さいたま市のインターネットカフェで、去年6月、女性従業員(21)を人質に取り、およそ32時間に渡って立てこもった上、女性にケガをさせた、逮捕監禁致傷などの罪に問われている住居不定・無職の林一貴被告(41)。その公判が、さいたま地裁で始まった。
「この野郎」法廷で声を荒げる被告
今月6日の初公判。林被告は「監禁したという部分は合っているが、他は間違っている」と述べ、起訴内容を一部否認した。現場はネットカフェの個室。ネゴシエーター役の捜査員は、林被告に対して、投降するよう説得を重ねた。と同時に、人質の女性の安否確認も行われていた。
この記事の画像(16枚)インターホン越しの”やり取り”は、実に60回に及んだという。法廷では、その会話の詳細が、検察官から語られた。濃紺のジャージ姿の林被告は、時折、腕を組みながら、それを聞いていたが、検察官に向けて一度「この野郎」などと声を荒げる場面も見られた。
第2回公判は、人質の女性従業員が証言台に立った。当時、女性は、午前8時からの勤務に就いていて、トイレ掃除などをしていた際に、事件が起きたという。
指には後遺症「人を信用できなくなった」
「個室のテレビがつかない」林被告から、そう声をかけられた女性は、何の疑いもなく、個室に入った。リモコンを使って設定を変えたりした後、店長にインカムを使って現状を報告しようとしたところ、状況が一変する。
人質の女性:後ろから首を絞められました。一回意識を失いました。
女性はうつ伏せにされ、林被告に上から押さえつけられながら「おとなしくしていたら殺さない」などとカッターナイフを突きつけられたという。そして、首や親指同士を結束バンドで縛られたそうだ。
女性によると、今でも、首には結束バンドの傷があり、左手の親指には、しびれを感じるという。医師からは、PTSDと診断されたとのこと。検察官から、事件後の日常生活に何か影響があったか問われると、女性は「知らない人を怖かったり、1人で外出することが難しかったり、人を信用することができなくなりました」と証言した。
「立てこもって自分の不満を伝える」
第3回公判。被告人質問で林被告は当時の心境を明らかにした。林被告は別の事件で服役し、おととし6月に秋田刑務所を仮釈放で出た。その後は、日雇いの仕事をしていたが、社会生活が、なかなか、うまくいかないと感じていたという。
林被告:立てこもって自分の不満を伝えようと決めた。
事件を起こすことを決めたのは、ネットカフェに入店する1時間ほど前だったという。そして「たまたまいた」女性を人質に選んだそうだ。カッターナイフを所持していた理由について林被告は、「バッグの中に入っていた。趣味で使用することがあり文房具として持っていた。」と説明した。
現場の個室の鍵穴は、接着剤でふさがれていた。外から扉を開けられないよう、林被告が細工したとされている。なぜ接着剤を所持していたのか問われると、林被告は、「偶然あった」と答えた。
カッターナイフも、接着剤も、「たまたま持っていた」という主張だ。被告人質問で、林被告は、犯行の「計画性」を否定する形となった。
求刑は懲役20年 弁護側「懲役5年が妥当」
公判は4回目を迎えると、被害者の女性が代理人を通じて意見陳述を行った。「32時間、ただただ恐怖や不安、絶望感しかなかった。どこまで自分が不幸になっていくのか、林被告に人生を壊された。傷を見るたびに事件のことを思い出します」
その後の論告で検察側は「32時間にわたり女性を監禁して極度の恐怖を与えた。過去に類を見ない悪質な事件。被告に反省の態度もない」と指摘し、懲役20年を求刑した。一方、弁護側は「部屋から出ていくことは可能だった。監禁したことについては反省している。懲役5年が妥当」として情状酌量を求めた。
最後の意見陳述で、林被告は、裁判官を見据えて、「懲役20年でも30年でも無期懲役でもいい。刑務所から出て社会復帰しても生活できない人がいる限り、犯罪はなくならない」と訴えた。判決は今月20日に言い渡される予定だ。
(フジテレビ社会部・さいたま支局 大久保裕)