風光明媚な日本海沿いをかけ抜ける列車。“空の駅”と呼ばれる、兵庫県の「余部(あまるべ)鉄橋」は、集落と海が織りなす、まさに絶景スポットだ。周辺には日本有数の温泉街があり、冬には新鮮なカニまで食べられる!

…そんな魅力あふれる街を行くローカル線だが、何と関西で1、2を争う「赤字路線」だ。その実態を取材した。

岐路に立つ「JR山陰線」 乗客激減で廃線の危機

JR山陰線の城崎温泉駅。大阪方面から、毎日のように多くの旅行客が降り立つ。しかし、その先の「城崎温泉~浜坂」間では、事情が変わってくる。列車内で話を聞いてみると…。

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買い物帰りの男性:
きょうは買い物、竹野から来ました

――普段から列車を使われるんですか?

買い物帰りの男性:
使います。僕、車持ってないので

病院帰りの女性:
病院に、注射して薬をもらいに。1週間に1回乗る

――もし列車じゃなかったら行きづらい?

病院帰りの女性:
行かれません

インタビューを受けてくれた女性が降りたのは、香住駅。駅から自宅までは、歩いて30分の道のりだという。

佐津駅では、列車は1時間に約1本。ワンマン列車なので、降りる人がいないとドアも開かない。

この地域では、人口が減り続けているのに加えて、高速道路の整備も進み、利用客がこの25年で6割以上も減少した。ローカル線は今、岐路に立たされている。

JR西日本 兵庫支社 國弘正治 支社長:
大量にお客様をお運びする交通としての特性を、十分に発揮できていない。需要は少ないのに大きな装置で走らせていくのに、限界が来ているのではないかな

2022年4月、JR西日本はローカル線の利用状況と収支を初めて公表。利用が少なく運行の見直しが必要な路線区に、山陰線の「城崎温泉~浜坂」間も挙げられた。

これまでJRは、都市部の路線や新幹線でローカル線の赤字を穴埋めしていたものの、新型コロナの影響で、赤字路線との向き合い方を見直さざるを得なくなったのだ。

路線の存続を訴える自治体 一方…地域住民の“本音”は?

一方で、自治体側は…

香美町・浜上勇人町長:
具体的な数字を示されると本当に…要望会(JRとの検討会)に行っても返す言葉がないんですよ。少子高齢化の著しい地域なので、路線の維持だけは何とかお願いして続けていただく方向で

住民は廃線の危機に対して、複雑な思いを抱えていた。

――列車がなくなったら?

中学生たち:
学校、通学に一番困ると思う

「困ると思う」と言いつつ、同時にこんな思いも持っていた。

中学生たち:
バスの方がいい。目的地のすぐそこまで連れて行ってくれるから便利

また「電車がなくなったら困るけどね。年寄りは免許を返したら車乗られない」と話す別の地域住民も、実際は…。

地域住民
何十年と汽車に乗ったことないな。どこに行っても車移動やな

カニを買いに来ていた夫婦は「申し訳ないけどまず乗らないね。電車本数少ないし。何とか存続して欲しいと思いますけどね」と話し、存続して欲しいけど、乗らないのが「本音」だと話す。

鉄道を残したい思いと「今、列車に乗るか」どうかは必ずしも一致しないようだ。

JR西日本 兵庫支社 國弘正治 支社長:
地域にとって一番望ましいものとして鉄道ありきで考えているより、柔軟で利便性が高くて持続性があるものを作れると思いますし。そういう事例もあるので

人口はわずか9000人弱…北海道・夕張市では「攻めの廃線」

JRと自治体が協力して、新たな交通機関に転換した地域がある。メロンの産地として有名な、北海道夕張市だ。市内を南北に走っていたJR石勝線(夕張支線)は、人口の減少で利用者が減り続け、3年前に惜しまれつつも127年の歴史に幕を降ろした。

その廃線を提案したのは、異例とも言える夕張市側だった。

鉄道の代わりとなったのは、バスだ。当時の夕張市長は、バスの購入や停留所の整備、20年間の運行費の補助として7億5000万円の支援金をJR北海道が出すことと引き換えに、廃線に合意した。

夕張市・厚谷司 市長:
鉄橋やトンネルとか、老朽化した構造物の維持が困難になってきた。収支が見合わない。市としては当時の市長も「攻めの廃線」としていたが、時期的には妥当だったと私も思っています

路線バスの経路も見直し、夕張支線とほぼ並行して走るバスは、鉄道の倍の本数に。停留所の数も6倍となり、地域を細かく回れるようになった。

利用者たち:
(鉄道が)なくなった時は寂しかったね。今は慣れたから。むしろバスの方が便利。本数が多いこと。JRは2時間に1本とかだったし。駅だと結構歩かないといけないし

課題を残しながらも 赤字はわずか1割に

それでも、バスに転換したことで負担が大きくなったこともあった。廃線となった区間を比べても運賃は倍以上になり、かかる時間も新夕張駅~旧夕張駅間で鉄道より15分以上長くなった。

また、バスの運転手不足の影響で、今の運行本数を維持することでギリギリの状態だ。その影響で、タクシーにしわ寄せが出ているという。

この日、午後2時にいったん事業所に戻ったタクシー。夕張第一交通の運転手・小野寺利郎さんがタクシーを出て乗り換えたのは、なんとスクールバスだ。

元々スクールバスを運営していたバス会社の人手が足らず、タクシー会社がその役割を担っているのだという。その結果、スクールバスの時間帯は、市内のタクシーがほぼゼロになった。

夕張第一交通・小野寺利郎さん:
(タクシーの客が)緊急で病院まで行かないといけないとか、今すぐ出かけないといけないという時は心苦しい

バスへの転換から3年半。夕張支線の赤字額は年間1億6000万円ほどあったが、バス運行の赤字額は、その1割以下の年間1300万円ほど。赤字を9割減らすことができた。

一方、路線見直しの議論が始まった兵庫県のJR山陰線。地元の中学生が、無人駅の掃除をしていた。

子どもたちが大人になった時、街はどう変化しているのか。路線の数だけ答えがある。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月12日放送)

関西テレビ
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