石川県能美市にある老舗和菓子店の名物「昭和九年」。ちょっと不思議な名前だが、一体なぜこのような名前がつけられたのだろうか?
この記事の画像(15枚)お菓子の名前に「昭和九年」 その由来は
霊峰白山を源に日本海に注ぐ全長約72km。石川県最大の河川、手取川。
手取川は2022年8月4日の集中豪雨で、24年ぶりに氾濫危険水位を越えた。
そんな手取川にほど近い、能美市の老舗和菓子店。ここには訪れる客が必ず買っていくという看板商品がある。
女性客:
昭和九年の詰め合わせ1つお願いします。
「昭和九年」と書かれたこの菓子。もなかの中にカステラとあんこ、バタークリームが挟んであり、年間10万個を売り上げるという。
気になるのはその名前。お菓子の名前にしては不思議だが、どうしてこのような名前をつけたのか?
御菓子処たなか 田中栄一さん:
昭和9年に手取川の大氾濫がありまして、その時にここに大変な大水がつきまして。腰下70〜80cmの水がきたんです。先人が大変な目にあったことを後世に残そうと思って、この菓子を作りました
”暴れ川”と呼ばれた手取川 昭和9年の大洪水
昭和9年(1934年)7月11日。例年にない大量の雪解け水が流れ込んでいた手取川に記録的な豪雨が加わり、氾濫、大洪水となった。
この洪水による石川県の死者・行方不明者は、あわせて112人に上った。家屋の倒壊など未曽有の被害に襲われたのだ。
御菓子処たなか 田中栄一さん:
若いお子さんから年配の方まで、やっぱし昭和9年てこれなんやって言って。謂れを聞くと、そんなすごいことがあったんだって。手取川は立派な川なんですが、昔は「暴れ川」と言いまして。一度暴れたら堤防が決壊したり、大氾濫を起こしたりして、ひどい目に遭ったことを忘れてはいけないなって
このお菓子が誕生したのは、今から37年前の1985年。修行から戻ってきた田中さんが考案した。
8月の大雨では梯川が氾濫「もう二度と…」
こちらの女性が買ったのももちろん…。
女性客:
イチオシの昭和九年を買いました。(能美では)有名だし、お土産としてあげたら喜ばれるんです。
記者:
能美の人は皆知っている?
女性客:
そうですね。
2022年8月の大雨では、梯川が氾濫し能美市でも大きな被害があった。最後に店主にこう聞いた。
記者:
「令和四年」というお菓子は?
御菓子処たなか 田中栄一さん:
令和4年のことも考えたけど…。今回も川の水が少し溢れたけど、この辺はおかげさまで大丈夫でした。こういうお菓子はもう作りたくないです。できればね。
大きな被害があった水害を今に伝え、悲劇が繰り返されないことを願う…。思いのこもったお菓子は、能美市の人々に寄り添い親しまれている。
(石川テレビ)