韓国・ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で150人以上が犠牲になった事故では、警察などの警備が十分でなかったという指摘もでている。

きょうはハロウィーン当日で、東京・渋谷など国内各地の繁華街には多くの若者らが集まることが予想される。

今回の事故の問題点を専門家に聞いた。

警備責任者の経験者は

「一番怖いのは雑踏警備だ」去年の東京オリンピック・パラリンピックの警備責任者で、内閣危機管理監や警視総監を務めた米村敏朗氏はイベントやコンサート、花火大会など不特定多数の人が集まる場所での雑踏警備について次のように話す。

「いきなり人の動きが変化して、塊となって動き出したらどうしようもない。警備の怖さを知っている警察官が異口同音に一番にあげるのが雑踏警備だ」

自身も警視庁で警備責任者をしている時にプロ野球チームの選手らが車や歩きで優勝パレードをしている時に沿道に人が押し寄せ規制線を超えて、急遽、機動隊を増強して凌いだという。その経験からそれ以降のパレードやオリンピックのメダリストパレードなどでは、選手らが大型バスの上に乗り、直接、沿道の人と触れあわない形が一般化したという。

「2001年の兵庫県明石市の歩道橋事故でも人の流れを監視する人がいなかった。ボトルネックのようなところに人が集まると事故がおきやすい」

隅田川の花火大会の警備では花火を見やすい橋の上がボトルネックとなるので、一方通行にして滞留はさせず、人の流れを警察官がロープなどで分断しながら塊とならないようにコントロールしてきたという。

「警察官の配置だけでなく、急に雨が降り出して人が動き出した時にどうするのかも考える。結論を言えば雨が降っていてもブロックして動きを止めるしかない」

「警備には想像と準備が必要で今回の事故はそれがなかったと思う。いったん今回のような状況になってしまうと止めようがない」

注意を呼びかけるアナウンスも、聞いてもらうためにはDJポリスのような興味を引く工夫が必要だという。

そして人の流れを切ることが最も必要だとする一方で、イベントの主催者もキャパシティを考えて最初からそこに人が集まらないような工夫をしてほしい」と話す。

明石市の事故でも警察や行政の刑事、民事責任が問われたが、「こうした警備で警察の責任は絶対にある」と話す。

「イベントの主催者が責任者で警察が二次的な役割という考え方は違う。主催者、警察、警備会社がそれぞれ応分の責任を持つという前提で雑踏警備にはあたらなければならない」

危機管理の専門家は

危機管理の専門家である防災システム研究所の山村武彦所長も同様に警備の問題点を指摘する。

「あの狭い坂道に両側の広い道路から集中するような流れで、人流の制御ができていない。雑踏事故が起きやすい状況で何ら手当をしておらず、雑踏警備が根本的に計画性を失っていた」

「映像を見る限り、警察官の姿や誘導なども目につかず、規制していないから大丈夫だと思って進んだ人もいたと思う」

今回の事故は1平方メートルあたり10人以上が密集する中で人が倒れる「群衆雪崩」が起きたとみられているが、2001年の兵庫県明石市の歩道橋事故でも群衆雪崩で11人が死亡した。

「群衆はエネルギーを持っていて、一方向に流れていれば流れの中にエネルギーが吸収されるが、それがないと蓄積される。映像で群衆がうねっているように見えるのは、狭い場所で上からと下からの圧力でエネルギーが行き場を失った状態だったといえる」

「明石市の事故の被害者は圧力によって急性呼吸窮迫症候群(圧死)など大きな損傷があり、立ったままの状態で肋骨が折れた人もいた。今回も相当な圧力がかかっていたと思う」

またソウルの事故の犠牲者は女性の方が多かったが、「明石でも11人の死者のうち9人が10歳未満の子供で、小柄で体力がないと下敷きになるなど被害を受けやすい」と話す。

「物理的に動けないことに加え、心理的にも焦燥感、不安、恐怖感におそわれる。そうなる前の段階で規制しなければならなかった」

そして実際にあのような状況に陥れば身を守ることは難しいという。

「あの圧力の中での回避は不可能に近い。そこに至らないように過度に密になる場所にはいかない、時間差を置くなどしないと自分を守れないし、ほかの人にも迷惑がかかる」

また群衆雪崩は首都直下地震など大きな災害での避難でも発生することが懸念されていて、今からの備えが必要だという。

「発災直後は帰宅困難者が一斉に帰宅しないこと。東日本大震災では都内では歩いて帰った人たちもいたが、東京の最大震度は5強だった。首都直下地震では震度6強、7も想定されていて、建物の崩壊、道路の損壊で歩くことも難しく、余震による帰宅困難者のパニックもおきることを想定しないといけない」

ハロウィーン当日のきょう、警視庁は東京・渋谷などの人出が想定される路上には警察官を配置して右側通行や左側通行にして人の流れを作り、滞留はさせない方針だ。

【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局特別解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。