繁華街など「ソフトターゲット」を標的

岸田首相やアメリカのバイデン大統領、中国の習近平国家主席らが出席するG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)が、きょう15日からインドネシアのバリ島で始まる。ロシアによるウクライナ侵攻後、初めてとなる先進国と新興国の首脳らによる会議では、ウクライナ問題や世界的な食料やエネルギー価格の高騰などが議題となるが、現地では軍と警察によるテロなどへの厳戒態勢が敷かれている。

一方、トルコの最大都市イスタンブールでは13日、外国人観光客も多い繁華街で爆発があり、80人以上が死傷した。エルドアン大統領はG20出発前に事件を非難し、トルコ当局はクルド人勢力によるテロと断定し、実行犯とみられるシリア人の女ら46人を拘束した。

事件の詳細な背景や関連はまだ分かっていないが、過去には世界が注目する国際会議やオリンピックなどのイベントにあわせるなどして警備が厳重な会場周辺ではなく、多くの人が集まる繁華街や駅などの警戒が緩い「ソフトターゲット」を標的にした無差別テロが世界各地で発生してきた。

2015年にはフランス・パリでイスラム過激派による同時多発テロが起き、劇場やサッカー場、レストランなどでの銃撃や爆発で130人が死亡、300人以上が負傷した。事件は金曜夜の多くの人たちが集まる時間帯を狙って行われた。

2016年にはバングラデシュの首都ダッカでレストランが襲撃され、日本人7人を含む人質となった20人が殺害された。

また1995年におきたオウム真理教による地下鉄サリン事件も公共交通機関を狙ったソフトターゲットのテロで、14人が死亡、約6300人が負傷し、今も多くの人が後遺症などに苦しんでいる。

昨年の東京オリンピック・パラリンピックで警備責任者だった米村敏朗元内閣危機管理監は、期間中は新幹線へのテロを最も警戒していたという。

「テロの最大の標的は国家で、アメリカの911テロがワールドトレードセンターだったように、新幹線は日本の繁栄の象徴でもある」

「また新幹線は東京、品川、新横浜など複数の停車駅で乗ることができて、手荷物検査も難しい。本当に危険だと確信できる情報があれば止めるしかないと思っていた」

ソフトターゲットのテロを防ぐのは難しい

ただ人が集まるところであればどこでも標的になりうるソフトターゲットのテロに関して、事前に計画や実行犯についての確度の高い情報を得ることは簡単ではないという。

「爆弾がなくても車を暴走させればテロはできる。人が集まるところは屋内、屋外に数えきれないほどあり、すべてでセキュリティチェックはできない。そういう意味ではソフトターゲットのテロを防ぐことは難しい」

2005年にはイギリス・ロンドンで地下鉄や2階建てバスを爆破するテロが起きたが、犯行はイギリスで生まれ育ったパキスタン系のイギリス人らによるいわゆる「ホームグロウン・テロ」で、差別など社会への不満も犯行動機とみられた。事件以降、イギリス政府はテロ情報の収集・分析の強化だけでなく、抜本的な解決のために移民問題にも取り組み、一定の成果をあげたという。

9月にあった安倍元首相の国葬では警察当局は駅や空港などの警戒強化にあたったが、2023年5月に予定されている広島サミットに向けてはこうしたソフトターゲットをはじめ、サイバー攻撃、組織に属さないローンウルフ(一匹おおかみ)型の犯罪などあらゆる可能性を想定したテロ対策の真価が問われることになる。

【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局特別解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。