安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから3日。選挙投開票日の夜、筆者は安倍氏を政治の師と仰ぐ稲田朋美元防衛相に稲田氏の地元福井でインタビューを行った。

稲田朋美氏「安倍元総理は政治の師でありかけがえのない政治家です」
稲田朋美氏「安倍元総理は政治の師でありかけがえのない政治家です」
この記事の画像(22枚)

「最終日は行くから」が最後の言葉だった

安倍氏が死去した8日、取材した地元記者によると稲田氏は憔悴した様子だったという。しかし10日夜、筆者があらためて当日のことを聞くと稲田氏は淡々とこう答えた。

「一報は福井で選挙活動中に聞きました。同僚からメールがあって“まさか”と。最初は信じられなかったのですが、すぐニュースを見たら放送されていて非常に驚きました。直前に安倍元総理とメールでやり取りをしていて、(事件の)翌日福井に入る予定でしたが、選挙区のことをすごく心配されていて『最終日(9日)は行くから』と。その後ですから、とても信じられない気持ちでした」

稲田氏の政界入りを推したのは安倍氏だった。稲田氏は「安倍元総理がいらっしゃらなければ政界入りする事は100%無かった」という。

東京・増上寺で行われた安倍元首相の通夜(7月11日)
東京・増上寺で行われた安倍元首相の通夜(7月11日)

「その後もずっと政治行動はともにしてきましたので、私にとっては本当に政治の師であり、かけがえのない政治家です。そして私だけではなくて、日本にとっても、また世界にとってもかけがえのない偉大な政治家だと思っています」

安倍元首相の通夜に参列した稲田氏(7月11日)
安倍元首相の通夜に参列した稲田氏(7月11日)

バッシングを受けた私を常に心配してくれた

政界にデビューして以来、安倍氏と政治行動をともにしてきた稲田氏だったが、昨年2人の間に溝が出来た瞬間があった。

筆者が直近で稲田氏にインタビューしたのは、ちょうど1年前。LGBTQ理解増進法案について、稲田氏が自民党内のまとめ役として与野党交渉の中心となっていた時期だった。当時自民党の保守派からの稲田氏への反発は強く、筆者には稲田氏が安倍氏との袂を分かったように見えた。当時安倍氏との関係はどうだったのか?

稲田氏は「100%意見が合う政治家はいない」としながらも、安倍氏とのこんなエピソードを明かした。

「もちろん安倍元総理は、私のLGBTQ理解増進法の成立に向けての動きに少し疑問を持っていられたかもしれません。安倍元総理は『稲田さんがここまでやってくるとは思っていなかった』とおっしゃっていましたが、それでも(安倍氏と私の)信頼関係が壊れるということはありませんでした。むしろ私が保守陣営から大きなバッシングを受けたので、安倍元総理は心配をされていて、『修復するにはどうしたらいいか』と常に心配されていました」

不在による混乱は絶対に避けなければいけない

今回の参議院選挙では自民党が圧勝し、改憲勢力が3分の2を超えた。この結果を稲田氏はどう見るのか?

参院選で圧勝した自民党
参院選で圧勝した自民党

「いま危機ですよね。安全保障、コロナ、経済と日本が抱えている課題はとても大きい。ですから国民の皆さんは、どうするべきだと指し示している政党、安心して任せられる政党はどこなのかと考えたときに、やはり自民党しかないという選択だったと思います」

しかし安倍氏なき後、自民党内、とくに主を失った最大派閥である安倍派=清和会はどうなるのか。稲田氏はこう語る。

安倍派パーティーでの安倍元首相
安倍派パーティーでの安倍元首相

「安倍元総理は非常に発信力があって、それが清和会の力の源泉でもありました。ですから安倍元総理がいない清和会をどうやってまとめていくのかは、非常に大きな課題になると思います。しかしここまで安倍元総理が大きくした清和会が、(安倍元総理が)いないことによって混乱するのは絶対に避けなければいけないと思います」

LGBTQ理解増進法は粛々と進めていきたい

最後に、政治の師を失った稲田氏が今後どのような道に進むのか聞いた。

「政治家になって18年目ですが、1つは地元や霞ヶ関、野党とのパイプが強くなってきましたので、様々な課題を一つずつ解決したい。もう1つは安倍元総理がやり残された憲法改正と防衛力強化は絶対にやり抜きたいと思っています。またLGBTQ理解増進法の方向性は『強くて優しい国』にとって間違っていないと思うので、保守派の理解を得ながら粛々と進めて行きたいと思っています」

稲田氏「最大の試練を乗り越えたいと思います」
稲田氏「最大の試練を乗り越えたいと思います」

そして稲田氏は「失ってさらにその存在に驚いていますが、安倍元総理が成し遂げようとした日本を目指し、この最大の試練を乗り越えたいと思います」と締めくくった。これからまさに岸田政権と自民党の底力が試されるのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(22枚)
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。