存続か廃止か…。いま岐路に立つローカル線。JR西日本は、大きな赤字を抱える路線について初めて収支を公表。関西では8つの区間が対象となった。

赤字ローカル線はどんなところを走っているのか?そして、存続させるには何が必要なのか?記者たちが実際に「赤字ローカル線」に乗って取材する。

乗客は少ないが、生活に必要な”足”

第1回は京阪神から最も近い赤字ローカル線、兵庫県を南北に走る「JR加古川線」だ。JR西日本が今回、収支を公表したのは、全路線(加古川~谷川)のうち北側の約3分の1の区間(西脇市~谷川)。

年間2億7000万円の赤字となっていて、このままでは存続の危機だ。しかし、記者が実際に乗ってみると観光路線のポテンシャルを発見!?

鈴木祐輔 記者:
兵庫県西脇市に来ました。JR加古川線は加古川と谷川を結んでいるんですが、この駅を境に谷川は収支が厳しいと公表している区間です。実際、どんなところなのか。乗ってみたいと思います

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西脇市から谷川の区間は、ICOCAなどのICカードが使用できまない。

鈴木記者が乗車したのは平日の昼間でだったが、座席は半分ほど空いていた。

鈴木祐輔 記者:
2つ目の比延駅なんですけれども、駅で電車を待っている人はいませんでした。降りる人もいないようですね

比延駅の1日あたりの平均乗降客数はわずか52人だ(2019年)。

乗っていたお客さんに話を伺った。

(Q.今日はどちらに行かれるんですか)

通学中の大学生:
大学に。通学で利用してるんで。電車がなくなってしまうと、西脇市駅まで自転車か車で行くことになる

病院の帰りだという86歳の女性からは切実な声も…。

病院から帰る高齢女性:
これしかないからね。なくならさんといてね。私も車を運転してましたけど、もう80になった時に車を買い替えよう思ったら、甥がね「おばちゃん、もうやめとけ」って言った。もう不便やわー

人気の古民家食堂 地産の野菜を味わう

鈴木記者、途中の本黒田駅で下車する。

鈴木祐輔 記者:
「黒田官兵衛生誕地」とあります。そういう場所なんですね

かつては立派な駅舎があったのだが、建物の維持管理コストを節約しようと駅設備の簡略化が進んでいる。本黒田駅の1日あたりの平均乗降者数は136人だ(2019年)。

鈴木祐輔 記者:
とてもおいしいお食事があるお店があるので、向かってみたいと思います。だいぶ暑いですからね。熱中症予防ということで、全く人もいませんので、ここからマスク外してまいります

駅から本当に歩いて行けるのか?時間も測りつつ向かう。

鈴木祐輔 記者:
鳥の鳴き声しか聞こえません。あちらに見えている小高い山、あそこが黒田城があったところなんだそうです。有名な軍師、黒田官兵衛はこのあたりで生まれたということです

目的の食堂を目指して歩くが、これといった目印もない。

鈴木祐輔 記者:
普通は「何とかのお店を右」とか言ったりするところなんですが、今回の目印は「お墓を右」ということだそうです。あっ、ありました!

看板に従って集落の中を進んでいくと…。

鈴木祐輔 記者:
到着しました。かもめ食堂。駅からかかった時間は実測で21分13秒でした

古民家を使った「かもめ食堂」は、2021年12月にオープンした。予約がなかなか取れない人気店で、この日もたくさんのお客さんでにぎわっていた。

お客さん:
インスタグラムを見て行きたいなあと思って。今日たまたま見たら席が空いていて

お客さん:
全ておいしかったんですけど、なんか体にいいでしょうし

注文したのは「ズッキーニの肉巻きカツ定食」(1000円)。さてお味の方は…?

鈴木祐輔 記者:
うーん!素材の味が生きているというか、全体的にやさしい味がしますね。いや、これはどんどん食べたくなる

かもめ食堂 船橋律子さん:
ズッキーニは西脇市産です

「かもめ食堂」では、地元や隣町でとれた新鮮な野菜をふんだんに使っている。

鈴木祐輔 記者:
どの料理も全ておいしいです。これは人気の理由が分かるような気がします

食堂はもともと神戸市内にあったが、都会は食材よりも送料の方が高くつくことが悩みで、新型コロナの流行をきっかけとして、夢だった田舎暮らしを決断したそうだ。

かもめ食堂 船橋さん:
決め手の一つは、JR沿線だったということもあって。私は車に乗れないので

(Q.ほとんどのお客さんは車で来るそうですが、中には…)

かもめ食堂 船橋さん:
「車がないから来られないわ」っていう方が、何とか電車で来てくださったりするんですけど。来られても帰りの便がないとか、本数が少ないので…

乗客減で本数減 さらに乗客減…の悪循環

鈴木祐輔 記者:
さあ次の目的地、隣の黒田庄駅に向かいます。(時刻表を確認して)電車の時間は…しばらくありません!次の電車は15時24分、2時間ぐらい後になります

乗る人が少ないのは、本数が少なく“不便すぎる”からではないか…。市長の思いも同じだった。

西脇市 片山象三市長:
基本的にやはり、乗客が減ってくるから本数が減る。本数が減るからまたお客さんが減るっていう、本当に悪循環になっていると思います

さらに加古川線の歴史を振り返ると、JR神戸線と福知山線とをつなぐ今の形は、将来に「残すべき」だと話す。

西脇市 片山象三市長:
阪神淡路大震災のときに、加古川駅から谷川駅までが迂回路として大活躍しました。南海トラフ大地震が起きた場合も、この路線がつながっているからこそ、命や安全がつながると思います。この”つながり”を大事にしていただきたいと思います

工場跡カフェで“ふわっふわ”パンケーキとの出会い

さて、鈴木記者は再び電車に乗って次の目的地へ。黒田庄駅を降り、歩いてわずか7分あまり。

播州織の工場跡をリノベーションしたお店「カーペンターズキッチン」に到着。地元の人気スポットだ。

この店の一番人気は、ふわっふわのパンケーキ。見渡すと、あのテーブルもこのテーブルも、パンケーキを注文していた。

隣の多可町名産の「播州地卵」を使った優しい甘みと、ムースのようなふわふわ食感に焼き上げたのが特徴だ。

お客さんたち:
ふわふわ。なんかとろけるような感じです、口の中に入ると

子供にも大人にも大人気。みんな笑顔で美味しそうに食べていた。

運営する「匠工房」 藤原由樹代表:
風景を見ながら北上して来られるような路線としては、魅力かなと思います。コロナ禍でも旅をしたような気分になりながら、おいしい料理を目指して来ていただく。そして駅からもそんなに遠くないというのは、一つのメリットかなと

加古川線をめぐる今回の“小さな旅”。記者は加古川線のたくさんの魅力を感じることができた。そして、沿線にはこんな親子の姿も…。

電車を見に来た親子:
1日1回は電車を見ないと気が済まない子なんです。(子供に向かって)見に来てんな。身近にあるから、よう見に来られるもんな

加古川線は、人々の暮らしのそばを今日も走っている。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月1日放送)

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