2020年の春以降、コロナ禍により働き方は大きく変化した。もっとも顕著なのはリモートワークの急激な浸透だ。感染対策により、リモートワークが可能な企業が在宅勤務のため、業務のデジタル化を推進。

再び感染者が急増しているが、ウィズコロナの日常が当たり前となりつつあり、一部では出社回帰の動きも見られる。

アメリカでは電気自動車大手テスラ社のCEOイーロンマスク氏が幹部社員に対して「週最低40時間の出社」つまり事実上、週5日の出社を求め「従わなければ辞職したとみなす」とするメールを送ったとして話題に。

一方で、国内ではNTTが今年7月から基本的な勤務場所を「自宅」とし、オフィスに出社する場合は「出張扱い」となるルールを導入するとして反響を呼んだ。

コロナ禍で起こった変化は我々の働き方を抜本的に変えていくのか。それともいずれ元に戻ってしまうのか。未来の働き方を研究するツナグ働き方研究所所長の平賀充記さんに話を聞いた。

自由な働き方は生産性を向上させる

コロナ禍がもたらした変化のポイントは「働く『場所』と『時間』が柔軟かつ自由になってきた点です」と平賀さんは語る。

確かにコロナ禍以降、出社勤務とリモートワークを組み合わせる「ハイブリッドワーク」や、観光地やリゾート地でリモートワークしながら休暇をとる「ワーケーション」、週の休みを1日増やして4日勤務とする「週休3日制」など新たな働き方を予感させる言葉を目にするようになった。

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「人は自律的に働けるスタイルを能動的に選択し、自分の裁量で仕事ができる環境にあると、金銭や名誉などの外的報酬より、自らの内側に起こる好奇心や探究心などの『内発的動機付け』によって働けるようになると言われます」

内発的動機付けが高まると、それに伴って仕事の生産性も向上するという。「ですからこの自由度は今後も保っていきたいもの。コロナ禍以前の状態に戻してはいけない点でしょう」と平賀さんは強調する。

「生産性が高まる」とは経営者などマネジメント側にとっての利益とばかり捉えられるかもしれないが、それは違う。

「生産性が高まることは、出すべき成果を短時間で達成できることと同義です。そうすると自分の自由になる時間が増える。ワークライフバランスも整いますし、家事や育児に追われる子育て世代にとっても助かるはず。

また、最近の若者は終業後に会社とは異なるコミュニティーに属し、2枚目の名刺を持って活動するケースもあるため、できる限り残業を避けたいでしょう。それぞれの世代にとって必要な時間を捻出できるので、メリットが大きいと思います」

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1989年の流行語となった栄養ドリンクのキャッチコピー「24時間戦えますか」そのままの、長時間労働に身を投じてきた昭和生まれ世代の中には、「生産性」という概念に馴染めない人もいるかもしれない。

「長時間働く『力技』で乗り越えてきた世代は、年収の額に重きを置きすぎて、その年収を得るために何時間を費やしたかを考えない、いわば『年収脳』の人たちと言えるかもしれません。しかしすでに若手たちは、給料を割り算して『1時間当たりいくらか」を計算しながら仕事し、働く時間を濃くして効率よく稼ぎたい『時給脳』である傾向が強い。これからはどの世代も、生産性を重視した『時給脳』に変わらなければいけないでしょう」

「適切な1on1」はリモート時代の生命線

何度かの緊急事態宣言を経て、今ではウィズコロナが日々に浸透した。リモートワークを行う人でも週に何度かは出社するハイブリッドワークに落ち着いたというケースもあるだろう。

コロナ禍以降に入社した若手社員にとって、ハイブリッドワークは「社内での関係性の構築が不十分のため孤独を感じがちなリモートワーク」と「なかなか慣れない出社勤務」の組み合わせとも言える。彼ら彼女らが、そんな環境でストレスを感じず働くために大切なことは何か?

その鍵は「オンラインでの1on1(ワンオンワン)にあります」と平賀さんは言う。上司と部下が1対1で行う面談「1on1」は、すでに取り入れている会社も多いだろう。しかし「実は、1on1が上手く機能している企業やチームはそれほど多くありません」。

適切な「1on1」がカギになる(画像:イメージ)
適切な「1on1」がカギになる(画像:イメージ)

平賀さんは、若手社員から「1on1で何を話せばいいか分からない」との言葉をたびたび耳にするという。仕事の相談をしたかったのに雑談で終わってしまったり、不平不満を自由に言っていいと言われたのに正直に打ち明けたら怒られてしまったり…すれ違いが生じるケースは多い。

だからこそ大切なのは「前日までに、その日の1on1の『アジェンダ』の認識合わせをしておくこと」という。

当日は仕事の話をするのか、ただただ雑談する会にするのか、あらかじめプランを共有することが重要だ。「お互いが同じ状態で臨まないと、間違いなくすれ違ってしまいます」。そして1on1の最中は部下に7割程度は話をさせ、上司の話は3割ほどに抑えて聞き役に回るぐらいがちょうどいい。

また、「オンラインでのミーティングは対面と違って、熱量が伝わりにくいのです」と平賀さん。それを補うためには「頻度」を重視すべきだという。人は接触頻度が高いほど互いに好感を持ちやすい。そのため開催する頻度は、現状が月に1回1時間ならば2週間に1回に増やし、時間は30分に短縮してもよいのでマメに行うことが効果的だそうだ。

「オンラインでの1on1は、まさにリモート時代の『生命線』です」と平賀さんは断言する。

「コロナ禍以前なら社内のトイレや給湯室、喫煙室など非常に雑談の出やすい空間があって、そこで関係性が育まれていった部分があり、それがのちのち財産になったりしました。でも現在はそういったことが全く期待できない。ある程度意図的にケアしていくしかないのです」

若手社員だけではない。すべての年代にとって必要な時間のはずだ。

オフィスを「出社したくなる空間」に

もう1つ、ハイブリッドワークを上手に機能させる上で大切なのは「オフィスを出社したくなる場所にすること」だという。意識したいのは、リアルなコミュニケーションが生まれる仕掛けだ。

「例えばある企業では、オフィス内に各々の執務用デスクだけでなく、集まって談笑できるスペースを設け、そこで定期的にイベントを開くなどの取り組みを行っています。あえて人が通りにくいようなレイアウトでデスクを並べたという企業もありました。そうすると、通路で社員同士が鉢合わせて『先にどうぞ』『ありがとうございます』など譲り合ったりするため、自ずと会話が生まれるのです」

ウィズコロナの時代は社内にも工夫が必要に(画像:イメージ)
ウィズコロナの時代は社内にも工夫が必要に(画像:イメージ)

慣例のように行われてきた社内のイベントもハイブリッドワーク時代には工夫が必要だ。

「例えば社員総会はリアルで行うのが当たり前だと言っても、ただ経営陣が壇上で喋るのを聞いて帰るだけの会ならそれこそオンラインでいいはずです。例えばそういった総会なども参加型のイベントに変えていくなどのアイデアが求められるでしょう。基本的なコミュニケーションはオンラインの1on1で行い、オフィスに来ることは“ハレの機会”のように変えていく。この2つを意識することが今後のハイブリッドワークに必要だと思います」

とりわけ2022年4月入社の「リモートネイティブ」たちは出社に対する「意義」を重視するだろう。彼ら彼女らは大学3年生の時にコロナ禍に入ったためオンライン授業にも慣れており、すべてを対面で行う必然性を感じてはいない。

「これは対面がベスト」「これはリモートがよい」と、双方を取捨選択する感覚が研ぎ澄まされている。ただただ「上司が決めたから出社しなさい」では納得しないかもしれない。この日はなぜ出社が必要なのか、それを翻訳して自分の言葉で語れる人が今後求められるはずだ。

自由な働き方がAI時代を生きる鍵に

コロナ禍とともに突如広まったリモートワークに対し、一般的に若手ほど肯定的で年代が高いほど出社に戻したいと考える傾向にあるのは誰もが容易に想像できる。

ただし平賀さんは「ハイブリッドな働き方を、ただ単に『リモート 対 出社』のような好き嫌いの問題だけで語ると、議論はうまくいきません」と釘を刺す。「リモートでも仕事の生産性が上がっているかどうかを検証してその上で語る必要があるのです」という。

大切なのは「生産性」が上がっているか、ということ(画像:イメージ)
大切なのは「生産性」が上がっているか、ということ(画像:イメージ)

「第4次産業革命を経て、今後あらゆる仕事がAIに取って代わられる未来がやってきます。そんな時代に『人の価値』とは何かを考えた時、やはり0から1をつくり出すクリエイティブな仕事や、過去にない何かを生み出すイノベーティブな仕事のはずです」

そこで鍵となるのが前述の「内発的動機付け」だ。外的報酬に駆動された意欲でなく、自分の心の内側から湧き出るやる気があってこそイノベーションが生み出されるという。

「新型コロナウイルスの拡大だけでなく、世界では紛争が起こるなど本当に先の見えない時代です。そこでの対応力を育むためにも『人の力の最大化』を考えていく必要がある。働き方の自由化はきっと、その一助になるはずです。今、私たちはコロナ禍によってさまざまな犠牲を払いながら、新しい時代の扉を開きつつあるといえるでしょう」

平賀充記
ツナグ働き方研究所 所長。人材開発コンサルタント/組織コミュニケーション研究家/若者キャリア研究家。著書に『非正規って言うな!』(クロスメディア・マーケティング)『パート・アルバイトの応募が殺到!神採用メソッド』(かんき出版)『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある

取材・文=高木さおり(sand)