毎年、長崎原爆の日の平和祈念式典で、自らの被爆体験を語り、恒久平和を訴える「平和への誓い」。2022年は被爆者、宮田隆さんが選ばれた。
「平和への誓い」を通して、新しい世代に核兵器廃絶を託したいという宮田さんの姿を取材した。

自宅で被爆…世界平和を願い活動

被爆者・宮田隆さん:
ここから立山、このあたりなんですよね

この記事の画像(12枚)

被爆者の宮田隆さん(82)。
5歳のとき爆心地から2.4キロの、今の長崎市立山の自宅で被爆した。

被爆者・宮田隆さん:
(77年前の8月9日は)浜町におふくろと買い物に行った。そして家に帰ってきて、B-29が飛んでくるのを見た

屋内にいながら爆風で吹き飛ばされ、気を失っていたが、幸い大きなケガはなかった。
家が壊れたため2週間ほど畑で寝泊まりし、その後、見た光景を今でも覚えている。

被爆者・宮田隆さん:
50キロ歩いて島原半島に疎開した。その間、山を越えて看護師さんが水をくださいと言って来た。水をくださいと言ったまま、亡くなった

宮田さんは、定年後から平和活動に力を入れるようになった。
自宅のある雲仙市での被爆講話のほか、ノーベル平和賞を受賞したICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンの活動を知ってもらう市民団体の立ち上げにも携わった。
さらに東京五輪では、世界平和につながるよう願いながら聖火ランナーも務めた。

聖火ランナーを務めた宮田さん
聖火ランナーを務めた宮田さん

被爆者・宮田隆さん:
平和を作るぞ、平和をつなぎます

ウィーンの町で世界の人たちと交流

10年前に発症したがんの悪化に苦しみながらも、2022年6月には、オーストリア・ウィーンで開かれた核兵器禁止条約の締約国会議の場にも参加した。
高齢のため、現地入りを断念した被爆者が多いなか、精力的に活動した。

被爆者・宮田隆さん:
いま世の中では、戦争の熱気と平和の熱気が戦っている。戦争か、平和か、そういうのを感じますよ。可能性は自分たちで作らなきゃ。僕らの役目はここまで、被爆者が核兵器禁止条約を作ってきた

宮田さんが身に着けたビブスには、「ナガサキの被爆者です。何か質問はありませんか」の文字。

ウィーンの町を歩き、世界の人たちと交流した。

被爆者・宮田隆さん:
多くの人が原爆によって病気になった。イギリスも日本も、平和に向けた大きなアクションを起こす必要がある

イギリス人男性:
核兵器廃絶のため、平和教育と次世代の平和活動が大切という話が印象的

被爆者・宮田隆さん:
長崎の原爆は、ある面では知っている方もいるが、まだまだ知らない人も多い。被爆者だけが苦しんでいるわけではない。戦争被害者という大きな意味で、われわれは物事を考えなければ

宮田さんが2022年の「平和への誓い」に応募したきっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻だ。

被爆者・宮田隆さん:
あの時の恐怖は、今のウクライナの惨状につながります。戦争は、無実の市民を最後は狙うんです

核兵器が再び使われるかもしれないという危機感があったが、現地では核兵器廃絶の訴え方のヒントをつかんだ。

被爆者・宮田隆さん:
手ごたえというか、皆さんが聞いてくれるからうれしいよね

「平和への願い」力強く…

帰国後、宮田さんは平和公園を訪れた。
実は、これまで8月9日の平和祈念式典に出席したことがなかった。

被爆者・宮田隆さん:
不安です。被爆者の方は僕以上に苦しんでいる方がいらっしゃるから。そういうことを、すべて僕が語れるはずがない

宮田さんは世界中の若者と交流したウィーンでの経験を踏まえ、「平和への誓い」では、次の世代に核兵器廃絶を託したいと考えていた。

被爆者・宮田隆さん:
いつまでも被爆者、被爆者でね、僕らの意見を参考にしてはいけない。新しい平和のあり方を、新しい時代の人が決めないといけない。もっと新しい時代の人にバトンタッチするよと、明確に言いたい

そして8月9日、岸田首相や世界83カ国の代表が参列するなか、宮田さんが力強く「平和への誓い」を読み上げた。

宮田さん「平和への誓い」を読み上げる
宮田さん「平和への誓い」を読み上げる

被爆者・宮田隆さん:
ウクライナに鳴り響く空襲警報のサイレンは、あの“ピカドン”(=原爆)の恐怖そのものでした。77年後の今、ロシアの核兵器の使用を示唆する警告によって、世界は今や核戦争の危機に直面しています。
日本政府は、核兵器禁止条約に一刻も早く署名・批准してください。昨年発効した核兵器禁止条約は私たち被爆者と全人類の宝です。今こそ日本は核の傘からの価値観を転換し、平和国家の構築に全力を挙げるべきです。
核兵器禁止条約をバネに、新しい時代の始まりであることを自覚し、私たちは強い意志で、子供、孫の時代に「核兵器のない世界実現への願い」を引き継いでいくことをここに誓います

(テレビ長崎)

テレビ長崎
テレビ長崎

長崎の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。