終戦から77年。
陸軍の少年飛行兵に志願し、21歳で戦死した男性がいた。家族のもとには亡くなる直前まで書かれた日記が遺されている。
日記につづった心情、そして残された家族が今、改めて思う戦争とは…。

21歳で戦死した少年飛行兵の兄 母いわく「兄の生まれ変わり」の弟

お墓参りに来ている男性は、兵庫県高砂市に住む宮先一勝さん(77)。

「河南省洛陽西方20キロメートルの上空において敵戦闘機と交戦中敵弾を受け…」と戦死した兄・一夫さんの墓石に刻まれた文字を読み上げる。

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宮先一勝さん:
これはね、家族の写真ですけど、この真ん中が兄ですね。現地に行く前だと思う。学校時代かな、家帰ってきた時の写真で当時の家族と一緒に映っている。私はまだこの中にはいません

一勝さんの兄・一夫さん。

陸軍の少年飛行兵に志願し、1944年6月13日、21歳で戦死した。

その翌年に生まれた一勝さんは、兄を知らない。
しかし多くは語らない母が、繰り返し口にした言葉が心に残っている。

宮先さん:
具体的なことを母はしゃべらなかったけど、母いわくは兄貴の生まれ変わりだということでそれはよく聞かされた

兄が遺した”出陣日記” 戦死する8日前まで記された11ページ 

遺骨も残らなかった一夫さんだが、そんな中で唯一残されたものを母が大切に保管していた。

宮先さん:
4月初旬から6月5日までの日記ですね。母が大事にしていたのですが、母も亡くなってだいぶたつが、遺品整理の中で出てきたので、こういうふうにして残している

兄が遺した「出陣日記」。
ここには、戦死するまでの3カ月間が11ページにわたって記されている。

出陣日記:
北支(中国北部地域)に転戦はや3日、黄塵吹き荒ぶこの大陸での邀撃も想像以上の苦難あり 昨日も今日も幾度の出撃か いまだに敵遭遇の機にめぐまれず我に武運巡り来る日はいつぞいたずらに気のはやるばかり

出陣日記:
何たる日ぞ今日は今先に祈りし戦友が洛陽の空で散華しようとは 今日まで語り今日まで助け合った戦友の死ほど、悲しくもあり寂しきことはなし
 

中国北部に出撃していた一夫さん。
戦地での日々を過ごす中で、戦果を欲する心情とともに仲間への思いもつづられていた。

そして21回目の誕生日にはこう記している。

出陣日記:
21回めぐり来る我が誕生日 離れて初めて知る父母の恩、家中揃ってきょうの日を喜んでくださる遠い郷里がまぶたに浮かぶ

日記の中には、ほかにも戦闘機が描かれていて、「死闘奮戦」の文字が書き添えられている。

宮先さん:
最後の6月5日には「愛機の整備なり、ますますこれからだ死闘奮戦、若き我等の血は五尺の短身にみなぎる」と非常に勇ましいことを書いている。今の言葉で言うと「死闘奮戦」ってあまり通用しないと思うが、当時のギリギリの段階ですから。生きるか死ぬかということでやるかやられるかっていうことしかなかったと思う

日記はこのページで終わり、8日後、一夫さんは銃弾を受け戦死した。

“出撃前夜”旅館に託した「辞世の句」など遺品を保管

当時、若くして多くの人が戦地に向かい命を絶たれた。
そんな隊員たちが出撃前に残した貴重な資料が、兵庫県加古川市にある”鶴林寺”に保管されている。

鶴林寺 茂渡俊慶住職:
こちらがその遺品の箱ですね。したためられた辞世の句の短冊とかお守りにしていたであろう小さな飛行機の模型とか、写真とか色紙とかそういったものが入っています

その遺品の中から、『断』と書かれた紙を見せてくれた。

鶴林寺 茂渡住職:
炭ではなく血液で書いたと思われます。指を切ってその血で書かれたものだと思われます。迷いを断ち切るとか命を絶ってでも戦うとかそういったものでしょうね

ほかにも出撃の決意を記した短冊の数々。
出撃前夜に撮られた集合写真はみんな笑顔だった。加古川市にはかつて軍用の飛行場があり、機体の整備などのため、隊員たちは近くの旅館に立ち寄っていた。
そして出撃前にこれらの物を旅館に託していたのだ。

鶴林寺 茂渡住職:
戦争が終わった後旅館のご主人が若くして旅立った人を悼んで建てた碑です。旅館を廃業することを決めてどこか移設の先を探していてここにきた。できるだけ資料を大事に保存して後々の時代のために絶対戦争はしてはいかんと。こんなつらいことがあったんだと、皆さんに訴えるそのお手伝いができたらうれしいことだと思う

「命の大切さを、若い人に伝えていかないといかん」

月命日の13日には、必ず墓参りに来ているという宮先一勝さん。

宮先さん:
おかげさまで元気にやっていますっていう報告はしている。いうても”生まれ変わり”ですから。戦争でたくさんの人が亡くなっているけど、(兄は)その一人にすぎないけど、命の大切さというのを、若い人に伝えていかないといかんと思う

終戦から77年を迎えた。
会えなかった兄に思いをはせ、きょうも生きている。

(2022年8月15日放送)

関西テレビ
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