11月1日 東京都「パートナーシップ宣誓制度」がスタート

ものすごく単純に言ってしまうと、この制度は、戸籍法に基づいて男女のカップルが婚姻届けを提出して夫婦という法的関係を成立させるように、同性カップルが宣誓を行うことで、東京都が所管する行政サービスや手続きで夫婦と同様な扱いを受けることができるというものです。

申請受付が始まった11日、虹色にライトアップされた東京都庁
申請受付が始まった11日、虹色にライトアップされた東京都庁
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こうしたパートナー条例はいくつかの市区町村で施行されてきましたが、東京都はこれを実施することで、都内の全市区町村や民間事業者にも同様の対応を求めることにしています。

こうした動きはほかの道府県にも広がっていくのでしょうか。

そして同性結婚を国が法的に認める方向に進んでいくのでしょうか。

「当然そうなるだろう」と考える人もいれば、「そんなことありえない」と考える人もいると思います。

LGBTを巡っては、人々の間にあまりに大きな認識のギャップが存在しています。それは主として「世代間」の認知度の違いからくるものではないかと考えます。

知っている人には当たり前の話から入ることをお許しください。

G7で同性婚が認められていないのは日本だけ

2001年、世界初の同性結婚制度がオランダで法制化されました。2005年にはカナダ、その後フランス、イギリスでも同性結婚が法的に認められました。

アメリカでは州法によって結婚の要件を定めていますが、2015年に連邦最高裁で「同性結婚は憲法で定められた国民の権利」と判断されています。

一方、ドイツやイタリアでは東京都のパートナー制度のように男女の結婚とは別の枠組みで同性カップルを保護する制度が施行されました。(ドイツはその後、結婚をジェンダーレス化しています)

日本では…憲法が想定していなかった社会変化

日本では2015年、当時の安倍首相が参議院本会議で「現行憲法下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない」と答弁しました。

その通りです。

憲法24条は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と定め、「両性」とは男性と女性のことだと解釈されています。それは男性と女性以外の組み合わせによる婚姻を想定していなかったからにほかなりません。

憲法24条は“男性と女性”以外の組み合わせによる婚姻を想定していなかった(画像はイメージ)
憲法24条は“男性と女性”以外の組み合わせによる婚姻を想定していなかった(画像はイメージ)

一方で憲法は14条で「性別によって社会的関係において差別されない」としています。さらに13条は国(立法、行政、司法)に対して「幸福追求に対する国民の権利を最大に尊重」するよう求めているのです。

しかし、憲法が想定していなかった社会変化に、法と制度がどのように対応するか。論議が深まっているとは言えない状況が続いています。

・同性カップルの法的保護は必要か

・必要なら結婚要件をジェンダーレス化するか、パートナー法を整備するか

・ジェンダーレス化するなら憲法を改正するか、解釈を変更するか

などなど論点は多岐にわたります。

“夫婦別姓”議論が進まない背景

1996年、法相の諮問機関である法制審議会は、選択的夫婦別姓制度に関する民法改正案要綱をまとめました。

「夫婦は夫または妻の氏を称する」と定めている民法750条を「夫もしくは妻またはそれぞれの氏を称する」と変更するというものです。

それから四半世紀、こちらの議論も進んではいません。

多数決の社会ですから、多くの人が望むことには、なんらかの対応がもたらされます。一方、少数の人が望むことは、なかなか取り上げられにくいものです。ましてやそれが多数の人の「当たり前」と異なるものであればなおさらです。

「当たり前」、かっこよく言うと「コモンセンス」  

今から50年ほど前、私が子供だった頃は「大きくなったら結婚する」「結婚したら子供が生まれる」というのがコモンセンスだったように思います。(赤ちゃんがどうやってできるかを知らない頃です)同じように、男子は嫁をもらう、女子は好きな男子の苗字になる、というのがコモンセンスだったと思います。

社会は変わっていく。意識は変わっていく。コモンセンスもまた然り。

“同性婚”は「想定外」、一方で法律が「認めない」結婚も…

近年、ドラマやアニメで同性愛、もしくは同性カップルを扱った作品が多くみられるようになってきました。活字による文芸作品に比べて、一般の人たちがそうした作品に触れる機会が多くなったのではないかと思います。そのことが、より若い世代のコモンセンスの変化を促していると考えられます。

繰り返しますが、同性結婚は日本の法体系が想定していなかった社会変化です。

一方、民法はいくつかの結婚を認めない事由を明文化しています。たとえば17歳の結婚、兄と妹の結婚、複数の人との結婚。複数の人との結婚は、民法が認めないだけでなく刑法184条で重婚罪として処罰対象になっています。

「国民の幸福追求」という観点に立つなら、そうした結婚(若年婚、近親婚、3人以上婚)も認められていくのでしょうか。

差別のない寛容な社会を

若い世代では、結婚はするのもしないのも自由、子供は作るのも作らないのも自由、という考え方がコモンセンスになっているように感じます。それが少子化の根っこなのではないかなあ、と考えたりするわけです。

国が繫栄し、社会が発展し、人々が幸せになる。

誰もが望むより良い変化を模索し続けるしかないのでしょうね。

自由で寛容な社会を守り育てていきたい(画像はイメージ)
自由で寛容な社会を守り育てていきたい(画像はイメージ)

私も含めて中高年世代には、中高年世代の「当たり前」があります。LGBTの人たちが差別されない社会を心から望む一方で、「息子が嫁をもらってよかった」「娘が嫁に行ってよかった」「孫の顔を見ることができてよかった」そんな風に感じている人も多いのです。

そうした人たちに対して、若い世代の人たちにお願いです。頑迷固陋な差別主義者となじらないでください。LGBTに偏見を持たない世代が、親世代になり孫を持つ時代まで「当たり前」のぶつかり合いは解消しないでしょう。

いろいろな世代、いろいろな当たり前、いろいろな主張が、差別されない自由で寛容な社会を守り育てていきたいものです。

【執筆:フジテレビ解説委員 岡野俊輔】

岡野俊輔
岡野俊輔

老驥伏櫪 志在千里
烈士暮年 壮心不已
フジテレビ報道局解説委員。1958年東京生まれ。
千葉県立東葛飾高校卒。早稲田大学法学部卒。
元フジテレビ政治部記者、デスク。
元ニュースジャパン編集長、ウィークエンド編集長、報道番組部長。
政治部編集員からシニアコメンテーター役。