天皇陛下は5月1日、ご即位から1年を迎えられました。

この日、天皇陛下は宮中祭祀のため皇居へと入られました。いつもは車内の隣にお付きの人がいるのですが、今回は後部座席からお一人、マスク姿で沿道の人たちに応えられていました。

皇居に入られる天皇陛下(5月1日午前8時半ごろ)
皇居に入られる天皇陛下(5月1日午前8時半ごろ)
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ご即位から1年。この間に見えたお姿を通し、今後の課題などを考えてみたいと思います。

雅子さまと共に歩まれた1年

2019年5月1日。まず天皇陛下が臨まれたのは、「剣璽等承継の儀」と「即位後朝見の儀」でした。

即位後朝見の儀で、「日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより、ここに皇位を継承しました。この身に負った重責を思うと粛然たる思いがします」とご即位を表明されました。

即位後朝見の儀(2019年5月)
即位後朝見の儀(2019年5月)

ここから、ご即位に関する一連の儀式は始まりました。

5月4日には「ご即位一般参賀」も行われ、8日、両陛下は宮中三殿で即位礼正殿の儀や大嘗祭の期日を天照大神などに報告する儀式に臨まれています。

その後もトランプ大統領夫妻を国賓に迎えての行事があり、6月には「全国植樹祭」のため愛知県へ。

即位後初めての国賓はトランプ米大統領夫妻(2019年5月)
即位後初めての国賓はトランプ米大統領夫妻(2019年5月)

9月には、秋田県での「全国豊かな海づくり大会」、新潟県での「国民文化祭および全国障害者芸術・文化祭」、そして茨城県での「国民体育大会」と、泊まりがけでの地方公務をこなされています。

10月22日には各国から王族や要人たちをお招きし、「即位礼正殿の儀」。

即位礼正殿の儀(2019年10月)
即位礼正殿の儀(2019年10月)

「祝賀御列の儀」、いわゆる即位のお祝いのパレードは天候の関係で11月10日に行われ、両陛下は11月14日から15日にかけて「大嘗祭大嘗宮の儀」に臨まれています。

祝賀御列の儀(2019月11月)
祝賀御列の儀(2019月11月)

ご即位関連の儀式は、12月4日に行われた「御神楽の儀」をもって終了しました。

「天皇陛下をお支えする」雅子さまのご覚悟

こうしたご即位関連の儀式の間にも、お出ましになるご公務は詰まっていました。両陛下は、これらの儀式、行事をすべて滞りなくすまされました。当たり前のように聞こえますが、私は、皇后雅子さまが全ての行事に出席されたことは素晴らしいことだったと思えて仕方ありません。

というのも、少し休みを取りながら、こうした行事や儀式に臨んでいかれると思っていました。あえて言うならば、雅子さまが全ての行事にお出ましになられたことは予想外だったのです。

快復の途上にあるとはいえ、まだご体調に波がある皇后さまには、ご即位関連の儀式を最優先にし、2020年も続いていく行事は、ご体調を勘案していただければと思っていました。こうした私の浅はかな思いを裏切っていただいたのは、皇后さまのご覚悟によるものだったと思います。

そのご覚悟とは、「天皇陛下をお支えする」というご覚悟だと感じました。

これまでも、皇太子妃として皇太子さまを支えてこられた雅子さまですが、皇后という立場から天皇陛下をお支えするには、これまで以上の力が必要になります。というのも、天皇であるということの重責は、ほかの誰も知ることができない重みで、知ることができないということは、陛下が孤独でらっしゃることなのです。

それを唯一、近くから支えることができるのは皇后さまにおいてほかの方はいらっしゃいません。皇后さまが「陛下をお支えする」というご覚悟をお持ちになることができたのは、陛下のこれまでのお支えによるものと、ご長女・愛子さまのご成長があったものと拝察しています。

そして、皇后さまの覚悟を支えたのは、私たちの笑顔でした。陛下は、2020年2月23日、還暦のお誕生日に際した記者会見でこのように述べられています。

「本人も強い責任感を持って一つ一つの行事に臨んでおりましたが、それに加えて、先ほども述べましたとおり、即位以来、多くの方々から温かいお祝いを頂いたことが活動の大きな支えになっていると思われます。雅子自身も多くの方々から寄せていただいた温かいお気持ちをうれしく、また有り難く思っていると申しておりました」

私たちが喜びをもって両陛下を迎えることは、皇后さまの大きな支えとなっているのです。では、今後もお出ましになって行かれるのか…

ここまでのご公務を見ていると、宮内庁が相当の工夫と柔軟な対応を検討していたと思います。こうした工夫と対応は続けられることもあり、期待しすぎてはいけませんが、今後も皇后さまのお出ましは続いていくと思っています。

ただ、今の病気は完治が難しいものです。ある医師によれば、この病気の完治は「本人が治った」と思えることだということです。まだまだ、ご療養は続くことを理解した上で、私たちはお顔を拝見できたその喜びを伝えることで、皇室との相互関係が築いていけるものだと思います。

上皇ご夫妻から引き継がれた寄付活動

両陛下がこの1年に務められたご公務は、国事行為など天皇としてなさるべきもの、そして、ご両親の上皇ご夫妻が務められてきた行事があります。

天皇陛下は、ご即位関連の行事もそうですが、上皇さまやそれ以前の天皇のなさり様を調べ、参考にされているということです。つまり、あまり両陛下ならではのなさり様、陛下の色を感じる行事は少なかったように思います。

確かに、国賓を迎えて大勢の方と懇談する場面で終了間近を告げるやり方を変えられました。これらは、ご招待した人への配慮からくるもので、気遣いをされる両陛下らしさが込められていますが、大きな変化とは思えませんでした。

こうした中、今年に入り、両陛下らしい「色」が見える出来事がありました。お手元金、つまり私的な財産から2つの団体にそれぞれ5000万円ずつを寄付されました。

上皇さまがご即位された際にも2つの団体に合わせて1億円を寄付されていますので、寄付自体は同じようにされてたわけですが、送られた先には、両陛下の「色」が出ていたように思います。

1つは政府が設立した団体や総務省、厚労省が運営する「子供の未来応援基金」。もう1つは「NPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」です。

詳しくは、以前のコラムにも書きましたが、「子供の未来応援基金」は貧困など弱い立場の子供たちを応援する団体を助成する基金で、「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」は困難な状況にある人たちに支援が行き届くようにしようと連絡を取り合うNPO法人です。

(関連記事:子どもたちと被災者に寄り添われ…天皇皇后両陛下が「お手元金」から1億円を寄付

陛下はご即位前最後となる誕生日の会見で、次のように述べられています。

「その時代時代で新しい風が吹くように、皇室の在り方もその時代時代によって変わってくるものと思います。私も、過去から様々なことを学び、古くからの伝統をしっかりと引き継いでいくとともに、それぞれの時代に応じて求められる皇室の在り方を追い求めていきたいと思います」

時代の変化の中で新たに弱い立場の人たちは生まれ、また、見過ごされていた弱い立場の人たちに気づかされます。いずれの団体も、現代の中で弱い立場の人たちを見逃さないと活動しており、この点から両陛下は支援を希望されたのではないでしょうか。

このように、これから続く令和の時代の中で、両陛下らしいことが多く出てきてほしいと思います。これまでの天皇から受け継がれたことはたくさんあり、それ以外にテーマを見つけることは大変難しいことです。ご自分らしさを出すためには、時代がどのように流れているのかを知り、その時代の中で天皇という立場の役割、象徴のあり方を求めて頂きたく思うのです。

私が言葉を並べるのは容易ですが、両陛下にとり険しい道であるのは分かっています。それでも、今後の両陛下のご活動に長い目を持ちながら期待してしまうのです。

新型コロナの影響で「立皇嗣の礼」が延期に

新型コロナウイルスの感染拡大のため、皇嗣・秋篠宮さまの立皇嗣の礼は延期になりました。秋篠宮さまは2019年5月1日に皇嗣となられており、儀式のあるなしに関係なく、紛れもない皇位継承第一の方でいらっしゃいます。

この儀式が延期となり影響が出ているのは、いわゆる「女性宮家」や安定的な皇位の継承についての本格的な議論が始まらないことです。

政府は、4月19日に予定されていた立皇嗣の礼とその関連行事が終了した後に、こうした皇室の課題について本格的な検討を始めるとしていました。

女性皇族がご結婚後も皇室のご公務を支えていくという「女性宮家」の創設については、配偶者やお子さまの立場など難しい問題が含まれており、議論を重ねなければ決まらない課題です。そして、両陛下、秋篠宮ご夫妻の次の世代の男子は悠仁さましかおらず、安定的な皇位の継承についても急ぎ検討しなければならない課題です。

政府内では、有識者から非公開で意見を聞き、まもなくヒアリングの論点を整理する予定だということです。これは内部での作業で、一刻も早くヒアリングの中身を公表し、本格的な議論を始めてもらいたいと思います。

見通しがつかない眞子さまのご結婚問題

あまり触れたくはありませんが、秋篠宮家のご長女・眞子さまの結婚問題は見通しがつかない状態となっています。

秋篠宮さまが2019年11月30日のお誕生日に際して、「昨年の2月に今の気持ちというのを発表しているわけですので、何らかのことは発表する必要があると私は思っております」と述べられています。

2018年2月、眞子さまがご結婚に関する一連の行事を延期し、2年間は凍結することを発表されました。それから丸2年を迎えたとこから、眞子さまが何らかの発表をされるのではないかとの憶測が飛びました。

実際に、秋篠宮家では何らかの文書を出す用意をされていたようですが、この新型コロナウイルスの感染拡大という社会情勢を鑑み、公表はされていません。ご結婚に向けた行事を始めるのか延長期間を延ばすのか、私には分かりませんが、自粛が続く中での発表は難しくなっています。

ニューヨークで勉強中の小室圭さんは、4月20日付けで、留学先のフォーダム大学のホームページに学友と一緒に金融に関する専門家とのインタビューを載せています。

自己紹介に始まり、非上場企業の未公開株式への投資について話を聞いています。ベンチャー企業などが起業時にどのように資金を調達するのか、その仕組みや投資のタイミングについてのレポートとなっています。

これにより、その勉強中の内容を少し知ることができました。ただ、困難な状況が続く中、平時と同じように勉学に励むことは難しいと思われ、今後どのように修学するかは今後の成り行きを見ていくしかありませんが、どうやら、眞子さまとは交流が続いているようです。

「心を一つにして乗り越える」

こうして考えてみると現在、最大の問題である新型コロナウイルスの感染拡大は、皇室の課題に大いに影響を与えていることが分かります。

両陛下も、この問題に心を痛められています。専門家会議の尾身副座長からご進講を受けられた際、陛下が尾身副座長に述べられたお言葉が、宮内庁のホームページに掲載されました。

「この度の感染症の拡大は、人類にとって大きな試練であり、我が国でも数多くの命が危険にさらされたり、多くの人々が様々な困難に直面したりしていることを深く案じています。今後、私たち皆がなお一層心を一つにして力を合わせながら、この感染症を抑え込み、現在の難しい状況を乗り越えていくことを心から願っています」

尾身茂福座長からのご進講を熱心に受けられる天皇皇后両陛下
尾身茂福座長からのご進講を熱心に受けられる天皇皇后両陛下

このお言葉は、私たちに向けて発せられたお言葉です。このほか、日本経済研究センターの岩田理事長からご進講を受けられた際には、皇后さまはアジア、アフリカの発展途上国での感染拡大を心配し、国際協調などについて、質問されていたといいます。

両陛下は、専門家から話を聞き、事態を把握されようとしています。

ご即位から1年となった5月1日、陛下が姿を見せたのは宮中三殿で、宮中祭祀の「旬祭」に臨まれるためでした。「旬祭」は、毎月の1日、11日、21日に行われるもので、毎月1日、他の行事で支障が出ない限り、陛下ご自身で祭祀に臨まれ、11日、21日は陛下を代理した神職が拝礼しています。

「旬祭」は、国家の安寧と繁栄を陛下が祈る祭祀です。情緒的なのはよく分かっていますが、陛下の祈りで、新型コロナウイルスの殲滅していただきたいくらいに思ってしまいます。さらに、この自粛という中でストレスがたまった社会を、もう一度協調を大切にする社会に統合して頂きたいとさえ思えてきます。

陛下の「令和」という御代は、「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ」という時代であるいうことを、私たちがもう一度かみしめるてみる時なのではないでしょうか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 橋本寿史】

橋本寿史
橋本寿史

フジテレビ報道局解説委員。
1983年にフジテレビに入社。最初に担当した番組は「3時のあなた」。
1999年に宮内庁担当となり、上皇ご夫妻(当時の天皇皇后両陛下)のオランダご訪問、
香淳皇后崩御、敬宮愛子さまご誕生などを取材。