北海道にも遅い春の足音が聞こえ始めた2022年4月、知床半島沖で観光船が沈没した。あの衝撃的な事故から5か月あまりが過ぎた。悲劇の一因となったのは事業者の「安全軽視」だが、その末に引き起こされる重大な事故が後を絶たない。被害者家族が抱える、切実な思いに耳を傾ける。

事故から5か月…帰りを待ち続ける家族「ふとした瞬間に2人を思い出す」

国後島とサハリンで見つかり、ようやく戻ってきた3人の遺体。そしてボランティアで捜索を続ける漁師・桜井憲二さんらが発見した頭の骨――。
2022年9月、これらのが、観光船の乗客と乗員であることが判明した。

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捜索ボランティア・桜井憲二さん:
物理的にあがってくることはないと思っていたので驚きましたよね。やっぱり、帰りたかったんでしょうね

さらに桜井さんたちは9月17日にも、知床半島の先端付近で男性の遺体を発見。この遺体は、観光船の船長・豊田徳幸さんと確認された。
これで、乗客と乗員19人の死亡が確認されたが、いまだに乗客7人の行方が分かっていない。

――すごくいいお写真ですね
7歳の息子の父親:

はい

写真に写るのは、白樺並木沿いを元気よく走る、男性の息子(7)だ。

あの日、母親と一緒にKAZU1に乗った後、行方がわからなくなったままだ。男性はこの写真に写る息子に、毎日話しかけている。

7歳の息子の父親:
おはよう。おやすみ。どこにいるの

2人の帰りを待ち続ける男性。先日、2人の部屋を整理した際に出てきたものを見せてくれた。

7歳の息子の父親:
息子が作った。おもいで

――工作? 
7歳の息子の父親:

そうですね。自分の顔だと思います。
これ保育園の頃の…

そう言って、声を震わせる男性。七夕の願い事には、「しゃしょうさんに なれますように」と書かれていた。電車が好きだったという。

7歳の息子の父親:
ふとした瞬間に、2人のことを思い出してしまって。食べ物とか見ても、「これ好きだったな」って。家にいてスプーン1つとっても、息子がよくこれ使って食べていたなと思い出したりして。
何で見つからないのかなと思いますし、息子のことを多分、母親が今も守っていると思うので、見つかるときは2人一緒に見つかるんじゃないかと思っています

事故当日の午前10時前、母親から男性に、LINEで「ゴジラ岩(ウトロ漁港近くにある大きな岩)」の写真が送られてきた。
1時間後、「ゴジラ岩初めて聞いた!船乗って何を見に行くの?」と返した男性。遊覧船沈没のニュースを見て、午後5時半、「舟大丈夫?」と送信。その1時間後に「頼む!無事でいてくれ!」と送るも、どれも既読にならないままだった。

「2人に会いたい」。時がたつほどその思いは増している。
一方、頭から離れない感情もある。

7歳の息子の父親:
許せない。憎いという思いですね。海が荒れるのをわかっていて、周りが船を出すなというのに船を出した運航会社が一番悪いけど、それをきちんと管理できていなかった国の責任もかなりあると思います

生かされない教訓…なぜ?繰り返される"安全軽視"

安全軽視が生んだ悲劇。知床と同じように、国内では6年半前にも同じような事故があった。

1.15サクラソウの会・田原義則 代表:
びっくりしましたね。似ていると思った。軽井沢町との事故と事故に至る経緯がすごく似ている

そう話すのは、2016年1月、長野県軽井沢町で起きたスキーバス転落事故で息子を亡くした、田原義則さんだ。

1.15サクラソウの会・田原義則代表:
事故の1週間後にわかったんですけど、息子の寛がバスの中で持っていた本。内容を読んだら、中にバスのガラスの破片がはさまっていた。バスに持って行ったと実感したのと、相当衝撃が強かったんだと

田原さんは当時、大学生だった19歳の次男・寛さんを失った。

運転手が大型バスの運転に不慣れだったにも関わらず、運行会社が必要な指導をしてこなかったことなどが指摘されている。
背景には事業を急激に拡大する一方、運転手の確保と教育が追いつかない安全軽視の姿勢があったとみられている。

防げたはずの事故 原因や責任わからぬまま…長く待たされる遺族や家族

知床遊覧船・桂田精一 社長:
海が荒れるようであれば引き返す"条件付き運航"を、豊田徳幸船長と打ち合わせ、事故当日の出航を決定した

操縦経験が浅い船長に、難しい海を任せていた知床遊覧船。沈没事故の特別監査では、出航判断の基準を守らなかったなど、19件もの法令違反が判明。安全意識の欠如が浮き彫りとなった。

北海道文化放送
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