中国共産党にとって最も重要な政治会議「第20回党大会」が10月16日に開幕した。共産党トップの総書記として3期目の続投が確実視される習近平国家主席は入場の際、周囲に笑顔を見せながらゆっくりとした足取りで、堂々とした姿を世界にアピールした。その後に行われた演説では、台湾統一やゼロコロナ政策などについて約1時間40分語り、国民に強い結束を呼びかけた。この様子は中国の国営メディアで生中継されたほか、ネット上でも配信された。

防護服を着ながら党大会を見るPCR検査の係員(ウェイボより)
防護服を着ながら党大会を見るPCR検査の係員(ウェイボより)
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党大会が始まってからSNSには、ある写真が次々と投稿された。それは習主席の演説をしっかり聞いているという姿をそれぞれの場所や職場で撮影したものだった。その中には防護服を着たPCR検査の係員や、軍服を着た軍人、畑で地元の警察官と市民が国旗を持ちながら一緒にネット配信を見つめるものや、結婚式の最中に新郎新婦が直立し演説を見ているものさえあった。

結婚式の最中に演説を聞く新郎新婦(ツイッターより)
結婚式の最中に演説を聞く新郎新婦(ツイッターより)

写真を確認すると省や市の公式アカウントのほか、警察や税務署など公務員の公式アカウントからの投稿が多かった。親族が公務員として働くある中国人によると、「職場で党大会を見ている現場の写真を撮影し、上司に提出するよう求められた」という。

習主席の演説を笑顔で見る山西省の税務署職員(ウェイボより)
習主席の演説を笑顔で見る山西省の税務署職員(ウェイボより)

さらに、ネット上では全国の党組織や大学などが「党大会のオリジナルソング」も作りアップしていた。広州市海珠区の委員会が作ったオリジナルソングは「人民の江山」(人民の川と山)という曲名で、習主席がこれまでに掲げていた政治スローガンを歌詞に入れ、礼賛するものになっていた。SNS上では末端であれ、党組織の幹部であれ、全員が一丸となりどれだけ習主席に忠誠を誓っているかを競い合う、アピール合戦をする場所かのようになっていた。

広州市海珠区の南華西街道工作委員会が作った党大会のオリジナルソング
広州市海珠区の南華西街道工作委員会が作った党大会のオリジナルソング

突然のGDP公表延期 党大会への影響を考慮し忖度か

党大会への忖度とみられる出来事はこんなところにも影響を与えている。中国の国家統計局は党大会の期間中である10月18日に発表を予定していた今年7月~9月期国内総生産(GDP)の発表を前日の夕方になって急遽延期した。この延期は国家統計局のホームページ上で告知されたのみで、関係部署に確認をしても詳しい説明は一切なかった。

ある日系の市場関係者は、「今回の数値を発表すると、中国政府が掲げた年間目標の5.5%前後の達成が困難になることが明らかになってしまうとみられ、この延期は開催中の党大会に影響を与えないよう現場が忖度した結果とみている」と話す。

また、別の日中外交筋の経済関係者は、「中国はアメリカに次いで世界第2位の経済大国となっているが、その責任ある立場というのを理解できていない。今回の延期は中国の内向き姿勢が表れたもので、今の共産党の幹部と実務を担う官僚との間でコミュニケーションがとれていないのでは」と指摘する。

党大会当日も普段通りPCR検査に並ぶ北京市民 10月16日午前8時過ぎ
党大会当日も普段通りPCR検査に並ぶ北京市民 10月16日午前8時過ぎ

今後も続くゼロコロナ政策 市民の願いは政策の緩和

党大会を成功させるために様々な忖度とみられる出来事が起こる中で、市民はどう見ているのだろうか。首都・北京市で話を聞いてみると、多くの市民が生活に直結しているゼロコロナ政策について緩和してほしいと話した。

「コロナ対策はもっと正確になってほしい。どこかで感染者が出たときに幅広く封じ込めるのではなく、その影響の範囲をもう少し小さくするべきだ」

「コロナ政策がもっと開放的になることを望む。子供が休みの時には自由に中国各地や海外旅行に行き視野を広げたい」

「現在、北京市民に義務付けられている3日に1回のPCR検査を緩和してほしい。そうすればストレスも少しは解消するだろう」

党大会の開幕前は一部でゼロコロナ政策は党大会を境にして、緩和に動くのではという観測もあったが、習主席は党大会初日の演説で、ゼロコロナ政策について「前向きな成果をあげた」と強調したものの、今後の具体的な対策については一切触れずに終わった。これにより規制は今後も継続するとの観測が強まり、行動を制限されてきた市民からは失望の声も聞かれた。

党大会で演説をする習近平国家主席 10月16日
党大会で演説をする習近平国家主席 10月16日

「見てない」インタビューが一転して…

共産党にとって、5年に1度の重要イベント「党大会」を成功させることは絶対的な政治任務であり、言い換えると成功することは決まっている。これを裏付けるように、党大会開幕前の10月13日に北京市の高架橋で習主席を名指しで批判した横断幕の事件も世界中で報じられたが、中国ではテレビや新聞はもちろん、ネット上でも一切報じられず、なかったことになっている。

北京市で掲げられた習近平国家主席を名指しで批判する横断幕 10月13日(ツイッターより)
北京市で掲げられた習近平国家主席を名指しで批判する横断幕 10月13日(ツイッターより)

また、共産党の組織などが過剰な演出ともみられる写真をSNSに投稿することも、推察すると「一般市民は党大会に興味がなく、誰も見ていないからどうにかして盛り上げたい」というのが答えかもしれない。そうでなければ、職場の上司がわざわざ「党大会を見ている現場の写真を撮影し提出すること」などと指示をしないであろう。

実際、ある中国の若者は党大会について、「見ていないし、特に関心もない」と話した。しかし、別の中国人の若者はインタビュー当初は「見てない」と答えたが、途中で一転し「これから再放送で見る予定だ」と話を変えた。これは、自分の本音よりも中国共産党を意識せざるを得ない“今の中国社会”を表したものと言えるだろう。

厳しい管理と情報統制で、なりふり構わず党大会を成功させようとしている習主席率いる共産党。様々な忖度を受けた党大会は今日閉幕する。

【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】

国際取材部
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河村忠徳
河村忠徳

「現場に誠実に」「仕事は楽しく」が信条。
FNN北京支局特派員。これまでに警視庁や埼玉県警、宮内庁と主に社会部担当の記者を経験。
また報道番組や情報制作局でディレクター業務も担当し、日本全国だけでなくアジア地域でも取材を行う。