現時点においては全くあり得ないです。

1週間後、1か月後に状況は変わるかもしれませんが、習近平も共産党も強いですから、一撃で倒れるようなものではなく、現段階で政権が倒れるみたいな話ではないと思います。

ただ習近平自身は、これまでよく“盤石の権力掌握”とか言われてきたんですけど、それは大きく傷つき、動揺したと思います。

――この運動をきっかけに“ゼロコロナ政策”が弱まることは?
ゼロコロナ政策自体は撤回しないと思います。

この間の共産党大会でも、「これが私たちの成果です」と言ってしまいましたから、それを覆すことは今の体制では出来ないはずですので、無理だと思います。

ただ現実的に穏健にしていく方向はありえると思いますし、そうするにあたり習近平の求心力や、中国共産党への国民の信頼を維持するために、現場の官僚に罪を被せ、スケープゴートにして、何人も逮捕・失脚させる。

さらに、庶民から恨まれている“PCR利権”というのがありますが、政府と組んで私腹を貪った悪商人を何人も捕まえて、見せしめにして、求心力の強化を図るんじゃないかなと思います。

今週末の動向がカギ

今後どこまで抗議活動が広がっていくかについては、今週末の動向がカギを握るという。

――どこまで続いていくと思う?
全くわかりませんが、1つの指標になるのは、中国国内で今週末もこれまでと同じような規模でデモが行われるかが大きな判断材料になります。

海外でどれだけ騒いでも中国は変わらないです。

中国国内の変化に海外から声援を送ることはとても重要なことだと思いますが、海外の運動だけで中国が変わることはないです。

中国内部の変化によってしか変わらないので、果たして今週末もデモを継続するのか、人々のモチベーションは持つのか。そしてもう1つは政府側がそれを容認するかです。

日本での抗議デモ
日本での抗議デモ

中国の治安維持機関や軍隊の作戦は、基本的には“毛沢東思想”ですから、最初に敵の勢いが一番ある時は放っておき、耐えるんです。

そして敵が強くなりきると今度はちょっとダレて弱くなってくるので、そうなるまでひたすら耐えて体制を整え、相手が分裂したり、ちょっと勢力が弱まったら一気に叩き潰して、すべてを殲滅するというのが、中国共産党の軍隊なり、治安維持機関のやり方です。

中国の若者の行動に驚き

――若者を中心にムーブメントが起きているが、変化の芽があるということ?
習近平政権が成立して10年経ってますから、今の若者、特に大学生は、人生の半分は習近平政権の教育で、愛国主義だったり、習近平個人や政権を賛美する教育をたくさん受けています。

その人たちがこれだけの反対の声を上げたというのは、洗脳教育の限界を示したものだと思います。

――若者はどこに気付きがあったと思う?
言論統制は受けていますが、外国の存在は当然認識していますし、外国の考えからすると、今の中国のやっていることはおかしいことも気付いちゃうんだと思います。

ただ、今の中国の若者があんなことするんだと、本当にびっくりしました。

今回のデモは、想像はするけど実際に発生するとは全く思っていませんでした。

可能性としてあり得ることは常に認識していますが、習近平の退陣を求めるような活動が発生して、みんなが叫ぶと言うのは、絶対にありえないことだったので、非常に驚きました。