「フジテレビ『Live News α』ディレクターの堀川湧気です。京都国際映画祭に続き、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でも監督作『もう一度生まれる』が大変有難いことにノミネートされました。京都国際映画祭の時はADとして、そして、少し時間が経ち、ディレクターとなった自分の視点から見た、映画祭や作品についてお話しできればと思います」
 

ニュース番組AD時代に監督した映画が新たにノミネート

7月28日〜8月1日まで開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。
毎年、国内外から数多くの作品が応募されるのが特徴的だが、短編部門で堀川湧気ディレクターの監督映画「もう一度生まれる」が500以上の応募作品からノミネート作品に見事選出された。

「ゆうばり映画祭」作品・監督の紹介ページ
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「もう一度生まれる」あらすじ 堀川湧気監督
スーパー銭湯の新人清掃員として働く亮太は、仕事を通して、当たり前の景色を保つことの難しさを知っていく。そんな中、新型コロナ感染拡大の影響で銭湯は休業に。
コロナ禍のスーパー銭湯で、清掃員達の最期の清掃作業が始まる…

映画「もう一度生まれる」より
映画「もう一度生まれる」より

去年10月に開催された京都国際映画祭2021でも、上位10作品にノミネート。優秀賞に選考されたこの作品。「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に出席した堀川監督に話を聞くと、日韓の自主制作映画の作り方の違いなど発見があったという。

堀川監督から見た“ゆうばり映画祭の魅力”とは

堀川湧気監督:
一番の魅力は、“作品の多様性”を意識した上映プログラム…入選作品の選定であると考えています。
「もう一度生まれる」がノミネートされた短編部門の他作品も拝見させて頂きましたが、日本の監督だけに留まらず、海外監督の作品も数多く入選している印象を受けました。アメリカ、韓国、オーストリア、カナダ、メキシコ、キューバなど、各々の国の文化や環境を活かした作品もあれば、独創的なアイデアを活かした作品もあり、非常に刺激を受けるものが多かったです。

また、日本国内に限っても、商業映画で活躍されている入江悠監督や吉田恵輔監督などの自主制作映画が入選・上映された実績があり、映画監督の登竜門としても知られているので、「この舞台で自分の作品をいつか上映したい」という思いが前々からあったので、今回の結果は純粋に嬉しいです。

入選作品を見て気付いた、日韓の自主制作映画の違い

海外監督の作品が数多くある中、その中で最も入選数が多かった国は、韓国の作品でした。
そこで面白かったものは、入選している日本の自主制作映画と、韓国の自主制作映画を比較した時に、全く真逆の作り方をしている点でした。

あくまで個人的な印象ですが、入選した日本の自主制作映画は“自主制作映画だからこそ出来る、中身のオリジナリティー”を追求する監督が多く、ストーリーの題材選びから、登場人物の感情描写まで含め、非常に丁寧に…繊細に描く作品が多かった印象を受けます。

それとは対照的に、入選した韓国の自主制作映画はストーリー構成や感情描写を含め、かなり王道的な、シンプルなものが多い印象を受けました。

2人の関係性を巡る友情ものや恋愛ものといったストーリー構成が多く、映像的な演出の工夫がないと、観客が先を予測できてしまう…ありきたりな映画になってしまう可能性が高いのですが、そのハードルを軽々超えていくような、“圧倒的な映像演出力”を備えた作品が多いように見えました。

自主制作映画は本来、限られた予算内で撮影するので、商業映画と比べると、映像の演出面や規模感はどうしても劣ってしまう傾向があります。最近では高機能な一眼レフカメラなど、リーズナブルな値段で手に入るため、その差は埋まりつつありますが、どうしても映像的な世界観構築より、ストーリーの構築(中身)の追求から入ることが多いのです。

そういった意味で、今回鑑賞した韓国の自主制作映画は、“シンプルなストーリー構築に、高度な映像表現力で純度の高い世界観を作り上げる“という作り方は自分にとって、非常に新鮮なもので、改めて映像の底知れぬ表現力に驚かされました。

シンプルな作りにすることで、普段映画を見ない人にとっても、非常に世界観に入り込みやすい世界観になっているので、ゆうばり映画祭を通して、韓国は自主制作映画においても…そして、人気のNetflixシリーズや商業映画においても、ヒットする作品を連発する理由を再度認識できた貴重な機会となりました!

今後の自分の映画制作においても、活かしていきたいと思います〜!

このように、ゆうばり映画祭は映画業界の中でも知名度が高い映画祭なので、海外からもクオリティーの高い作品が多く集まってきます。日本のみならず、海外の次世代を担う監督の作品が見られるのは大きな魅力なのではと考えています!

「もう一度生まれる」のコンセプト…そこに辿り着いた過程

自分がテレビの報道番組で働いている環境下が第一にあります。報道番組では、その日毎に発生した社会のトレンドや事件・事故等を取り上げる事が多いですが、新型コロナウイルス感染拡大により、番組で取り扱う項目がコロナ一色になりました。コロナ禍で苦しむ人々や店舗にカメラを回す機会が多くなり、その際にこぼれ落ちた思いや景色を更に拾い上げたいという僕個人の意思から、「もう一度生まれる」の企画が始まりました。

本作では、コロナ禍のスーパー銭湯が舞台になっていますが、本来であれば、人々の心身ともに当たり前を保つ場所が、新型コロナの感染拡大により、客やスタッフがいなくなり、場所としての目的を果たせなくなってしまう事で、コロナ禍で様変わりした景色と日常を主張できると考えました。

「もう一度生まれる」撮影風景より
「もう一度生まれる」撮影風景より

また、スマホやデジカメが普及し、誰でも映像を綺麗に撮れる時代になったからこそ、作品の内容…映画としての本質が改めて、問われていると思います。「もう一度生まれる」はその事を考えながら、テレビの報道番組で培った“社会・人を見る目”と、日藝の映画学科で培った“映画だからこそできる映像表現”の2つの経験を元にして制作したので、そういった点も評価して頂けたのだと考えております。

撮影前のロケハンでカメラを回す堀川監督
撮影前のロケハンでカメラを回す堀川監督

ゆうばり映画祭で入選や受賞をするとどうなる?

一般の公募型部門を含め、ニューウェーブアワード部門では過去に多くの著名人の才能にフォーカスし、その魅力を発信してきました。

女優の松岡茉優さんや杉咲花さん、また、宮藤官九郎監督などが過去に受賞しており、映画祭での入選・受賞をきっかけにブレイクを果たすケースも珍しくありません。

さらに入選した自主制作映画が劇場公開に繋がるケースもあり、若手からベテランまで、新たな魅力・才能を見出される貴重な機会として、注目を受けている映画祭です。

「もう一度生まれる」上映を終えての手応え

コロナ禍でオンライン配信を中心とした開催形式でしたが、歴史ある映画祭ということもあり、作品の感想や意見について多くの声を頂けました。

ノミネート作品は映画祭期間にHuluや映画祭オンデマンドを通して上映されましたが、驚いたのがSNSを通して、DMやツイート等で数多くのご感想を頂けたことです。頂いた感想の中で共通していた部分は、「清掃員という、普段目に見えない職種にスポットを当てた映画で着眼点が良い」「コロナ禍のスーパー銭湯で、当たり前の形を問うコンセプトが時代性を象徴しており、世界観がリアルだった」等の声を頂けました。

「もう一度生まれる」は報道番組でAD業務をしながら制作した映画なので、そこで培った人間・社会への観察力も作品に活かしたいと常に考えており、「着眼点が良い」「リアルだった」という声は非常に嬉しい感想でした。

「もう一度生まれる」クランクアップ時の様子
「もう一度生まれる」クランクアップ時の様子

また、この作品はそもそも“自主制作映画”という事で、スタート地点から…最終的に上映の機会を頂ける保証は一切ありませんでした。

自ら映画祭に応募し、そこでのノミネート実績を積み上げることでしか、作品の評判を広げる事は出来なかったので、「京都国際映画祭」に続き、「ゆうばり映画祭」という2つの大きな映画祭で評価して頂いた事は大変価値のあることだと思っています。

実際に、映画祭での実績=作品クオリティーの高さを証明してくれるので、映画館上映に向けても、ゆっくりと動き出しています。

次は大きなスクリーンで「もう一度生まれる」を見て頂きたいので、続報をお持ち下さい…!
そのために自分なりの努力も続けてきたいと思います〜!

 

<プロフィール・堀川 湧気>
日本大学藝術学部映画学科で、映画やドキュメンタリーの制作について学ぶ。
卒業後は、テレビ業界に進み、フジテレビの報道番組「Live News α」の制作に携わる。現在はディレクターとして、番組内で取り扱う映像作品の企画・構成・取材等を行う。
学生時代、監督作品が NHK Eテレ「岩井俊二のMovie ラボ シーズン2」にノミネートされ、テレビ出演を果たす。出演時には、岩井俊二監督とゲストの堤幸彦監督に作品についての講評を頂く。また、監督を務めた卒業制作が優秀作品に贈呈される「日藝 特別賞」を受賞。

2021年、監督・脚本・編集・プロデュースを務めた映画「もう一度生まれる」が京都国際映画祭にノミネート。ノミネートを通じて、優秀作品に贈呈される「優秀賞」も受賞する。