ジョンソン首相の辞意表明に伴うイギリスの政権党・保守党の党首選がいよいよ最後の2人に絞り込まれた。

この保守党の党首選を日本から見ていて、何とも羨ましいと感じることが幾つかあるので記したい。
次期首相候補は少数派出身と女性の2人に絞られた
既に良く知られているが、党員投票による決選に進むのはインド系イギリス人男性のスナク元財務相と女性のトラス外相の2人で、9月に締め切られる郵便投票で、スナク氏が勝てばイギリス史上初の少数派出身の非白人首相が誕生し、トラス氏が勝てば3人目の女性宰相になる。

つまりイギリスの次期首相に白人男性が就任することはもう無いのだが、実は次期首相候補が4人だった時点で、その中に白人男性は既に居なかった。
言わば準々決勝に進んだ4人を見ると3人が女性で内1人はアフリカ系、ただ1人の男性が移民の息子のスナク氏だった。
(注・保守党党首選は毎回一人ずつ弾き出されるので4人の時点は準々決勝に当たる)
党首選に投票資格を持つ保守党の党員数は非公表だが10数万人、大半がEU離脱派で、白人男性と言われている。
イギリスの移民事情は日本と全く異なるので、これを一概に云々するのは適切ではないのだが、それでも4人まで絞り込まれた次期党首、即ち、次期首相候補の内3人が女性で、2人が少数派出身というのは特筆に値する。

日本、特に自民党の総裁選でこのような状態は全く考えられない。
多様性を受け入れると言う観点から見れば、イギリスの保守党に一日の、というより百日の長がある。
党首候補2人は若く 議員歴も短く 世襲議員でもない
スナク氏とトラス氏の経歴を見てみよう。

2人とも若い。40代である。
そして、若いのは年齢だけではない。
初当選は二人とも2010年以降である。
スナク氏に至っては下院議員歴10年に満たない。
共に世襲議員ではない。
それにも係わらず既にスナク氏は財務相として最近まで辣腕を振るい、トラス氏は保守党政権では初の女性外相に抜擢された。
地盤や看板、汗をかいた年数より本人の能力が重視されたのは間違いない。
保守政党にも根付く多様性の尊重
多様性という観点で言うと、例えば同性婚も夫婦別姓もイギリスでは既に認められている。
ごりごりの保守政党である保守党にさえ、年齢・性別・出自・性的志向に関係なく、本人に然るべき能力と意思があれば登用しようという意識が根付いていると言ったら褒め過ぎだろうか?
移民について言えば、社会や国家に馴染めず、犯罪やテロ活動に走る者はイギリスでも確かに出ている。明らかに大問題なのだが、犯罪やテロに走るのは移民層ばかりではない。移民の子や孫だからと言って立身出世の道が閉ざされている訳ではなく、社会の許容度は高い。

関連して更に例を挙げれば、今は知らぬが、少し前のスコットランドの保守党リーダーは同性パートナーを持つ女性だった。また、ボリス・ジョンソン市長の後を継いだロンドンの今の市長は、野党・労働党のメンバーだが、欧州主要国の首都で初めてのイスラム教徒である。父親はパキスタンからの移民でバスの運転手だったと記憶している。
イギリス政界は要は本人次第なのである。
多様性を受け入れることと日本社会
多様性を受け入れることは、現代社会と国家の進展にとって重要である。
日本においても、女性であることや性的志向、学歴等が原因で疎外感を感じ、社会や国に十分な愛着を持てない人はかなりいるはずだ。
人々の多様性を拒否するのではなく、受け入れ、社会全体の一体感や愛国心を高めることは、少子化や安全保障環境の悪化、日進月歩のIT等技術に伴う社会の変化、地球環境の変化に、より適切に対応する為にも極めて重要だと思う。
これまでのイギリスのように移民をどんどん受け入れるべきとは言わない。
移民が同化するスピードより、増加するスピードの方がずっと速いと、普通、弊害の方が大きくなるからでもあるが、せめて、既に居る日本国民の多様性は、イギリスの良い点も見習って、受け入れる方が遥かに得策だと思うのである。
これに政治が果たす役割は非常に大きいのである。
【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉郎】