一昔前は「通信教育」といえば、学校の教科書に沿った勉強をサポートする役割が大きく、問題集に取り組み、添削課題を提出するかたちがメインだった。
時代の流れに沿って、タブレット学習に移行したり、ゲーム感覚で取り組める高性能な付録や工作キットなどが増えたりしている中、最近では「学校の学習サポート」の枠にとどまらない、新たな教材が多数生まれている。
【食育】知識だけじゃない!おうちで“食”を実体験
「食育」をテーマにした通信教材「育(はぐ)キッズ」は、親子で簡単に作って食べられる調理キットや、「食」に関する実験キットなどが自宅に届く。
季節に合わせた詰め合わせになっていて、例えば夏のキットには、トマトの種・栽培方法や塗り絵などが入ったワークブック・ポップコーンをつくるためのとうもろこし・自分で焼けるおせんべいセット・自分で研いで炊くためのお米が入っている。
自分が食べているものがどうやってできて、どのように調理されているかに親子で触れ、話すきっかけになるテーマが選ばれている。
この記事の画像(15枚)一本のとうもろこしの形をしたポップコーンキットは、袋に入れてレンジで温めるだけで、ポップコーンができる。特長は、この袋が透明なことだ。
直火や電子レンジでできる市販のポップコーン用コーンは、コーンが一粒一粒バラけている上、たいていアルミに包まれていて、中の様子が見えない。しかしこのキットでは透明な袋に入れるため、中の様子を観察できる。
ポップコーンがトウモロコシからできていると知識としては知っている子どもも、実体験として初めて、「トウモロコシ」がポンポン音をたててはじけ、「ポップコーン」ができるのを目の当たりにする。
同じくおせんべいも、「米」からできたひらべったい円形のものを、焼いたり揚げたり、好きな方法で加熱することで「おせんべい」になっていくのを直に見る。
説明書も絵とひらがなでわかりやすく書かれているので、文字が読めるようになった頃の子どもなら、自分で楽しめそうだ。
すぐに調理して食べられるものと、食に関するおもしろポイントを発見したり考えたりする実験キット、そして種を植えて長い時間かけて育てるものを組み合わせて、教材が作られている。
新型コロナで続く“黙食” 親子で囲む食卓に笑顔を 保護者の負担にも配慮
教材開発者の納谷百合子(なや・ゆりこ)さんは、料理教室を運営していたが、新型コロナの影響で対面レッスンができなくなった。そんな中でもどうにかして子どもたちへ食育を続けたいという思いから、通信講座を立ち上げたという。
「育キッズ」 納谷百合子さん:
料理は五感すべてを使って学ぶもの。五感を通して食に触れて、自分は何が好きで何が得意なのか、気づくきっかけづくりになればいいと思っています。子どもは「好き」からどんどん伸びていくので。
通信ならではの困難もあるという。
冷蔵便は手間がかかるので、年に1回にまとめる。それ以外は常温で、しかもある程度日持ちする食材を選ぶ。また、未就学から小学校低学年の子どもたちを対象としているため、保護者と一緒に取り組むことを想定している。
準備するもの、手間、時間、すべて保護者の負担にならないように考えているという。
納谷百合子さん:
どんなにおもしろい教材でも、やってもらえなければ意味がないので、おうちの方の負担にならないというのはマスト。
食卓から広がる笑顔の輪というのは保護者の心に余裕があってこそ生まれるものだと思います。
今の子どもや親は、本当にノルマが多く忙しくて、ぼーっとする時間もない。だからこそ日常の食卓から、親子で笑顔を共有できる体験を提供したいんです。
外食も制限され、給食も黙食となっている、コロナ禍の子どもたち。楽しくおしゃべりしながら食べていた給食が、「一人で静かに食べるもの」になってしまったことで、残食が増えた小学校も多いという。
集団で同じものを食べる給食では、自分の苦手な食材を、隣で友達がおいしそうに食べているのを見て、なんとなくつられて食べられるということもあるが、一人で向き合っているとなかなか進まないようだ。
通信教材を使って家庭で手軽に「食」を学ぶことができ、それによって食事は楽しいものだという体感が得られれば、食卓から笑顔の輪が広がっていくだろう。
【STEAM教育1】最先端の教育をおうちで 日本向けにローカライズ
教育の大きなトレンドの一つとなっているのが、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・教養)、Mathematics(数学)の頭文字をとった、STEAM教育だ。
その発信地であるアメリカでは、家庭でSTEAM教育に取り組める「Groovy Lab in a Box(グルーヴィ・ラブ・イン・ア・ボックス)」という通信教材がある。
科学者や教育者がタッグを組んで開発した、子ども向けの実験や工作のキット教材で、日本向けにローカライズされている。海外の「楽しく学べるおもちゃ」を輸入販売している会社が、2021年から始めた通信教材だが、通信ならではのメリットも感じているという。
教材開発に携わった「STEAMS LAB JAPAN」 榎森義貴さん:
親や子ども自身がおもちゃや教材を選ぶと、自分の興味の範囲から出られないことがあると思います。月に一度、何が届くかわからない、わくわく感があるのが大きな魅力の一つ。
特に、物理や地学など、小さい子にとってなかなか出会うきっかけがないけど、面白い世界がありますよね。
自分の意思とは無関係にキットが届いて、触れてみたら意外と楽しい、知らなかった世界に出会うことができたらいいなと思って。
「Groovy Lab in a Box」には、4~7歳対象と、8~12歳対象の2つのコースがあり、毎月に届けられる「ミッション」に挑む。ミッションを解説する動画は、日本語と英語から選べて、好きな時に、何度でも繰り返し見ることができる。
動画では、白衣を着た外国人の「マイク博士」が、心底楽しそうにキットを組み立てながら、実験を進めていく。何度も失敗を繰り返し、おおげさに驚き慌てている様子が、子どもの心をつかむ。
「STEAMS LAB JAPAN」 榎森義貴さん:
マイク博士の失敗を動画で見せるのは、エンタメ性もあるんですが、意図があるんです。
こんな、すごそうな大人の博士でも失敗するんだ、ということをあえて見せることで、失敗してもいいんだ、と思ってほしい。チャレンジしないと失敗もできないんだから、安心してチャレンジしてほしい。たくさん失敗してほしいという思いをこめて、「今回はどんな失敗を見せようか」と綿密に打ち合わせしています。
届けたい「失敗の大切さ」 興味を“知的”好奇心につなげる問いかけや促し
同封の実験ノートには、細かく段階を踏んだミッションが並べられていて、簡単なものからより難しいものにステップアップする形になっている。
また、記録のページには、わかりやすく具体的な問いかけが書かれている。
「きみは、うちゅうエンジニアだよ!きみのロケットはなにでつくる?」と、終始「きみ」に語りかけ、取り組んでいる子どもを主人公にしている。「うまくいかなかったら、もういっかい!」「なんかいしっぱいしても、またチャレンジしよう!」と励まし、ふりかえりを促す。
SNSで作品をアップする取り組みもあり、同世代の子どもたちがつくった作品を見ることもできる。
ミッションは、プロジェクト型だ。
「結晶をつくろう」などつくるモノ自体を目的にするのではなく、「クリスタルのアクセサリー屋さんをひらこう」という大きな目的が設定され、そのために、「どんな クリスタルをつくる?」「どんな お客さんにきてもらいたい?」「どんな 内装にする?」「料金は?」など、具体的かつ自由度の高いプロセスを一つ一つ問いかける。
これが、社会で必要とされる問題提起力や問題解決力につながっていく。
「STEAMS LAB JAPAN」 榎森義貴さん:
好奇心のもとになる体験はあふれていますが、そこから先、+αの“知的”好奇心に発展するかどうか…、ただ遊ぶだけで終わらせず「なぜだろう」「もっと調べたい」「もっと学びたい」という思いにつながるには、問いかけや促し方が重要になります。
その重要な“問いかけや促し”をになっているのが、マイク博士の動画や実験ノートだと、榎森さんは説明する。
「STEAMS LAB JAPAN」 榎森義貴さん:
難しいことに挑戦しているんだから、もちろんミッション半ばでやめてもいい。本人ができるところまで挑戦することが大事ということを伝えるようにしています。
自分のペースでチャレンジして、自分のペースで失敗して、ふと思い出したときに再チャレンジしてくれたらいいなと思います。
おうちで取り組む通信教育には、制限時間がないので、思う存分、満足いくまで取り組める。一回休んで時間をおいて、ある時ぱっとひらめいて、改良を加える、ということもできる。
「STEAMS LAB JAPAN」 榎森義貴さん:
子どもの頃、学校の勉強がつまらなかったけど、大人になって社会に出てみると、意外と役に立つことがあって。あの時習ったのは、社会のこんなところにつながっていたんだ、と気づく体験がありますよね。
この体験をもっと子どもの時にしていたら、もっともっと学ぶことに主体的に取り組めたと思うんです。
榎森さんは、「幼少期のほうがフィルターがなく、幅広いことと素直に向き合える」と話す。
「STEAMS LAB JAPAN」 榎森義貴さん:
幅広く、いろんなものに触れて、その中で一つだけでも、のめりこんで熱中してくれるものがあると嬉しいです。自分のやりたいことが見つかった時に、勉強する目的が見つかる。
子どもたちは「学ぶことって楽しい!」というきっかけさえあれば、勝手に変わっていくと思います。
これまで大人の価値観で勝手に押しつけてきたモノではない、他の選択肢をどんどん増やし、子どもたちが自分で選べるよう、世の中は多様な可能性にあふれていることを伝えていきたいんです。
【STEAM教育2】デジタル技術×アナログキット わくわくを引き出す!
同じくSTEAM教育を学べる通信教材で、4~10歳の子どもを対象とした「Wonder Box(ワンダーボックス)」。
ゲーム感覚で思考力を鍛えられるアプリと、実際に手を動かして取り組めるボードゲームや工作、クイズなど、デジタルとアナログを組み合わせたキットが毎月届く。
ボックスを開けると、さっそく内側にパズルが書いてある。パズルの答えをアプリに入力すると、鍵付きの宝箱が開いて、新しいゲームが楽しめるようになっている。子どものわくわくを引き出す仕掛けが、あちこちにちりばめられている。
アプリや工作キットはもちろん、付録の小さなワークブックの中にも、ひらがなや漢字の書き取り、計算練習など、学校の基礎学力を強化するような問題はない。ひらめきや、じっくり考え抜く力を鍛えるパズル、そして自分で問題を作る「作問」などを通して、子どもの好奇心を、学ぶ力に変えていく。
画面漬けを心配する親にとっては、自分の手を動かして試行錯誤し、創造力を育むことができるキットが一緒に届くのも、大きな魅力だろう。
アプリで遊べるゲームは、毎月10種類以上。
中でも人気の「ケミーのじっけんマップ」というゲームでは、草や砂などの「そざい」と、乾かす・たき火などの「わざ」が提示され、それらを組み合わせて「コップと茶碗をつくる」など、その時々のミッションに挑む。
「くさ」と「かわかす」を選ぶと「ほしくさ」ができる。「ほしくさ」と「ねんど」と「かわかす」で「ひぼしれんが」ができる。…無数の組み合わせを一つ一つ、ああでもないこうでもないと組み合わせていって、何かが生まれたときの感動は大きい。
段階を踏んで試行錯誤しながら、「窯焼き」や「陶土」、そして最終ゴールの「茶碗」と「コップ」にたどりつく。
せっかく火がついた子どもの「わくわく」を、ここで止めるのはあまりにもったいない。そこで、親向けに「もっと深く知りたいお子さまのための動画」が送られてくる。
親は「ココだ!」というタイミングで、その動画を差し出す。そこには、子どもたちがいま実験によって自分で到達した方法によって、実際に窯をつくっている様子やガラスをつくる行程が映し出される。
こうして、ミッションを達成したばかりの楽しいゲームの世界が、子どもたちの中でリアルな世の中とつながる。
きょうだいのいる家では、ボードゲームを楽しもうと思っても年齢がバラバラで、全員が楽しめるゲームを見つけるのがとても難しい。
ワンダーボックスの工作やパズルのキットは、幅広い楽しみ方ができる。もちろんルールや規則性があって、相応の認知力を必要とするものもあるが、それぞれの年齢がそれぞれの世界をつくって、楽しむことができるゲームが多い。
ブロックを使ったゲームでは、ルールをしっかり理解し熱中してパターンを組み立てていくこともできるし、規則性をなんとなく理解しつつも、好きな色を集めて、いつのまにか床をキャンパスにして花の形にブロックを並べていくこともできる。
ワンダーボックスの対象年齢に満たない小さい子も一緒に参加して、自分なりに、色とりどりのピースを並べて、楽しむことができる。
正解・不正解にしばられない仕組みになっているからこそ、何をしていても、子どもは「できた!」という達成感を感じられるし、親は子どもの取り組みを喜び、ほめることができる。
人気アプリ開発チームが貫くのは とことん“子ども目線”
ワンダーボックスを制作するのは、世界150カ国の子どもたちの支持を集める「Think!Think!(シンクシンク)」などの人気教育アプリを開発した「ワンダーラボ」。
代表の川島慶さんは、東京大学卒業後、人気学習塾に就職したのち、児童養護施設などでの学習支援の経験がある。算数オリンピックの問題制作にも携わっている。こうした様々な経験を経て、月一度の通信教育という形にたどりついたという。
「ワンダーラボ」代表 川島慶さん:
大勢の子どもに対して貢献する、ということに関心があった。
月に一度、という定期的な取り組みの良さもある。月に一度、日常と違う楽しい時間がやってきた、月に一度でもわくわくするシャワーを浴びる、という経験が継続的にあると、毎日毎日続けて飽きるよりもよっぽどいい効果がある。
「ワンダーボックス」をスタートした2020年4月は、まさにコロナ禍。おうち時間が増加したことが追い風となり、Think!Think!にいたっては利用者が倍に増えた。
子どもたちの意欲、思考力や創造力を引き出すワンダーラボの教材開発チームが目指しているのは、まさに「知的なわくわくを引き出すこと」だという。
「ワンダーラボ」代表 川島慶さん:
子どもは元々、知的好奇心が旺盛。誰かに言われたからではなく、自分の意欲や好奇心から学んだことは、どんどん知識が身についていく。
これからの時代は、その子がどういう経験をして、何が好きで、どんなことに試行錯誤をしてきたか、どんな意見を持っているか、ということが大事になる。
ワンダーボックスの教材は、保護者ではなく、子どもが楽しいかどうか、ということに重きを置いているという。購入を決めるのは保護者なのだが、あくまで「子ども目線」にこだわる。
「ワンダーラボ」代表 川島慶さん:
「ケミーのじっけんマップ」を体験した子が、作りたいものが完成した瞬間に「こんなうれしいことないよー!」と叫び出したんです。嬉しいことなんて他にいくらでもあるだろうと思うんだけど。子どもってうれしさも悲しみも大人の倍で、濃密な時間を過ごしているんですよね。
「子どもの取り組み内容をもっと保護者に見えるようにした方がいい」という案も出たと言う。しかしそこで川島さんは、「子どもの苦手なことを、保護者が知る必要があるのかな」と考えた。
「ワンダーラボ」代表 川島慶さん:
子どもにとっては無限の可能性が広がっていて、今はゆっくりでも、いつかものすごく伸びるかもしれない。
親に「苦手だね」と言われた瞬間に、苦手なことはしたくなくなるんですよ。恥をかきたくないので挑戦しなくなる子どもが多い。試行錯誤しなくなるので、本当にどんどん苦手になってしまう。
ランキングを示すのも、得意な子にはいいかもしれないけど、平均以下だと親も根拠なく不安に思って、その思いは子どもに確実に反映されますよね。
読み書きがどれだけできるか、かけ算・割り算ができるか…。そういった目に見える学力に左右されがちだが、もっと優先するべき土台となるのが「学ぶ力」「学びたいという気持ち」。
おもしろい、やってみたいという自発的な意欲から、あきらめずに考え抜く思考力や、アイディアを生みだす発想力や創造力が育まれる、まさに次世代に必要とされる力を育むための教材。
“必要だから学ぶ”のではない…子どもの可能性は無限大!
しかし意外にも、川島さんの中にあるのは、「次世代を見据えて、必要なチカラを育む」という思考回路とは完全に逆向きの発想だった。
「ワンダーラボ」代表 川島慶さん:
将来こういう時代になるから、例えばプログラミングをやる、英語をやる、というアプローチを考える人も大事だけど、私たちはそれとは逆なんです。
その時代に可能なあらゆるものを駆使して、子どもたちに提供すれば、子どもたちは我々大人の想像なんかより、ずっとずっと素敵な未来をつくってくれると信じているんです。
培ってきたものをすべて結集し、この世の中がどんなに楽しいかと伝えることで、子どもたちの“知的なわくわく”を膨らませていく。そうすれば子どもたちは、大人が予想もしないようなイノベーションを生み出し、自分が望む未来を切り開いていく。
通信教育も、その有効な一つの手段として、これまでの学校サポートの枠にとどまらない多様性に応じ、進化を続けている。
(フジテレビ報道局 仁尾かなえ)