ウクライナ戦で撃墜されたイラン製ドローン
ウクライナ国防省は9月13日、北東部ハルキウでロシア軍が使用するイラン製ドローン「シャヘド136」を初めて撃墜したと発表した。シャヘドは標的に向けて自ら突っ込み攻撃する、いわゆる「自爆ドローン」である。
国防省が公開した破壊されたドローンの一部の画像にはロシア語で「Geranium-2」と書かれていたものの、その翼端は「シャヘド136」のものと一致しているように見える。
この記事の画像(5枚)ウクライナ軍将校は米「ウォールストリート・ジャーナル」紙に対し、ロシア軍は「シャヘド136」に塗装を施して「Geran 2」と名付け、9月半ばからハルキウで展開していると述べた。
米バイデン政権は7月、ロシアがウクライナの戦場に投入するためにイラン製ドローンを大量に入手する準備をしていると警告した。同月、プーチン大統領はウクライナ侵攻以降、初の旧ソ連圏以外への外遊先としてイランを選び、イランの最高指導者ハメネイ師やライシ大統領と会談した。
イランはロシアへのドローン提供を否定したものの、8月には少なくとも2種類のイラン製ドローンを積んだ輸送機がロシアに到着したと米当局が発表した。米「ワシントン・ポスト」紙は米国や同盟国の安全保障当局者筋として、8月中旬に数日間にわたり、ロシアの輸送機がイランの軍事施設にドローンを引き取りに行ったと伝えている。その中には自爆ドローン「シャヘド」も含まれているとされる。
英国国防省も9月14日の情報更新で、ロシアが初めてウクライナにイラン製ドローンを配備した可能性が高いとした。
イラン製ドローンのウクライナ戦投入 3つのポイントは
イラン製ドローンがウクライナ戦に投入されたとするならば、そこには極めて重要な意味が読み取れる。
第一に、これはロシアが必要としてきた攻撃用ドローンを得たことを意味する。ロシアは偵察用ドローンは多数保有しているものの攻撃用ドローンは不足しており、対するウクライナは当初から攻撃用ドローンを多数戦場に投入してきた。ロシアが配備したイラン製ドローンにより、ウクライナ軍は早速深刻な損害を被っているとウクライナ軍当局者は述べている。
第二に、これはロシアが軍用品調達に苦慮していることを意味する。当座、攻撃型ドローンの提供先として考えられるのは中国とイランであるものの、中国は米国からの制裁を回避するためロシアへの提供を渋ったと見られる。ロシアにはイランしか頼る先がなかったようだ。ロシアは早速イラン製ドローンの「多数の不具合」に直面していると米当局が明らかにしているように、それは決して「最良の選択」ではない。
米当局は、ロシアが北朝鮮から弾薬を数百万発調達しようとしているとも明らかにしている。イランや北朝鮮に軍用品の調達を頼るまでに、ロシアは追い詰められているという見方もできる。プーチン大統領は9月21日には部分動員令を発布しており、苦戦の実態は隠しきれない。
第三に、これはイランの軍装備がヨーロッパに配備・展開された初の事例であり、イランの軍事活動の拡大がヨーロッパにも及んでいることを意味する。イランはイスラエル殲滅、アメリカ打倒を国是とし、中東各地で代理組織を介してイスラエルや米国権益などを攻撃するなど軍事活動を続けてきたが、その脅威は中東地域内にとどまるというのがこれまでの一般的な見方だった。しかしイランがロシアのウクライナ侵攻を積極的に支持し、イラン製ドローンがウクライナに展開されたとなれば、その脅威はヨーロッパにも既に及んでいることになる。
折しもイランは、イランの核開発を制限するのと引き換えにイランに対する制裁を解除する、いわゆる「イラン核合意」の再建に前向きであるかのような態度を続けている。イランの核開発はあくまでも平和的目的、民生利用のためであり核兵器開発の意思はない、というのがイランの公式見解だ。
しかし一方で9月7日、IAEA(国際原子力機関)は「イランの核計画が、完全に平和的なものだと保証を与える立場にない」と報告した。要するに、イランが核兵器保有を目指している可能性を否定できないということだ。イランはウラン濃縮を急速に進めており、兵器用燃料に容易に転換できる高濃縮ウランの備蓄量は核兵器1発分の必要量をはるかに超えている。イランは核兵器を搭載できる弾道ミサイルの開発も進めている。イランが核兵器を保有すれば、その脅威はヨーロッパに直接及ぶ可能性がある。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ロシアとイランは世界で最も多くの制裁を課されている二国となっており、両国は関係を強化している。
イランは9月14日、ロシアと中国が主導する安全保障機構である上海協力機構の加盟覚書に調印し、ライシ大統領はロシアのプーチン大統領との会談で「イランは経済から航空宇宙、政治分野に至るまでロシアとの関係を強化する所存だ」と述べた。この関係強化は経済や政治だけでなく、既に軍事にも及んでいると見るべきだが、一方でそれはロシアの「強さ」ではなく「弱さ」の表れである可能性もある。