新型コロナウイルスに感染したら、職場に申告するのは当然のことのように思える。しかし、実際はそうではないようだ。“コロナに感染したことがある”人の約3割が職場に申告していないという調査結果が明らかになった。

31.9%が「感染を職場へ申告しなかった」

キャリアや就職、転職全般に関する調査を行う「Job総研」は、20代~50代の835人の社会人男女を対象に「2022年コロナ感染に関する意識調査」を実施。(7月21日~25日調査)

この中で過去にコロナに感染した経験があると回答したのは、15.2%。そしてこの感染経験者に加え“感染を疑う症状あり”と答えた人のうち、「感染を職場へ申告しなかった」人が31.9%もいたのだ。

また、「今後感染した場合は申告しますか?」という質問に対しては、94.4%が「申告する」、5.6%が「申告しない」ということだった。

コロナ感染と職場への申告有無(画像提供:株式会社ライボ)
コロナ感染と職場への申告有無(画像提供:株式会社ライボ)
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なぜ職場へ申告しなかったのだろうか?

理由についても質問しており、最も多かったのが「フルリモートワークなので申告しなくても良いという考えのため」で36.1%、次いで「申告すると手続き等が面倒そうだから」が27.9%。「休まざるを得ず業務に支障をきたすから」が23.0%と続いた。

申告しない理由(画像提供:株式会社ライボ)
申告しない理由(画像提供:株式会社ライボ)

この他、第7波の動向の関心度については、「気にしている」(49.6%)、「どちらかといえば気にしている」(33.9%)で、合わせると83.5%が“気にしている派”となった。一方で「どちらかといえば気にしていない」が10.3%、「気にしていない」が6.2%で、合計すると16.5%が“気にしていない派”となる。

第7波の動向について(画像提供:株式会社ライボ)
第7波の動向について(画像提供:株式会社ライボ)

また、現状の働き方については、出社とテレワークを交えた「ハイブリッド型」が42.1%で、「フル出社」が40.8%、「フルリモート」が17.1%という結果となった。

現状の働き方について(画像提供:株式会社ライボ)
現状の働き方について(画像提供:株式会社ライボ)

コロナに感染したことを職場に申告していない人が3割もいるというのには驚きだが、今後、この結果を企業はどう活かすべきか?「Job総研」を運営する株式会社ライボの広報グループ長でJob総研室長の堀雅一さんに聞いてみた。

日本全体の約390万人が申告しない計算に

――今回、なぜこの調査をした?

過去に弊社Job総研で実施した「2022年脱マスク実態調査」の回答者コメントにおいて、コロナ感染の職場申請についての言及が多数見られたため、今回の調査実施に至りました。

具体的には「検査キットで自宅で検査した際にコロナ陽性が出たことを職場に申告しましたが、医師の診断による証明書提出を求められました。医療機関の逼迫に関するニュース等を拝見していると、証明書をもらうためだけに受診することに後ろめたさを感じました」

「従業員のコロナ感染について職場への申告は義務づけられていないので、職場に出社した際に感染者とオフィス内で濃厚接触しているのではないかと不安になる」

「職場に申告すると休まざるを得ず仕事に支障をきたすので無症状でコロナ感染の陽性が出たとしても申告していない人も多い気がします」

など、同様のコメントが多数あったことや、昨今コロナ感染者の症状が軽症化していることなどから、実際に感染者のどの程度が職場申告をしていないのかを調査をするに至りました。


――コロナ感染者の約3割が職場に申告しないという結果をどう受け止めている?

同調査での結果は回答者835人中過去コロナ感染を経験した285人の内91人で全体の約3割と少数ではありますが、職場に申告していないという事実に正直驚きました。これが仮に日本全体のコロナ感染者1310万人の3割が申告しないとすると約390万人が申告しない事になるので、決して軽視できる調査結果ではありません。もちろんコロナ感染者には就業者以外も含まれますが、どちらにせよ日本全体でカウントした際には決して少ない数とは言えないことが容易に推測できます。

コロナの完全な収束は無いと言われていますが、同調査結果を含めたさまざまな事象から感染拡大の波が途切れない要因になっているのだとあらためて感じました。

面倒さや後ろめたさで職場へ申告しない人も

――94.4%が「今後、感染したら申告する」と回答している点はどうみる?

一度は減少したコロナ感染者数ですが、現在第7波真っ只中において、その行動は国民一人ひとりがある程度自己判断しながら生活をしているのが現状ということを前提とすると、繰り返すコロナ禍の波に伴って、コロナ生活への慣れや、完全収束しない現実を目の当たりにして、いわゆる”緩み”が生じ、過去の感染経験者においては「職場への申告をした」が約7割にとどまっている一つの要因と考えられます。しかし昨今の第7波の大きな波が影響して再び個人レベルにおけるコロナ感染への意識が高まったことも大きいかと考えられます。

また、昨年に比べてテレワーク実施率が大きく減少しオフィス出社をする人口が増加している昨今において、オフィスにおいて対面でコミュニケーションを取る機会が増えているということも”今後は申告する”の率が9割超に増えている要因と推測しています。


――5.6%が今後も申告しないと答えている点は?

無症状の場合、本人が感染に気づかずに申告しないということは考えられますが、陽性を自覚しながら申告しないというのは、個人単位ではなく企業単位でこの現実を受け止めて改善していくことが必要と考えます。

現在、再び医療現場は逼迫状態になり、医師からの証明書提出を義務化している企業において、感染した際の申告の面倒さや後ろめたさなどから職場へは申告しないという判断をしている従業員がいる本末転倒な現実を産んでいることを受け止め、企業単位での工夫が必要なのではないかと考えます。


――なぜコロナに感染しても申告しないと考えられる?

申告しない理由については、「フルリモートワークだから申告しなくても良い考え」という回答が最多回答になり、次いで「申告すると手続きが面倒そうだから」「休まざるを得ず業務に支障をきたすから」と続きます。

回答結果を見ても前述した通り、働き方の標準がテレワークにシフトしていることや、医師からの証明書提出の義務などが影響していると考えられます。

※イメージ
※イメージ

――感染者は申告せずに働いていたということ?

同調査では、感染経験があると回答した内、約3割は申告せずに働いていたという結果になりましたが、一方フルリモートで働いている層が約2割ほどなので、職場で対面コミュニケーションをすることがないことから申告していないという回答者も含まれています。

こういったことから、企業単位でも従業員の中で感染者を漏れなく把握することが容易ではないということも知っておかなければならない事実かと思います。


――会社に休むことは伝えていたけど、コロナであることは隠していたということではない?

同調査における該当の設問では、”コロナ感染を自覚した上で職場に申告せずに働いていた”という結果になります。

感染の事実を職場に申告しやすい環境を整えていくことが必要

――申告しない理由のその他(16.0%)の中には、どんな回答があった?

・それほど大変なものではなく喉の違和感レベルだったため
・熱がなかったから
・コロナ感染と言っても症状が軽かったので単なる風邪と同じと判断した
・熱も無くすぐに治まったので
・長期休暇中(約2週間)だったため
・在宅でき、申告しても迷惑をかけるだけだから
など、「無症状または軽症だったから」といった類の回答が顕著でした。


――2021年の調査と比べて、結果が大きく変化した部分は?

「2021年 テレワーク実態調査」で約3割だったフルリモート率と比較して、今回の調査(2022年8月現在)のフルリモート率は17.1%まで減少していることが大きな変化だと言えます。また2021年調査では「フル出社」がわずか5%だったところ、今回の調査でのフル出社率は40.8%に増加している点も顕著な結果になりました。

そして今後緊急事態宣言が発令された場合の働き方では、35.9%がフルリモートを実施するという回答結果で、緊急事態宣言が発令されて初めてフルリモート率が3割を超えるという結果になっています。


――今回の調査結果を企業側はどう活かしていくべき?

前述した通り、企業単位での工夫や改善は必要になりますが従業員が感染者か否かをもれなく把握する難しさもあります。それを前提としても、出社による社内感染やそれが影響する家庭内感染を防ぐためにも、全ての感染を把握する努力は必須です。

今後コロナウイルスがどのようなウイルスに変化していくかよめませんが、いわゆる”ゼロコロナ”は難しいと言われる中、感染拡大の波が今後もやってくることを想定して、医療逼迫の現状や個人単位で検査が可能になった現状を踏まえると、職場に申告した際の手続きや証明書提出の是非を検討して、感染の事実を職場に申告しやすい環境を整えていくことが求められるのではないでしょうか。



職場に申告しない背景には、申告する際の手続きの面倒さがあるようだ。担当者が話すように企業側は、感染の事実を職場に申告しやすい環境を整えていくことが重要なのかもしれない。

なお調査結果については、こちら( http://job-q.me/articles/13783) に詳しく書かれている。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。